RE! | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



BOSS!!

「草壁さぁぁん!」
「おわっ…」



任務から帰ってきたばかりの草壁に、何者かが激突した。……否、抱きついた。
その人物を見て草壁は苦笑を浮かべる。名字名前……最近山本の部隊から雲雀のところへ移動してきた(させられた)女性だ。
草壁よりも20センチ程小さい体を震わせて、必死にしがみつく様子は小動物を連想させる。
この状況ももはや「いつものこと」となっていて、草壁は特別驚いたりはしない。


「ううう…」
「どうしたんだ?」
「ひっひば…さんがぁ…っ」
「……」


一応聞いてみたが、やはり原因はいつもと同じらしい。
名前は泣いててうまく言葉を出せていないが、最初の一文字さえあれば草壁には十分だった。


「今日…、ボスと会談があるのに…っ」
「…なるほどな。」


自由奔放な雲雀のことだ。会談をすっぽかしてどこかフラついているのだろう。
何かある毎に理不尽な命令をされたり放置されたり脅されたりする名前。その度に#name#は先輩である草壁に泣きつくのだ。
雲雀に振り回される名前は正直言って可哀想だ。まるで昔の自分を見ている様な気分にもなる。
しかし草壁はどうしてやることもできない。中学の時よりも心を開いてくれてはいるが、10年経った今でも逆らうことはできない。
何より今回名前を山本の部隊から引き抜いたのは雲雀自身だ。雲雀は決して口に出さないが、彼が名前を気に入ってることは一目瞭然だった。


「う…うぅ…ぅぁあああのやろー!」
「お、落ち着け。」
「もういやです私!あの人の部下なんて…」
「まあまあ…あの人のことだ。今に来るさ。」


雲雀を昔から知っている者として、こんなこと初めてであって是非微笑ましく見守っていたいと思っていたのだが……いかんせん、うまくいかない。
雲雀は素直ではないし、名前にとって雲雀は恐怖の対象であって、鬼上司という認識しか持っていない。


「草壁さん…」
「ん?」
「愚痴、聞いてください!」
「俺でよければ。一杯飲むか?」


まだ涙が残る瞳で訴える名前。
草壁も若い時はたくさん愚痴を聞いてもらった人がいた。快く承諾すると名前は目を輝かせて再び草壁に抱きついた。


「っはい!草壁さん大好き!」
「はは…」


後輩に好かれるのは嬉しいことだが、こんなところ雲雀に見られたらどうなることやら……冷や汗をかきながら、名前の体をそっと離した。








「あのやろー私をいじめて楽しんでるんですっ…!」
「いや…」
「何でよりによってあんな凶暴な人の部下!?私山本さんの部下でよかったのに!」
「あの、そろそろ…」


それから数十分後………名前は完璧に出来上がった。
愚痴はいつも聞いているが、飲みながらというのが今日が初めてであった。
通常のときはめそめそと呟く愚痴が、酒が入った今、口を挟む隙も与えない程勢いよく吐き出される。


「もう一杯!」
「やめといた方が…」
「何で草壁さん付き合ってくれるって言ったじゃないですかぁー!」


半ばキレ気味に草壁に迫る名前は完璧酔っ払いだ。
少しだけのつもりが、もうこれで5杯目に突入しようとしている。


「だから…!」
「何してるの?」


そしてこんなところに雲雀が登場。草壁の顔が一気に青ざめた。


「あああ雲雀さんどこ行ってたんですかー!」
「散歩。」
「散歩ぉぉ!?私今日ボスと会談があるって言いましたよね!?ボス怒ると怖いんですよー!」


いつもより明らかにテンションが高い名前に雲雀は眉をしかめた。
名前の手にはグラスが握られていて、テーブルの上に日本酒が1本。アルコールのにおいが部屋に充満している。


「…哲。」
「はっはい!」
「これ、どういうこと。」
「これは、その…」


更に低い声で名前を呼ばれて、草壁は冷や汗をかきながら背筋を伸ばした。
雲雀が聞いているのは今何が起こっているのかではない。何故こんなことになったか、だ。


「もう私知りませんからね!ボスに燃やされても知りませんからね!」
「僕が沢田綱吉にやられるわけないよ。それに会談なら今から行く。」
「へっ…」
「何ぼさっとしてるの。君も来るんだよ。」
「えー……………え?」


只でさえ頭はよくないのに、今はアルコールがまわっているため名前の思考が追いつかない。
一方の雲雀は涼しい顔をしてスーツに袖を通している。
…ちなみに草壁は怯えたままだ。


「まったく…勤務中に飲酒だなんて、君達どんな神経してるんだい?」
「雲雀さんこそ散歩なんてどんな神経してるんですか!」
「こ、こら!」


いつもなら悲鳴はあげるものの、決して文句を言わない(言えない)名前が間髪入れずに雲雀に突っ込んだ。
草壁が慌てて制止するがもう遅い。雲雀は好戦的な笑みを浮かべた。


「へぇ…これは酔いをさます必要があるみたいだね。」
「私酔ってません!あと3本は…」


名前のほんのり赤く染まった頬に手をおき、顔を近づける雲雀。
お互いの唇が触れ合って、それから離された。
始終目を開けていた名前は今の出来事を頭の中で整理した。
頬を冷たい手で包まれたと思えば今度は唇に柔らかい感触。目の前には雲雀の長い睫。
そして今、ニヤリと笑う目の前の男。


「………〜ッ!?」
「酔い、さめた?」
「ひっ、ひひ、ひば…っば…」
「さあ行くよ。」


やっと状況を理解した名前は酒のせいで赤くなった顔を更に赤くして、口をパクパクさせた。うまく言葉が出てこないらしい。
そんな名前はおかまいなしでさっさと歩いていってしまう雲雀。


「ばかやろーーー!!」


雲雀が襖を閉めた後で、名前の声が響き渡った。


(ああ、面白い。)





next≫≫
≪≪prev