OP | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



13

翌朝。
話は明日だと言われたものの、いつどこに行けばいいのかは全く知らされていない。


「どうしましょうか…。」
「とりあえず街から出てみるか。」


少なくとも、これだけ手配書が貼られている街中には現れないだろう。
2人は街の出口に向かって歩いた。


「何故そんなことを言うのですか!」


その途中、語調を荒げる女性の声が聞こえた。
痴話喧嘩かと見てみると、橋の下で何やら言い争いをしているような男女を見つけた。


「あ…!」


男の方はなんと今まさに探しているディルだった。
更にナマエは相手の女性にも見覚えがあった。昨日路地裏でぶつかった女性だ。
白いワンピースに身を包み、上品でどこか儚げな印象を受ける。


「お前も見ただろ。おれはお前の親父を殴って街中のお尋ね者だ。これ以上ここにはいられねェ。」
「あれは私のために…!」
「今こうやって会ってるのも、バレたらやべーだろ。」
「…父の暴力なんて怖くない!あなたと会えないということの方が私は…!」
「ミリア…」


ディルは詰め寄る女性に対してぶっきらぼうに返すが、彼女を見る目る瞳は慈愛に満ちている。


「何故…何故、一緒に連れて行ってくれないのですか!?何故ッ、この手を握ってくれないのですか!?」
「っ…、今は…できねェ。でも!絶対戻ってくる!そんでお前を連れ出してやる!もう少しだけ…」
「待てません!何故、今じゃダメなんですか…?」
「……」


最後は消え入りそうな声で俯いてしまう女性。
ポタポタと地面に涙の跡ができていく。
ディルは口を結んで黙ってしまった。


「お嬢様ー!どこへ行かれたのですかー!?」


まるで映画のワンシーンのような状況にサボもナマエも見入ってしまっていると、その沈黙を破ったのはスーツの男だった。
おそらく「お嬢様」というのはディルの目の前にいるミリアと呼ばれた女性のことだろう。
女性はパッと顔を上げたが、その場を動こうとしない。


「…行けよ。」
「嫌です。」
「っ、行け!!」


動かない女性に向かってディルが声を荒げた。
女性はひどく悲しそうな顔をして大粒の涙を流しながら走っていった。


「っ…」
「いいのか?」
「…見てたのかよ…。」


女性が去ってから、唇をかみしめるディルにサボが声をかけた。
ディルはバツが悪そうに視線をそらす。


「あの子、貴族の娘か。」


サボの問いかけにディルは顔だけ縦に動かした。


「あの子はお前と一緒にいたいようだったが?」
「っ、そんなの!おれだって…!」
「じゃあ…」
「わかります。」
「!」


サボとディルの会話にナマエの優しい声が入り込んだ。


「あの子のことが大切だから…怖いんですよね。呪いを、知られるのが…。」


同じ物憑きのエト族だからこそ、ナマエにはディルがあんな態度をとった理由がわかった。
2人がお互いに愛し合ってることは誰が見ても明白。
それでにディルはミリアを突き放さなければいけない理由があるのだ。


「……くそッ!こんな体じゃ、愛する女を抱きしめることもできねェ…!!」
「……」


ぶつけどころのない怒りやもどかしさが、ディルのぎゅっと握った拳に現れる。
エト族の物憑きであるディルがミリアを抱きしめたら、もちろん虎の姿に変身してしまう。
愛しているからこそ、呪われた姿を見られたくないのだ。
ディルが特異体質のことを「呪い」と表現する理由がなんとなくサボにもわかった。


「相手はハイアット家か?」
「! 何で知ってんだよ。」


ハックの情報によるとこの街を仕切っている貴族はハイアット家のただ一門。


「あの子の包帯…暴力を受けているのか。」
「…ああ。あいつの親父が裏であくどいことやってんのは知ってんだ。だけど証拠がねェ…!しかも今のおれは貴族を殴ったお尋ね者。聞く耳もねェだろうよ。」


走り去るミリアを見てサボに引っかかったのは、ミリアの腕や足に巻かれた包帯。
その量はちょっと転んだ程度のものではなくて、貴族の娘にしては異常だった。
会話の中にも「父の暴力」という言葉があった。
そして、ハイアット家は今回革命軍のサボ達がターゲットとするところ。


「おれは革命軍のサボ。おれの目的も同じだ。」
「!」
「ぶっ潰してやろう!」


サボはニカッと少年のような笑みを浮かべてディルに手を差し伸べた。






next≫≫
≪≪prev