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14

「ここか…でかいな。」


ハイアット家の屋敷は街の一番奥、小高い丘の上に街を見下ろすように聳え立っている。
さすが貴族の家。敷地はかなり広く、ディルの一件もあって周囲には警備員と海兵がうじゃうじゃいる。
正直サボとディルなら強硬突破することも可能だ。
しかし中にはおそらくミリアがいるし、まだ密売に関しての決定的な証拠も掴んでいない。下手に暴れることはできない。


「…あの!サボさん…失礼します…!」
「!?」


ボフン!


すると何を思ったか、ナマエが大胆なことにいきなりサボに抱きついた。
もちろん煙があがり、ナマエはウサギに変身した。


「へー、ウサギだったのか。」
「私のこの姿なら気付かれず侵入できます!」


確かに、ウサギの姿ならこの厳重な警備をくぐり抜けられるかもしれない。
しかし、リスクが0というわけではない。


「きっと、ミリアさんを連れ出してみせます!」
「…わかった。これ巻いとけ。」
「?」


できればあまり一人で行かせたくはないのだが、この場合は確かに他に方法が思いつかない。
サボは渋々了承して、ナマエの首元に自分がつけていたスカーフを巻いた。


「いつ人間に戻るかわかんねーんだろ?まあ…気休めだけど。」
「! ありがとうございます。」


最初は理由がわからなかったナマエだが、サボの言葉を聞いてハッとした。
ウサギの姿で侵入できたとしても、変身が途中で解けてしまう可能性が高い。
その時のために、サボは身体を隠すものとしてスカーフを巻いてくれたのだ。
ナマエはサボの紳士的な気遣いに感動した。


「ミリアの部屋は2階の東側…あそこだ。」
「行けるか?」
「はい!」











ナマエの目論見通り、ウサギの小さな体のおかげで警備に怪しまれることなく、ディルに言われた2階の東側の部屋まで辿り着いた。


「ううっ…」


部屋は間接照明のみで薄暗く、女性のすすり泣く声が聞こえてくる。
ナマエはベッドの上にその声の主を見つけ、鼻先で腕をつついた。


「ウサギさん…?ふふ、迷い込んでしまったの?」


ミリアはウサギの姿を見てきょとんとしてから、微笑んでその体を抱き上げた。


「ウサギさん聞いてくれる?私、好きな人がいるの。」
「……」
「その人は明るくて、元気で、少し…不器用だけど優しくて…。家にこもりっきりだった私に色んな事を教えてくれた。」


ナマエをただのウサギだと思い込んだミリアは好きな人…ディルのことを話し始めた。
ナマエは何を言わず聞いている。


「あの人のためだったら私、身分を捨ててもいいの。ずっと、そばにいたかった…!」


話すうちに感情がこみ上げてきたのか、ミリアの瞳から再び涙が溢れだす。


「でも…そう思っていたのは、私だけだったみたい…」
「それは違います。」
「えっ!?」


自分の話に反応する声が聞こえて、ミリアは不思議そうに辺りを見回した。
この部屋には自分と、ウサギしかいないはずだ。
もしかし…ともう一度ウサギに目を向けた時。


ボフン!


「彼はきっと怖いんです…。本当の、自分の姿を見られるのが…。」
「えっ!?あれ?」


変身が解け、人間の姿に戻ったナマエフィオナが現れた。
突然現れたナマエに、ミリアは頭がついていかなくて戸惑っている。


「ウサギさんが、人間に…?」
「ナマエと申します。…この屋敷から逃げましょう!」
「!」


ナマエは力強くミリアの手を握った。


「あ、あと…着るものを貸していただきたい…です…。」


そしてか細い声で付け加えた。






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