47:コクヨウ町
「武、これつけて!」
「そんな大袈裟だって…」
「ダメ!」
「心配性だなー。」
無事島に到着した名前達は上陸の準備をしていた。今回の島は冬島。凍てつく風が名前達の鼻を赤くする。
コートを着込むのはもちろんだが、名前は山本の顔に眼鏡とヒゲをつけている。
何故こんなことをしてるのかというと、島に到着した時のリボーンの言葉が原因だ。
「この町にはかなりやり手の海兵がいるらしいからな。お前ら気をつけろよ。」
この島にある唯一の町、コクヨウ町には大きな海軍基地がありそこの大佐がかなりのやり手らしいのだ。
海賊である名前達にとっては動きづらい町になるだろう。特に山本と雲雀は先日手配書がまわってしまっている。
「あ……雲雀さんも…き、気をつけてくださいね…。」
「…関係ないよ。」
「テメッ…せっかく10代目が心配して下さってるのに…!」
流石に雲雀にまでヒゲをつけられるわけがないので、船を降りる雲雀に一声かけたが余計なお世話だったらしい。いつものように颯爽と一人で行ってしまった。
「っくしゅん!」
「しかし寒いなー。」
「雪が積もってる!名前さん雪だるま作りましょう!」
「雪合戦もいいな〜。」
「チッ、ガキは気楽でいいぜ。」
グランドラインに入って初めての冬島だ。ランボの地域ではあまり雪が降らなかったのか、一面に積もった雪を見てはしゃいでいる。
名前の故郷でもここまで寒くなることはあまりなかったから気温の変化に体が戸惑っていた。
「名前、これをやる。」
「え…手袋?」
名前が息を吐いてかじかむ手を温めていると、リボーンが手袋を手渡した。
「レオンが夜なべして編んでくれたんだ。」
「レオンが!?」
「肌身離さず持ってろよ。」
「…ありがとう、レオン。」
「夏もだぞ。」
「夏も!?」
夏もつけるかは置いといて、確かにリボーンのハットの上にいるレオンは少しお疲れ気味だ。
名前はありがたく受け取ってレオンの頭を指で撫でた。
「待てェ〜〜〜!!」
「逃がすなーーー!!」
そして町に着いた亜未達は早速追われていた。と言っても海軍ではない。身なりからしておそらく海賊か山賊だろう。
「そのガキを渡せーー!!」
彼らの狙いはフゥ太だった。
「名前、ここはおれ達に任せろ!」
「でも…!」
「大丈夫です10代目!」
「…ありがとう!行こう、フゥ太!」
「う、うん!」
追ってくる男達の相手を山本と獄寺に任せて、名前はフゥ太の手を引いて走った。あの2人だったらやられることはないだろう。それよりもこの騒ぎを聞きつけて海兵に見つかってしまわないかという方が気がかりだった。
「ごめんよ名前姉……僕のせいで…」
「フゥ太は悪くないよ!」
「!」
自分が狙われてるせいで買い物もゆっくりできなくなってしまった。フゥ太が俯いて謝ると名前は力強く否定した。悪いのはフゥ太ではなくてフゥ太の力を悪用しようと考える大人たちだ。そうやって言ってもらえたのが嬉しくて、フゥ太は名前の手をぎゅっと握った。
「いたぞ!あそこだ!!」
「!!」
流石に人数が多くて山本と獄寺の防御壁を潜り抜けてきたらしい男が2人、後ろから迫ってきた。
名前は追いつかれないように必死に走る。しかし元々足の遅い名前では追いつかれるのは時間の問題だ。
「フゥ太はここに隠れてて!」
「で、でも名前姉…!」
「私はあいつらを引き付けるから、その間に誰か呼んできて。お願いね。」
「…わかった…!」
普段は気が弱い名前だが、守るべき相手…特に年下が後ろにいる時はどんな相手にも果敢に立ち向かうことがある。その姿を見るのは初めてではなかった。
フゥ太は力強く頷いて名前の指示に従った。
「おいガキが消えたぞ!」
「チッ…まあいい!あの女を捕まえて吐かす!」
フゥ太を物陰に隠して名前だけが出ていくと、名前の目論見通り男達は名前を追ってきた。あとはひたすら逃げるだけだ。ここ最近逃げることが多かったからか、名前の足は少し速くなっているようだ。
「きゃっ…!」
「へへ、捕まえたぜ。」
…しかしそれも以前の名前と比べてというだけの話で、足が遅いことには変わりない。あっけなく捕まってしまったが、フゥ太が逃げるだけの時間は稼げたはずだ。
「さーて、あのガキをどこに隠したか吐いてもらおうか?」
「…言うと思いますか?」
「だったら言いたくなるまで可愛がってやるだけのことだ。」
「っ…!」
精一杯強がる亜未に男が持っていたナイフを振り下ろした。ぎゅっと目を瞑る名前。
「ぐあっ!!」
「ぎゃあ!!」
来るであろう痛みは訪れず、男達の悲鳴が聞こえた。
恐る恐る目を開けてみると、目の前に男達がうずくまっていた。そしてすぐ近くに人の足。だんだんと視線を上に上げていけば、正義を掲げたマント…そして特徴的な髪型が目に入った。
「…大丈夫ですか?」
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