OP | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



風邪




「38.2℃……風邪ね。」



ナマエちゃんが赤い顔をしてフラフラ歩いていたものだから呼び止めて熱を測ってみたら……この通り。
やっぱり風邪を引いていたわ。それも38℃以上なんて……相当な熱じゃない。よくもまあこんなになるまで我慢してたわねぇ。



「ま、まじですか…!今日のお洗濯どうしよう…」
「そんなの他の雑用に任せてアンタは寝るの!」
「あいたっ」



こんな熱を出してまでお洗濯の心配だなんて、ナマエちゃんらしいわね。
だけどミランちゃんの言ったとおり、ちゃんと休んでもらわなくちゃ。
ナマエちゃんは何でも頑張りすぎなのよ。まあ、それがナマエちゃんのいいところなんだけどね。
…申し遅れたけど、今回は私、ナースのエリザがお送りするわ。











「エリザさんありがとうございます……ごめんなさい……」
「ふふ、謝らなくてもいいけど、早く治してね。」
「はい……」



布団の中でしゅんとするのは1ヶ月程前からこの船で雑用をしているナマエちゃん。
ちっちゃくて素直で小動物みたいで、すっごく可愛いの。
私を始めとしてナース達は妹ができたみたいだと可愛がってるわ。
ナマエちゃんの少し前に入ったミランちゃんも妹ポジションだけど、ナマエちゃんの場合……ううん、何て言ったらいいのかしら……ペットに近い感じ?…あら、貶してるわけじゃないのよ。



コンコン



「どうぞ。」
「よォナマエ!風邪引いたんだって?」
「サッチ隊長!」



医務室にやってきたのはサッチ隊長。
毎日一回は何かしら理由をつけてここに来てはお喋りだけして帰っていく。ちょっと迷惑なのよね。
でも今日はナマエちゃんのお見舞いに来てくれたみたい。フルーツが入ったバスケットを持ってる。



「フルーツなら食えると思ってよ。何か食いたいモンあるか?」
「わ、ありがとうございます!桃がいいです!」
「うし!食欲あるんなら大したことねェな!たくさん食って力つけろ!」
「はい!」



サッチ隊長は入ったばかりの時からナマエちゃんを気にかけてくれている。
普段はヘラヘラしてる人だけど、エース隊長の時といい、面倒見はいいのよね。



「ナマエちゃん食べられる?食べさせようか?」
「へ!?やややそんな、私なんかがそんないい役回りを…」
「全くだ!エリザ、おれなんだか頭が痛くなってきた!」
「海に飛び込めば治るんじゃないですか?」
「荒療治!!」



…こういうところがなきゃ、本当にいい人なんだけど。
もしかしてこの人、ナマエちゃんのお見舞いを口実にしてここに居座る気じゃないでしょうね…。



コンコン



「…どうぞ。」
「よォナマエ、大丈夫かい?」
「マルコ隊長!」



サッチ隊長に続いてマルコ隊長まで………ふふ、隊長が2人もお見舞いに来ちゃったわ。



「なんだよマルコ、今日出かけるんじゃなかったのか?」
「いや…ナマエが風邪引いたって聞いたからちょっと寄ってみたが……大丈夫そうだねい。」
「はい、元気です!」
「元気じゃないでしょーが!」
「あいたっ」



38℃という高熱を出しておきながら元気だと主張するナマエちゃんをミランちゃんが小突いた。この2人っていいコンビよね。
確か明日には次の島に着くって言ってたから、下見にでも行くのかしら。飛行能力があるマルコ隊長にしかできないことね。
それを遅らせてまでナマエちゃんのお見舞いに来るなんて……マルコ隊長もヒヨちゃんのこと気にかけてるのね。



「何か欲しいモンあるかい?ついでに買ってくるよい。」
「いえ、そんなお気遣いなく…」
「あ、のど飴を買ってきてくださる?そんなに酷くはないけど、一応。」
「お安いご用だよい。」
「ありがとうございます。申し訳ないです…」
「申し訳ないと思うなら早く治すことだよい。ナマエがいないと調子狂う奴が多くて困る。」
「ああ、全くだ。」



マルコ隊長の言った通り、甲板でナマエちゃんが洗濯物を干してる光景はもう見慣れたものだから、
ナマエちゃんの姿が見えないと何か違和感を感じちゃうのかもね。
実際にサッチ隊長とマルコ隊長は心配で、ここまで来ちゃってるんだから。



「ナマエ、今日はおれがつきっきりで…」
「ああ、あとこのバカ回収するよい。」
「えええ!?」
「そうしてくださると助かるわ。」



マルコ隊長はずっとここに居座ろうとするサッチ隊長を引っ張っていってくれた。
こういうところが素敵なのよね、マルコ隊長って。髪型変だけど。



ドンドン



「ナマエ風邪引いたの!?」
「ハルタくん……」



マルコ隊長たちと入れ替わりにやってきたのはハルタ隊長。
一応ノックはしたものの、返事を待たずに入ってきちゃって……まあ、今回は許しましょう。
それだけナマエちゃんのこと心配してたってことでしょう?
この2人って歳も近いし、すごく仲良しなのよね。喧嘩は絶えないみたいだけど。



「…なんだ大丈夫そうじゃん!心配して損した!」
「な、何それ…」
「風邪引いた時はさ、汗かけばいーんだって!だからさ、コックにキムチ鍋作ってもらおうよ!」
「えええ…」



安直すぎる考えに思わず笑ってしまった。あらあら、ミランちゃんは呆れ顔ね。ナマエちゃんも反応に困ってるみたい。



「ハルタ隊長、ダメです。」
「え?何で?」
「食欲が無い人のことを病人っていうんですよ。」
「そうなの?じゃーどうしたら元気になるんだよ?」
「安静にしてるのが一番。お気持ちだけいただくわ。」
「…じゃー寝ろ!そんで早く元気になれよ!」
「ハルタくん……」



なんだかんだいいつつも、ハルタ隊長もナマエちゃんのことは大事にしてるのね。
ふふ、微笑ましい光景だわ。



「じゃねーとイタズラする相手がいなくてつまんないし!」
「なっ…ハルタくんのバカ!」
「ナマエよりバカじゃないし。」



またいつもの口喧嘩が始まりそうになったから、私はハルタ隊長をやんわり追い出した。
まったくもう…。ハルタ隊長って好きな女の子に意地悪しちゃうタイプなのかしら。
まあ私が見た限りハルタ隊長にもナマエちゃんにも、お互い恋愛感情はないんだろうけど。
あら、何故わかるかって?女の勘よ。当たるのよ、コレ。
そうね、今ナマエちゃんに恋愛感情を抱いてるのはハルタ隊長じゃなくて………



バン!



「ナマエ大丈夫か!?」
「エース隊長!」
「エース隊長、ノックぐらいしてください。」



ノックもなしに入ってきたエース隊長は珍しく深刻な表情でベッドのナマエちゃんに近づいた。



「熱があんのか!?どっか痛いのか!?死ぬのか!?」
「お、大袈裟ですエース隊長…」
「おれは風邪引いたことねェからわかんねェけど……すげー辛いんだろ!?ビスタに聞いたら相当ヤベェって言うじゃねーか!」
「えええエース隊長風邪引いたことないんですか!?」
「この船じゃ多い方よ。」
「ど、どんだけ健康なんですか…」



エース隊長のこの慌て様……ビスタ隊長からあること無いこと吹き込まれたわね…。
エース隊長を始めとして、この船の人たちのほとんどは病気とは無縁。
だから私達のお仕事といったらたまに戦闘で傷ついた人を手当するくらい。
まあその分船長の診察に集中できるからいいんだけど。



「死ぬことはないので静かにしてくださいね。」
「そ、そうか…ならいいんだ…。」



私がそう言うと、エース隊長は心の底からほっとしたように息をついた。
ふふ、そんなにナマエちゃんのことが心配だったのね。
最近のエース隊長は暇があればナマエちゃんに構っていて、たまに顔を赤くしている。
誰がどう見てもナマエちゃんに恋してるのに、当の本人が気づいてないっていうんだから呆れちゃうわよね。
私としては妹みたいなナマエちゃんと、弟みたいなエース隊長がくっついたらすごく素敵だと思うの。



「エース隊長にこんなに心配してもらえるなんて、ナマエちゃんは幸せ者ね。」
「なっ…」
「はい、嬉しいです!」
「!!」



ほら、今の言葉にだってこんなに赤面しちゃって。ここまで顕著なのにどうして気づかないのかしら。
いっそ私から伝えてやりたいと思っちゃうけど、それじゃあダメよね。
少しずつ…少しずつ、2人の距離が近づくのを見守らなくちゃ。
…ちょっと席を外して2人きりにしてみようかしら……



バンッ!



「ナマエ大丈夫か!?薬はちゃんと飲んだのか!?おれを置いて死なないでくれーーー!!」
「イ、イゾウ隊長………」



…と思ったけど過保護すぎる保護者が来ちゃったから無理ね。






next≫≫
≪≪prev