10
「ナマエ、島が見えたぞ!」
「本当ですか!?」
ライシン島を出てから4日後、サボ達が目指していたタイニ島が見えてきた。
ナマエはこの島でお別れだ。
思い返してみると、人攫いチームに捕まったのを助けられて、更に別の島まで送ってもらえるなんて奇跡に近い。
常識が通用しないグランドラインを無事航海できたこともかなりすごいことなのだ。
「サボさん、本当にありがと…」
「まだ早いって。街まで送る。」
「! ありがとうございます!」
こみ上げてきた感謝の気持ちを口にしようとしたらまだ早いと止められた。
仲間と合流するという目的があるにも関わらず自分を優先してくれるサボに、やっぱりナマエは感謝しかなかった。
「私は船に残ってハックに連絡入れとくね。サボくん、ナマエは任せたよ。」
「了解。行くか。」
「はい!」
船を浅瀬にとめて島に上陸する。
街は中心にあるため、港と言っていい程のものは無く辺りは閑散としていた。
街に向かうには森の中、舗装された道を通って行くらしい。
「…!」
「どうした?」
「何かが…来ます…!」
森への入り口付近でナマエが足を止めた。
どうやらその優れた聴覚が何かの音を捉えたようだ。
サボも意識して探してみると、森の中から複数の人間が走ってくる姿が見えた。
サボはナマエを庇うように前に出て様子を窺う。
「待てーーー!!」
「貴様、ただで済むと思うなよーー!」
人数は3人。どうやら2人の海兵が1人の男を追っているようだった。
そういうことならサボやナマエには関係ない。…と、思ったのだが…
「お!ちょうどいい、女だな…!」
「へっ…」
通り過ぎるだろうと思った追われる男は、何故かナマエの方に向かってきた。
その顔にはニヤリと悪そうな笑みを浮かべている。
そしてなんと、そのままの勢いでナマエに抱きついたのだ。
「なっ…!?」
「あ!?何で…」
勢いに負けて地面に押し倒されるナマエ。
男も同様に倒れこみナマエに馬乗りする状態となった。
いきなりの展開についていけないナマエとサボに不思議そうに自分の体を眺める男。
「一般人にまで手を出しやがった…!」
「大丈夫ですかー!?」
「ちっ…まあいい、このまま蹴散らすか。」
そうこうしているうちに追ってきた海兵たちがすぐそこまで迫ってきていた。
男は逃げるのをやめ、海兵たちに向かって拳を構えた。
「大丈夫かナマエ!」
「は、はい。でも、何で…」
「……!」
呆然とするナマエを見てサボもハッとした。
今、この男はナマエに抱きついた。それなのにウサギに変身しなかったのは何故か。
その理由はナマエにもわからないようで、不思議そうに自分の体を見つめている。
「ハッ!おれを捕まえてーなら大佐くらい連れてこいっての!」
もう一度男に視線を戻すと、ちょうど海兵2人を倒したところだった。
なかなか腕っぷしは強いようだ。
「さて…」
ひと段落ついたところで男がこちらに向き直った。
男が何者かはわからないが、海兵に追われていたということは世間一般的に見ていい人の部類ではないのだろう。
「……」
「あの…」
男は一歩ずつナマエに近づき、上から下までじっくり見つめてくる。
ナマエは居心地悪そうに身じろぐが逃げ場はない。
そして次の瞬間。
「ひっ…!?」
あろうことか、ナマエの胸を触ったのだ。
予想もしなかった男の行動を、ナマエはもちろんサボも阻止できなかった。
男はナマエの控えめながらも女性特有のそのふくらみを確認して、何やら考えている。
「本物の女か…おっと!」
「何なんだよお前!」
「悪かったよ兄ちゃん、アンタの女か?」
「ち、ちげーよ!」
男はサボの攻撃を交わし、悪びれる様子もなく軽く謝った。
「お前、エト族か?」
「!?」
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