20:風邪
久しぶりに風邪を引いた。実に2年ぶりの風邪は思っていたよりもしんどい。風邪ってこんな感じだったなあ。
「まったく……僕に風邪を引くなと言っておきながら名字さんが風邪を引いてたら世話ないですね。」
ここで聞こえるはずのない声が聞こえて、いるはずのない男が私の部屋の中にいた。
「……いや何でいるの。どうやって入ったの。」
「真正面から堂々と。お母様が快く入れてくれましたよ。」
「あのイケメン好きめ……。」
さすがに不法侵入をするような人ではなくてよかった。いや、私の許可を得ていないから不法侵入のようなもんだけど。きっとお母さんに外面良く挨拶したんだろうな。私のお母さんは騙されやすいからチョロかったことだろう。
「思ったより大丈夫そうですね。」
「うん。明日は多分学校行ける。」
「それは良かった。」
六道くんの態度はいつもと同じ感じだけど、心配してくれたんだろうか。だとしたらちょっと嬉しいな。
「……そういえば六道くんに会うの久しぶりだね。」
「今日戻ってきました。」
久しぶりに会うから喜んでしまってるのかも。なんだかんだ言って私は六道くんのこと好きなんだなあ。
「どこ行ってたの?」
「イタリアに。」
「え、何それ行く前に教えてよ。お土産頼んだのに。」
「図々しいですね。」
「私と六道くんの仲じゃん。」
「……どんな仲ですか。」
「知り合い。」
「それ別に親密な仲ではないですよね。」
旅行でイタリアとか何なの六道くんセレブなの?薄々感づいてはいたけど。
「いいなー。私一生のうちに絶対ヴェネツィア行くって決めてるんだ。」
「それはまた何でですか?」
「…なんとなく。でも行きたいの。」
「……そうですか。」
イタリアには勝手に憧れを抱いている。なんかお洒落じゃん?好きなブランドもいっぱいあるし、向こうに住んでもいいとさえ思っている。
イタリアに行く時は六道くんにいろいろ教えてもらおうかな。
「なんか眠くなってきたから帰ってよ。」
「僕のことは気にせずどうぞ寝てください。」
「いや無理でしょ。私が寝てる隙に勝手に日記とか見そう。」
「日記なんてつけてるんですか?」
「つけてないけど。」
「……」
ていうか風邪引いた女子の部屋に勝手に入るなんて普通はアウトだからね。部屋着で髪ボサボサでノーメイクな姿なんて男の子に見せたくないっていうのが乙女心だ。
相手が私だから許されてるってことをしっかり理解していただきたい。
「病気を治すには体を休めるのが一番です。Buona notte.」
六道くんの優しい声色を最後に、私の意識は途絶えた。
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