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46:右腕の想い


海賊ランドでは結局大してバカンスを楽しむ暇もなく出航となってしまい、名前達の船は次の島へ向かっていた。


「〜〜♪ あ、10代…」


武器の手入れを終えた獄寺がキッチンに名前の姿を見つけて声をかけようとして止めた。その隣に山本がいたからだ。なんとなく気に食わないので様子を窺うことにした。


「武、お願いがあるんだけど…」
「ん?」
「魚捌いてもらえないかな…?どうしても苦手で…。」
「お安い御用だぜ。」


どうやら料理をしていて、山本に手伝ってもらっているらしい。確かに生魚を捌くことは、今まで大した料理をしてこなかった名前には難しい。山本は料理自体はできないが魚を捌くことに関してはプロ並だ。


「ありがとう、助かるよ。」
「はは、気にすんな!いつでも頼ってくれよな。」
「うん。」
(チッ、調子に乗りやがって…。)


名前に感謝の言葉と共に笑顔を向けられた山本。獄寺はこの様子が面白くなかった。
確かに獄寺は皿洗いもまともにできないため、ここでは名前の力にはなれない。


(俺だって……)


たまたま今回は苦手分野なだけで、自分だって名前の右腕として頼りにされてるはず……そう考えたところで獄寺は気付いてしまった。


(おれって…10代目に頼られてないんじゃ……!?)


思い返してみると、名前の方から獄寺へ頼み事をしたことがパッと出てこなかった。
…というかむしろ言動を叱られたり止められたりすることの方が多い気がする。


(右腕として失格だ……!)


そして獄寺は心に誓った。もっと右腕として頼られる存在になろうと。











「ストーブ出そうかな…」
「おれはここにいます!!」
「……え?」


変に気合いの入った獄寺は率先して名前の手助けをしようとひたすら名前の近くにいることにした。そしてボソリと呟いた名前の言葉に即座に反応してみせた。
名前からしてみればいきなり意味がわからなかった。


「ストーブを出すんスね!」
「うん、寒くなってきたから…。」
「ご一緒します!」


ストーブを出すだけなのに大袈裟だ。別に手伝ってもらうことの程ではないのだが、獄寺があまりにも勢いよくくるので名前は断れなかった。


「確か倉庫の奥にあったと思うんだけど……」
「アレっスね!」


ストーブは倉庫の奥の棚の一番上に置いてあった。名前の身長では全く届かないだろう。ようやく頼られる時がきた。獄寺は意気揚々と棚の上のストーブに手を伸ばした。


「あら、何やってるの隼人。」
「ふげーーっ!?」


そんなところにタイミング悪くビアンキが倉庫の前を通りかかった。
途端に獄寺に立っていられなくなるほどの腹痛が襲う。


ガシャーン!


「わっ…!!」


力が抜けてしまった獄寺は手に持っていたストーブを落とし、名前の上に倒れこんでしまった。


「お、重い…」
「すっ、すみません10代目…!」
「あら…お邪魔だったみたいね。ドアノブは壊しとくからごゆっくり。」
「ちょっと…!」


名前と体を密着させた弟を見て変に気をきかせる姉、ビアンキ。
倉庫の扉を閉めて、わざわざポイズンクッキングでドアノブを溶かして行ってしまった。
薄暗くなった倉庫の中に獄寺と名前の2人だけが取り残された。


「お怪我はありませんか!?」
「うん、私は大丈夫。でも…ストーブ、大丈夫かな?」
「つ、つけてみます!」


幸い名前に怪我はなかった。しかしストーブは獄寺が倒れる時に思いっきり落としてしまった。大した高さでないにしても少し気がかりだ。


「…ついた!」


動作確認で獄寺がスイッチを入れると、ストーブは赤く色づき熱を放った。


(クソ……また10代目に迷惑をかけてしまった…!)


ストーブは無事だったものの、獄寺は色々とうまくいかない自分に腹が立った。
こんなことでは、山本に右腕の座を奪われてしまう。実際、今この場に山本がいたらこうはならなかったはずだ。


「……えっと…なんか、最近急に寒くなったよね。」
「…冬島に向かってますからね。」


理由はわからないが目に見えて落ち込む獄寺に世間話のつもりで名前が話しかけた。思えばこうやって獄寺と二人きりで落ち着いて話すのは久しぶりな気がした。


「冬島?」
「グランドラインの島は春島、夏島、秋島、冬島の4つがあるんです。天気が安定して寒いのは冬島に近づいてる証拠っス。」
「へー。獄寺くん、すごいね。」
「そんな…!」


航海士を担っている獄寺にとってこのくらいの知識は当然のことで、褒められる程のことではない。


「おれは……10代目のお役に立ててるんでしょうか…。」
「え?」


自信無さげに聞いてくる獄寺はなんだかいつもより小さく見えた。
もしかしてこんなことで悩んでいたのだろうか。今日一日様子が変だったのもこれが理由なのかもしれないと、気付いた名前だったが、獄寺の望む言葉を与えることはできない。


「役に立つとか立たないとか、そんな風に考えたことないからわからないよ。」
「……」
「でも…一緒にいてほしいし、怪我してほしくないって思ってる。」
「……!!」


名前は一度も獄寺を"役に立つ人"という見方をしたことはないのだ。慕ってもらえるのはありがたいが、名前にとって獄寺は大切は友人であり仲間だ。その等身大の想いを素直に獄寺に告げた。


「10代目……!やっぱり10代目は器が違うっス!一生ついていきます!!」
「え……」
「何でも気兼ねなく言ってくださいね!右腕なんで!!」
「いや……」


自分のことを思ってくれる名前の言葉に感動した獄寺は更に忠誠心を燃やした。
名前としては対等な友人として思い直してくれればいいと思ったのだが…逆効果だったようだ。


「じゃあ、できればその"10代目"ってやめてほしいんだけど…。」
「え…し、しかし何てお呼びすれば…!」
「え?普通に名前でいいんじゃないかな。」
「!?」


「何でも気兼ねなく」と言うことなので、かねてより思っていたことを口にしてみた。
ただ名前で呼ぶだけなのに、獄寺はものすごく抵抗を感じているようだ。しかし他でもない名前の頼み…断るわけにはいかなかった。


「……っ…名前…さん……」
「!」
「すっすすすすみませんやっぱおれには無理です…!!」
「あっ、うんごめん!無理はしなくていいから!」


やっとのことで絞り出した途端、獄寺の顔が真っ赤に染まった。
名前を名前で呼ぶにはまだまだ時間がかかりそうだ。







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