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「悪かったよ、抱きついても変身しねーから男かと疑っちまった!」
「あの、もうちょっと離れて歩いてくれますか。」


やけに距離が近い男が街まで案内してくれるらしいが街までは一本道。特にありがたくもなかった。
先程の一件があったせいでナマエはかなり警戒心を抱いているようで、サボを盾に歩いている。


「んな警戒すんなって。同じ物憑きじゃねーか!」
「物憑き…?あんたもエト族ってことか?」
「そーゆーこと。おれはディル。虎の物憑きだ。」


これでようやく謎が解けた。
男がナマエに抱きついたのは虎に変身するためだったのだ。
しかし動物に変身できるエト族同士の場合、異性であっても抱きついても変身しない。


「あんたは?何の物憑きだ?」
「…別に何でもいいじゃないですか。」
「んだよつれねーな。どーせ草食動物だろ?」
「……」
「なあ、さっきから“物憑き”って…」


サボが気になったのは、ディルが繰り返し使う「物憑き」という言葉。


「エト族の中でも動物の呪いを受けたヤツのことだよ。」
「呪い…?」
「そうさ。呪いだよ、こんなもん。」


サボが読んだ文献では、動物に変身できるエト族は周囲から神に近い者として敬われたと書いてあった。
「呪い」や、「憑く」といったマイナスの表現をするのが意外に思ったのだ。
ナマエも特に否定をする様子はない。


「何で海兵に追われてたんだ?」


あまり深くは追求しない方がいいと判断したサボは話題を変えた。


「貴族のおっさん殴ったからな。」
「何でそんなこと…」
「そんなことよりよ、あんた、この呪い…解きたいと思わねーか?」
「!?」


しかしそんな気遣いも空しく、ディルに軽くかわされてしまった。
その後ディルの口から出てきた言葉にナマエが大きく反応した。


「…そんなことができるんですか?」
「ああ。ある情報屋から聞いた。詳しい方法はわからねーけど、この呪いを解けるヤツがいるらしい。」
「…!」


なんせエト族のこの特異体質を治す方法があるというのだ。
そんなこと考えたこともなかった。
もしも呪いが解けたら、追われる生活から解放される。
分厚い眼鏡で瞳を隠さなくてもいいし、背後の気配に怯える必要もなくなる。
ナマエはそんなことを考え込んでしばらく言葉を失った。


「お、街についたな。おれはお尋ね者なんでうろつけねェ。この話は明日しようぜ。」






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