18
「あーーー…」
次の島を目指して出航したサボの船の上でディルは項垂れていた。
目線の先にはもう米粒ほどほどに小さくなったタイニ島。
「ミリア〜…」
離れた島を見て想うのはミリアのことだった。
呪いを解くためと勢いよく出てきたはいいものの、やはり島に置いてきた恋人のことは気がかりでしょうがない。
「そんなに喚くなら残ればよかったじゃねーか。」
そんなディルに後ろからサボが話しかけた。
「あの子は虎の姿も受け入れてくれただろ。」
「…わかってねーな。おれはあいつを抱きしめたいんだよ。」
「……」
確かに虎の姿を受け入れてもらえたことは嬉しい。
呪いのせいで嫌われるかもしれないという心配はなくなったが、ディルにとって大事なのはむしろもうひとつの理由の方だった。
「お前だって気持ちわかるだろ?」
「…は?」
「は?ナマエを抱きしめたいとか思わねーの?」
「……何でだよ。」
「…ふーん?」
ディルに言われてサボは一瞬ドキリとした。
しらばっくれてみたものの、その気持ちには確かに心当たりがあったのだ。
「おいナマエ!」
「?」
そんなサボを横目に、ディルは洗濯物を運ぶナマエを呼んだ。
「!」
「ちょ、何するんですか!!」
「ちなみに、呪いを受けたエト族同士なら抱き合っても変身しない。」
そして近づいてきたナマエに後ろから抱きついてみせた。それはサボに見せつけているかのように。
ディルの説明通り、異性であるにも関わらずお互いが変身しないのは物憑き同士だからだ。
「だから何なんですか!」
「別にー?」
「おい、離れろよ。いちいち抱きつく必要ねーだろ。」
「へいへい。」
表面では至って冷静に言ったが、ディルに抱きしめられるナマエをこれ以上見たくなかったのは確かだった。
「ナマエ、ごはんできたよー!」
「ありがとうございますコアラさん!」
「……」
コアラまでナマエに挨拶のように抱きつく。
自分だけがナマエに触れられない…そう思うと何とも言えない疎外感を感じた。
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