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04:二人目



「おはよーございます10代目!!」
「………」


午前9時。名前が玄関の扉を開けると、そこには獄寺が立っていた。











「どこに行くんですか?」
「ちょっと港まで…。」
「港?」


いつもなら名前はこの時間、畑の手入れに向かっているはず……という情報をリボーンから得ていた獄寺は、畑とは逆方向に向かう名前を不思議に思った。聞いてみれば港に行くのだという。


「……2週間前に漁に出た漁船が帰ってくるの。」
「…なるほど!その漁船を奪うんスね!」
「違うから!!」


ナミモリ町は港町。漁業を町の経済の中心としている。
したがって漁師たちはこの町を支える男として、町民から絶大な支持を得ている。
長期の漁に出ていた船が帰ってくるということで、彼らを迎えるべく名前の他にも多くの人々が港に向かっていた。


「その漁船にね、幼馴染が乗ってるんだ。……最近はあまり話さなくなっちゃったんだけど。」
「………」


獄寺は名前の横顔が少し寂しそうに苦笑したのを見たが、気の効いた言葉は出てこなかった。
とにかく別の話題に切り替えようと口を開こうとした時、甲高い黄色い声に遮られてしまった。


「キャーーー!!」
「武ーーー!!」
「よく帰ってきたなァ!」


一本道を抜けて港に出るとそこはすごい人だかりだった。
丁度漁船が港に着いたところらしく、船から降りてくる漁師たちを家族や友人などが温かく迎える。
…それにしても、やけに女性が多い。彼女たちは頭に「武」と書いたハチマキを巻いていたりうちわを持っていたりする。
これじゃあまるでアイドルのコンサートのようだ。


「あのっ、これ……受け取ってください!」
「ハハ、サンキューな。」


彼女たちの目当てはすぐにわかった。
女性の集団の中で一人背の高い男が爽やかな笑みを浮かべている。
彼の名前は山本武。この町の最年少の漁師で、その容姿と性格から町の女性から絶大な支持を得ている。
名前はその男の姿を確認すると安心したように胸を撫で下ろし、そのまま踵を返した。


「……10代目、いいんですか?」
「…うん。一目見たかっただけだから。」


やはり寂しそうな表情を浮かべる名前に、獄寺は何も言えなかった。
しかし名前をこんな顔にさせているのは十中八九、視線の先にいたあの男が原因なのだ。
獄寺は女性に囲まれて人当たりの良い笑みを浮かべる男を一瞥し、名前の後を追った。










その日の夜、名前は森の奥の丘に来ていた。
昔…名前がまだ10歳の頃、幼馴染の少年と森で遊んで、夕方になればこの丘に来て海を眺めたものだ。
少年は意志の篭った瞳で海を見つめ、いつか島を出てこの海を航海したいと言っていた。
名前は小さい頃も今もこの島から出るといった考えはなくて、仲良しの幼馴染がいつか自分の傍から離れてしまうのだと悲しく思ったものだ。
7年経った今、結果的に彼はこの島から出てはいない。しかしそうでなくても距離ができてしまうのを知った時にはもう遅かった。


「名前。」
「ひっ!?」


膝を抱えて海を眺めていると低い声に名前を呼ばれ、驚いて振り返ってみれば懐かしい姿があった。
こうやって名前を呼ばれるのも、こんな近い距離で視線を交えるのも、何年ぶりか……わからない程時間は経っていた。
遠目で見たときにはわからなかった、幼馴染の逞しい体や傷の痕にまた名前の胸が痛み、視線を逸らしてしまう。


「家行ったらいなくてよ、もしかしたら…って思ったらやっぱりここにいた。」
「…な、何か用だった?」
「ん、お土産渡してきた。今回はすげー大物が釣れたんだぜ!名前にも見せたかったなー。」
「……ふふ。」


ぎこちない対応をする名前に、幼馴染は昔どおりに接してくれた。
それが嬉しくて名前の表情にも自然と笑顔が浮かんできた。


「………まァ、正直に言うと名前に会いたかっただけだ。」
「!」
「ただいま。」
「…おかえり!」


長い年月が生んだ壁を実感するのが怖くて今まで逃げてきたが、どうやら意味のないことだったらしい。
昔のままの笑顔の幼馴染に、名前は今の自分ができるとびきりの笑顔で応えた。


「名前……」
「そろそろ帰ろっか。また怒られちゃう。」
「……ん、そーだな!」


小さいころは森で遊んで、丘で海を眺めていたら時間が経つのはあっという間で。
擦り傷切り傷を作って夜遅くに帰ってきては親に怒られていたのも、今では笑い話だ。


ガラッ


「!?」
「名前!!」


名前が立ち上がった時、座っていた岩場が崩れたせいで足場を失う。
暗い海に投げ出されてしまった名前を掴もうと精一杯手を伸ばすが、指先がかすっただけだった。
すると青年は何の躊躇もなく地面を蹴り、名前の体を抱きしめた。


ドボォン


夜の波に1つの影が落ちて音をたてた。













「はぁっ……名前…ッ!!」


丘のすぐ下にある海岸からずぶ濡れの山本が名前を抱えて上がってきた。
比較的波が穏やかだといっても夜の海を人一人抱えて泳ぐなんて簡単に出来ることではない。
砂浜に寝かせた名前は気を失っているが、脈はあるし息もしている。


「名前!名前!!」


それでも全く動かない幼馴染を前に、不安がどんどん膨らんでいく。
肩を揺すって必死に呼びかけても名前が起きる気配はない。


「安心しろ、気を失っているだけだ。」
「!?」


山本の視界に人の足が入ったと思ったら、すぐ近くに知らない男が立っていた。
ここまで近くに来るまで気づかない程、山本の頭は名前のことでいっぱいだった。
スーツを着こなしたその男は山本とは正反対に冷静に名前を見下ろしていた。
そのおかげか、段々と山本も冷静さを取り戻す。


「アンタは…?」
「おれはコイツの教育係だ。」
「教育係…?」


名前とはしばらく疎遠になっていたが、教育係なんて話聞いたことがない。
間違いなく目の前の男とは初対面のはずなのに、何故か男の言葉は信用できた。


「山本……お前、コイツと海に出る覚悟はあるか?」
「……!」







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