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09

ナマエがサボ達の船に乗って3日目。
次の島まではあと1日くらいかかるらしい。
最初は久しぶりの航海で新鮮な気分だったが、慣れというものは怖いもので。
もう煌めく海面を見ても特別感動するようなことはなくなった。
そして海の上というものは、いかんせんやることが限られる。
ナマエはコアラから借りた本を読んでいたが、ずっと同じ姿勢で文字を追うのもそれなりに疲れる。
少し体を動かすため甲板に出ると、サボが海面と睨めっこしてる姿を見つけた。


「何してるんですか?」
「ん?釣りだよ、釣り。」


近づいてみると、サボの手には釣り竿が握られていて、糸の先は海の中に沈んでいる。


「釣り…私もやっていいですか?」
「ああ。今日の晩飯はコレにかかってるからな!」
「頑張ります!」


さっきまで活字を追っていたナマエにとっていいリフレッシュになるだろう。
サボから新しい釣り竿を渡され、見よう見まねでその糸を海に放った。
今までに釣りをしたことはなかったが、なんとなくの知識でひたすら待つことは知っていたナマエはサボの隣に腰をおろした。


「サボさんはお魚が好きなんですか?」
「おれは何でも食うよ。でもやっぱ肉が一番好きだな。」
「ふふ、いっぱい食べてコアラさんに怒られてましたね。」
「ナマエは?」
「私は野菜の方が好きです。ニンジンとか…」
「野菜だけじゃ腹は膨れねーよ。」
「そんなこと…ふぁ!?」


のんびり、他愛もない話をしていると急にナマエの釣り竿が引っ張られた。
どうやら獲物が食いついたらしい。


「かかったな!」
「わわ、サボさんっ、どうしたら…!?」


かかったはいいものの、釣り初体験のナマエはこの後どうすればいいのかがわからずサボに助けを求めた。


「引け!とにかく引くんだ!」
「んっ…!つ、強いです…!」
「交代しようか?」
「お願いします!」


言われた通り力いっぱい引いてみるが、ナマエの力では魚が引っ張る力に負けてしまう。
晩御飯がかかっているのだ、ここはどうしても逃がしたくない。


ザパァ!


サボに交代すると、ものの数秒で魚を引っ張り上げてしまった。
水しぶきとともに3メートル程の大きな魚が甲板に打ち上げられた。


「すごい…!」
「よし!これで今日の晩飯はなんとかなるな!」
「はい!」
「ナマエのおかげだ。ありがとな。」
「…えへへ!」
「!」


サボがナマエの頭をよしよしと撫でると、ナマエはとても嬉しそうに笑った。
その笑顔は今までに見たことがなく、あまりにも幸せそうなその表情に思わずサボは固まった。


「すごーい!大きいの釣れたね!」
「はい!サボさんが釣ってくれました!」


そこに大きな物音を聞いてコアラが中から出てくると、ナマエは嬉しそうに彼女に駆け寄る。


「ナマエの竿にかかったんだ。」
「へー!ナマエお手柄だね!」
「えへへ!」


コアラがナマエの頭を撫でると、それはそれは嬉しそうに頭を差し出して微笑むナマエ。
2,3往復では満足しないのか、ずっと頭を差し出し続ける。


「……」
「サボくん知らないの?ナマエ頭撫でられるの好きなんだって。」
「こ、これは!ウサギの本能だから仕方ないんですっ!」
「…へー。」


先程の表情が自分だけに見せたわけじゃないと知ったサボはなんとなく悔しく思った。






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