62:正直な気持ち
同時に4人に憑依した骸の力は圧倒的だった。
憑依した上に六道輪廻の能力まで使えるらしい。第二の餓鬼道により各々の技を駆使し、幻術までもが名前とリボーンに襲い掛かる。
「久々に感じる実践の空気だな。」
立て続けに繰り出される4人の攻撃をリボーンは軽い身のこなしで避けてハットの鍔を触った。
「おれは直接手ェ出さねーからな。」
「な…そんな…!」
正直リボーンが力を貸してくれればなんとかなりそうなものだが、リボーンは反撃する様子を見せない。
全ては名前の教育係として名前を鍛えるため……しかしそんなことを言っていたら最悪の事態になってしまうかもしれない。いまの名前では到底骸の力に対抗できるはずがなかった。
「クフフ……そろそろ終わりにしましょうか。」
「ひっ…!」
どさっ
「!?」
尻餅をついた名前に眼鏡の男が向かってくる。が、その途中に倒れてしまった。
「なあによくあることです。いくら乗っ取ったとしても肉体が壊れてしまっていては動きませんからね。」
「な……それって…、怪我で動かない体を無理矢理動かしてるってこと……?」
不思議そうな顔をする名前に骸が説明した。
よくよく見てみれば2人の仲間は既に雲雀にやられてボロボロの状態だ。戦えるような体ではない。
倒れた体を起き上がらせると大量の血が流れ出た。
「そんなっ…無理矢理起こしたら怪我が…!」
「クフフフ、平気ですよ。僕は痛みを感じませんからね。」
「な…!何言ってるの!?仲間の体でしょ!?」
「違いますよ。憑依したら僕の体です。壊れようが息絶えようが僕の勝手だ。」
「! そんなの……間違ってる…!」
骸のあまりにも勝手な言い分に名前は絶句した。
「自分がやられるという時に他人の心配をしている暇があるんですか?」
「君は海賊向きではありませんね。」
「あ…!」
名前の前に立ちはだかる獄寺とビアンキの体からも大量の血が流れ出ているのが見えて名前はゾッとした。
「や…やめて!このままじゃ2人が死んじゃう…!!」
「クフフフ…そういえば君はバーズとの戦いで仲間のために自分にナイフを突き立てようとしたんでしたね。」
本来であればすぐに医者にみせなければいけない重症だ。その体でこれだけ動けば相当負荷がかかっているに違いない。
「…それでいきましょう。君はその甘さゆえ僕に乗っ取られる。」
「!」
「君の仲間をこれ以上傷つけられたくなければ、逃げずにおとなしく契約してください。」
「な…!」
骸はそんな名前の心情を利用することにした。
「そんな……」
「やはり迷うのですね。君にはこの世界は似合わない……僕に体を明け渡した方が賢明ですよ。」
「……」
武器を手にした骸が一歩一歩名前に近づく。名前は尻餅をついたまま動けないでいた。
「ど、どうしよう……!」
「…名前、お前はどうしたいんだ?」
「え…」
どうすることもできず困惑する名前にリボーンが言った。
「確かにお前は海賊なんて向いてねェ。でも、お前は誰よりもボンゴレ10代目なんだ。今思ってる正直な気持ちを吐き出せ。」
「……!」
リボーンの力強い瞳に、名前の気持ちが少しずつ整理されていく。
「骸を……止めたい……。」
「!?」
「こんなひどいこと…もうさせない。勝ちたい……!!」
素直な気持ちを吐き出した名前の瞳に、もう迷いの色はなかった。
教え子の力強い言葉にリボーンは口角を上げた。
「…わかった。次の段階へ行くぞ。」
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