BOSS!!
「ふぁ〜あ…」
今、私の目の前にいる男がボンゴレ10代目ボスだと言って、信じる人がいったいどれくらいいるだろうか。
ボンゴレといえばマフィア界で一位二位を争う程の実力を持ったファミリー。そして10代目は歴代ボスと比べても卓越した実力の持ち主だ。
……その10代目がたった今、心底眠たそうに大きなあくびをしました。
隙だらけです。せめて口隠してください。そしてあくびなんてしてる暇じゃないです。
「ボス、手が止まってます。」
「そろそろ休憩したいなー…なんて…」
「ですから、その束が終わればいくらでも。」
「終わりそうにないから言ってるのに…。」
「はい、紅茶でもどうぞ。」
横目で唇をとがらせる姿はまるで宿題から逃げる高校生の様。いい歳してこの人は…。
書類処理になるといつもこうだ。いつも器用に目の前の仕事から逃げようとする。
でも、そうはさせない。私はボスが書類処理をした後、それを確認・分類しなきゃいけないんだ。
早くやってもらわなきゃ私の仕事が遅くなる。絶対、逃がさない。
「…駅前の…ほら、この前行ったとこ…何だっけ…」
「ミラボです。」
「そうそこ。そこの紅茶が飲みたいな。」
私はボスの言葉の裏にあるものを読み取った。
つまりこんなかったるい仕事サボってカフェで一服したい、と。
「じゃあ獄寺さんに頼みましょう。彼なら10分で取り寄せてくれるはずです。」
「…やっぱりいい。」
「そーですか。」
「君、俺よりボスに向いてる気がする…。」
「そんなことありませんよ。」
だけど私だって負けてたまるもんか。
忠犬な獄寺さんに言えば喜んで駅前までひとっ走りしてくれるに違いない。逆にこっちが出向くよりも早いかもしれない。
この手が効かないとわかるとボスはため息をついてペンを持ち直した。
よし、勝った…!
「…この後の予定は?」
「今日はその書類が終われば何もありませんよ。」
「本当!?」
「はい。」
休みと聞いて目を輝かせるボスは本当に子供みたい。
実際に童顔というか、老いを感じさせない顔立ちだから尚更。…羨ましい。
「じゃあ終わったらデートしよう。」
「は…い?」
思わず「はい」と頷いてしまうところだった危ない…!
ボスの顔を見てみるとニコニコと満面の笑顔。聞き間違いではなかったみたい。
「まずミラボでお茶して…ブラブラして、それからディナーね。」
「あ、あの…」
あなたは仕事終わっていいかもしれないけど、私はその後に仕事があるんだから…!
私の予定なんて無視して楽しそうにデートの計画をするボス。
その計画を聞く限り私は夜まで帰れないらしい。いやいや、私だって忙しいんですけど…
「支度してきていいよ。」
「そんな…」
「10分で、終わらせるから。」
「!」
フ、と笑って言うボス。
さっきまでの無邪気な笑顔はどこへやら。今の笑みは間違いなく黒かった。
…結局はボスの方が何枚も上手。私は負けてばっかりだ。
「わかりました。」
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