19:犬に追われる男子
「ワン!ワン!」
「あ、ちょ……」
帰宅途中、犬に飛びつかれた
おそらく私が買い食いしていたたい焼きがお目当てだろう。私の腰に手をおいて器用に二本立ちでおねだりしてくる。くそう、可愛いなこいつ。でもあげるわけにはいかない。これは私の月5000円の大事なお小遣いで買ったんだ。私の血となり肉となるのだ。
「まあステファニー何をしているの!」
そんな攻防戦を犬と繰り広げていたら飼い主さんが来てなだめてくれた。他人がとやかく言うことではないけど、よく柴犬にそんなバリバリの洋名つけましたね。
「ふう……助かった。」
「あの……ありがとう。」
「え?」
犬との攻防がひと段落したところで知らない男の子にお礼を言われて意味がわからなかった。かっこつけてるわけでもなく、本当にお礼を言われるようなことはしていない。
「あの犬に追いかけられてて……。君の方に行ってくれたから助かった。」
……なるほど。この少年は私の前に犬にターゲットとされていたのか。意図せず私が生贄となってしまったわけだ。まあ……こんな私でも人の役に立てたのなら良かった。
「助かったって割にはボロボロだけど……」
「……これは転んだ。」
男の子の顔には絆創膏が貼ってあって、学生服も汚れている。見た限りでは全然助かってない。
ぐううう
「……」
「……」
男の子のお腹の音が聞こえた。何だろう、この子は大人しそうに見えて実はわんぱく小僧なのかもしれない。
目の前でお腹を空かせたいたいけな少年。たい焼きを持つ私。
「……ちょっと食べる?」
「いいの……?」
これで無視して別れたら私すごい嫌な奴みたいじゃん。なけなしの良心が騒いで自分のたい焼きを少し分け与えると申し出てしまった。半分あげると言えなくてごめんね。ちゃんとあんこが詰まってるところあげるから。
「……おいしい。ありがとう。」
「……」
冷めきったたい焼きを少年は幸せそうに噛み締めた。何だろう、胸の奥がじんじんする。これが母性本能という奴か。口の端に食べかすつけちゃって……何だこの可愛い男子学生は。
「もう一口食べる?」
「……ありがとう。」
……猫飼いたい。
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