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平行線

イタリア、ミルフィオーレファミリー。
ここで秘書として働いている名前は片手に書類、もう片方にビニール袋を持ち、あるドアの前で立ち止まった。


コンコン


「白蘭様。」
「いいよー。」
「失礼します。」


呼びかけると、中からは名前とは対照的な気の抜けた声。
名前がドアを開けると全身白に包まれた青年がニッコリと笑っていた。
この男がミルフィオーレファミリーのボス、白蘭である。


「γからの報告書です。それから…、マシュマロ。」
「うん、ありがとう。置いといて。」
「はい。では…」
「名前。」
「……」
「おいでよ。」


報告書と頼まれていたものを渡してさっさと出て行こうとする名前を白蘭が呼び止めた。
振り返ると白蘭はニッコリと笑いながら自分が座っているソファをポンポンと叩いた。
もちろん断るわけにはいかない。名前は「またか」と内心ため息をつきつつも言うとおりに白蘭の隣に腰を下ろした。


「マシマロ、食べる?」
「すみません、甘いものは苦手なんです。」
「…そう。」


名前がやんわりと断ると白蘭は手につまんでいたマシュマロを自分の口に放り込んだ。


「名前って何考えてるかわかんないよね。」


もぐもぐと口を動かしながら、何気なく笑顔のまま言う白蘭。その目はマシュマロを見つめている。
その言葉の裏に隠されたものに気付いて名前は心の中で嘲笑した。自分でも、白蘭に対してでもない。
この男は自分に似ている、と。ただこの状況を楽しむかのように。


「…そうですか?私にとっては白蘭様の方がよくわかりません。」
「そお?」


心外だとでも言うように聞いてくる白蘭は本当に食えない人だ。
誰にも掴ませようとしないくせに。知っていて、わざと知らないふりをする。


「ええ。…例えば今何を思ってこうしているのか…」
「ん?そうだなぁ…」


気付けば白蘭の手が名前の腰にまわされていた。
名前は腰にまわされた白蘭の手の上に自分の手を添えた。拒絶の意を込めて。
しかし白蘭は気にせずもう片方の手でマシュマロに手を伸ばす。


「君を愛しく思ってるんじゃないかな?」
「まさか。」
「即答?寂しいな〜。」
「私をからかっても面白くありませんよ。」
「つれないなぁ。」


この男は、気付いている。自分がこの男に忠誠など誓っていないことに。
知ったうえで名前を傍に置いているのだ。その真意はわからないが、白蘭は至極楽しそうに目を細めている。


「さあ、ちゃんと仕事して下さい。ボスだってやることはたくさんあるんですから。」
「今日のディナーはラーメンがいいな。」
「…仰せのままに。」









( 私達が交わることなんてない。 )




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