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熱中症


「島が見えたぞォーーー!!」
「ほっ!?」



見張り台にいる男がそう叫ぶと、クルー達が一斉に騒ぎだした。
中にいた者は凄い勢いで出てきて島を眺め、それから上陸の準備を始める。
まるで遊園地についた子供のようなはしゃぎっぷりだ。
日陰で寝ていたナマエはびっくりして起き上がった。



「…あ!洗濯物!」



上を見上げると、何千という衣服が紐に吊り下げられ、風に揺られている。
ナマエは洗濯物が乾くのを昼寝して待っていたようだ。



「うん、乾いた!」



今度の島は夏島。いつの間にか太陽がギラギラ輝いていて、ナマエは額の汗を拭いた。



「よーし食料買い溜めるぞー!」
「酒もな!」



洗濯物を取り込むナマエを、はしゃいだクルー達がどんどん通り過ぎていく。



「お前は行かないのかい?」
「マルコ隊長!」



唯一ナマエの隣にマルコが立ち止まった。



「私は洗濯物を取り込んでから行きます!」
「…そうかい。ここはガラス細工が有名らしい。」
「ガラス細工…」



マルコの言葉を聞くとやる気が出たのか、ありがとうございますと言ってからテキパキと洗濯物を取り込み始めた。
どうやら早く行きたくなったらしい。マルコはわかりやすいナマエの反応に静かに笑った。











「んがッ?」



一方、エースはほとんどのクルー達が島に降りてしまった後やっと目を覚ました。
その瞬間に眩しい太陽の光が目を刺激して、思わず目を細める。
だんだんと目が慣れてくると、船が妙に静かなのに気付く。



「…島か。」



横目に大陸を見て状況を理解した。
いつもなら島が見えればすぐ飛び出して行くのに、今はそんな気分にならない。というか、起き上がることさえめんどくさかった。



「よっ……ほっ、最高記録…!」



すると、エースの視界に山のように積み重なった衣服が不安定にゆらゆら揺れているのが映った。
衣服で隠れて見えないが、エースにはすぐに誰なのかわかった。口の端をあげて、気だるい体を起こした。



「ナマエ!」
「…?」



スタっとナマエの背後に着地すると、ナマエは重たい洗濯物を倒さないように振り返った。
が、次の瞬間。



「エースたいちょ……ぉお!?」
「ッ……」



エースの体がナマエ目掛けて倒れてきた。そりゃあもう、板が倒れてくるように。
ナマエにそれを避ける運動神経なんてあるわけがなく、そのまま巻き込まれてしまった。



「ええええエース隊長!?」
「……」



ナマエが持っていた洗濯物が辺りに散らばっていく。
エースの胸板で顔面を潰されるのは免れたが、顔から下はしっかり押しつぶされた。エースを受け止めるにはナマエの体では小さすぎる。
身動きがとれなくなったナマエは必死にエースに呼びかけるが、返事もしないし、動かない。



「も、もしかして……寝てる!?エース隊長ダメですよ!寝るのは食事中にして下さい!」



ナマエはエースが寝ていると判断した。
確かにエースは食事中でさえ、会話中でさえいきなり寝だすことがあるが、自分から声をかけて駆け寄った時にまで寝るだろうか。



「ぷっ…」
「!」



ナマエが小さい力でエースの肩を揺らしていると、エースはナマエの耳元で噴き出して、その腕をやんわり掴んだ。



「お前、ほんと面白いな。」
「そんな滅相もない!」



面白そうに笑うエースに対して、ナマエはもういろいろと余裕がない。



「わりィな、ちょっと立ちくらみがして……今退く…ッ!」
「ーーーッ!?」



一度起き上がった体がまた倒れてきて、ナマエは声にならない悲鳴をあげた。
エースがとっさに肘をついたため、また押しつぶされるようなことにはならなかったが、すぐ目の前にはエースの顔。腕は捕まれたまま。
端から見れば押し倒されているようだ。
しかし幸運なことにほとんどのクルー達は島に上陸してるし、残っている者は中にいる。誤解を招く事態にはならなさそうだ。
だが今のナマエにそんなこと気にする余裕なんて無い。心臓がドキドキを通り越してバクバクと鳴っている。



「わりィ…な…」
「そそそんな滅相もない!」



さっきとまったく同じ解答だなんて考える余裕も、ナマエには無い。
目の前のエースの顔がやけに熱っぽくて、思わず凝視して自分まで熱くなるのを感じた。



「……エース隊長…大丈夫ですか?」



しかしよくよく見てみれば、エースの焦点は不安定で、肩で荒い呼吸を繰り返している。
額や首筋にはじっとりと汗が見えた。どう見ても苦しそうだ。



「ああ。ずっと寝てて…いきなり動いたからな……ただの立ちくらみだ。」



大丈夫だと言って今度こそ立ち上がったエースはやはりフラフラしている。



「…どこで寝ていたんですか?」
「そこ。」
「……い、いつから…?」
「…飯食った後だから……朝からだな。」



エースが指さしたのは休憩室の真上。とてつもなく日当たりがいい場所。
そして今は昼の3時。つまり昼食も食べずにずっと太陽に照らされていたわけだ。
これだけヒントがあれば、答えを出すのは容易い。



「エース隊長、それ熱中症です!」
「熱中症?」
「とととにかく!日陰に行きましょう!」
「おう…。」



ナマエはエースの体を一生懸命支えて日陰に誘導した。



「わ、私水と氷持ってきますから!エース隊長、動いちゃダメですよ!!」



必死な表情でそう言って走っていくナマエの後姿を、エースはぼんやりとした視界の中で眺めた。











「……うっ…おぉ!?」
「あ、エース隊長!」



エースが目を覚ましたのは、丁度ナマエがエースの首の裏の汗を拭いているときだった。
壁にもたれたエースを抱え起こす必要があったため、抱きしめられているような体勢になっていたのだ。
いきなりの展開に一人慌てるエースに対して、ナマエは屈託のない笑顔を向けた。



「よかった、気が付いて……お水どうぞ。」
「あ……ああ、サンキュ。」



ナマエから水を受け取って、熱中症だと言われたことを思い出した。
あっという間に水を飲み干してしまって自分でも驚くほど、水分が足りていなかったらしい。



「熱中症になったときはとにかく水分をとって、それから血管を冷やすといいですよ。」



言われて、エースは自分の両脇に氷のうが挟まっているのに気付いた。冷たくて気持ちいい。



「悪いな、何から何まで。」
「いいえ!あとはしっかり汗を拭かないと!」
「っ!」



ナマエは相変わらず屈託のない笑顔を向けると、タオルを絞ってエースの胸板にあてた。
エースは驚いて反射的にその手を掴んでしまった。ナマエが不思議そうにエースを見上げる。



「拭かないと風邪引いちゃいますよ?」
「じ、自分でやる…!」



エースは右下にうつむいて、ナマエの真っすぐな視線から赤い顔を隠した。
ナマエが特別な考えもなく行動してるのなんてわかっている。
が、タオル越しとはいえナマエに体を拭いてもらうという行為に耐えられる自信がエースにはなかったのだ。



「じゃあ私、何か食べれるものを探してきます!」
「いやいい。」
「で、でもエース隊長、お昼食べてないんですよ?」



エースはキッチンに行こうとするナマエの手を掴んだ。



「島に行こうぜ。…一緒に。」
「!…はい!」







■■
熱中症なんかで倒れないとは思いつつ。






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