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雲雀と恋人B



「おはよーございます10代目!!」
「行こーぜ、ツナ。」


獄寺君と山本がこうして毎朝(山本は朝練がないときだけ)来てくれて一緒に登校するのも当たり前になってきた。
これもリボーンが来る前まではありえなかったことだ。
本当にハチャメチャなヤツだけど、会えてよかったって、本当に思ってる。
…だからってマフィアのボスになんてなるつもりないけどさ!


「おまたせ。」


でも何だろ……最近何か物足りないっていうか……うん、何か足りないものがあるような気が………あ。


「…そういえば最近名前さん見ないね。」
「確かにそーだな。」


そうだ。少し前までは獄寺君とケンカ(って言っても獄寺君が一方的に怒鳴ってるだけ)しながら来てたのに。


「名前なら雲雀のとこだぞ。」
「リボーン!」


俺の疑問に答えたのは塀の上を歩くリボーンだった。
ヒ、ヒバリさんのとこに…?


「委員会じゃねぇっスか?」
「あ、そっか。」


そういえば名前さん、ムリヤリ風紀委員に入らされたって言ってたっけ。
あれ、それでも普通にサボってたような……


「なんだ知らねーのか?名前とヒバリは付き合ってるんだぞ。」
「「「なぁ…ッ!?」」」


名前さんと……あの、ヒバリさんがぁ〜〜〜!?













「ちょ、雲雀…」
「眠い。」


昼休みが始まる少し前。
名前と雲雀は空になったお弁当を脇に、屋上で寛いでいた。
…いや、寛いでいるのは名前に膝枕してもらっている雲雀だけかもしれない。
名前の方はいきなり雲雀の頭が膝の上におりてきて混乱しているようだ。
恥ずかしがる名前をよそに、雲雀は本当に眠いようで大きく欠伸としてから目を閉じた。


「もう、雲雀!」
「大丈夫だよ。カギはかけといたから。」
「そういう問題じゃ…」


ない、と名前が言い終わる前に雲雀から極小さな寝息が聞こえてきた。
流石、『安眠の膝枕』と呼ばれているだけあって、いつもの雲雀では考えられないくらい無防備に寝てしまった。


「もう…」


こうなってしまっては名前は抵抗することをやめ、雲雀を起こさないように静かにしまいかけのお弁当を包んだ。
今日も全部食べてくれた…と空っぽのお弁当を見て幸せそうに笑う。


「……」


お弁当をしまった後は特にやることもないので、ボーっと空を見て、それから自分の膝の上で眠る雲雀を見た。


(可愛い…。)


雲雀が男であるにも関わらず、素直にそう思ってしまう。もちろんそんなこと本人に言ったら怒るに違いないが。
そう考えて名前はまた笑った。


「雲雀…」


別に用があるわけでも、雲雀を起こそうというわけで呼んだのではない。ただ、呼んでみただけだ。
ぐっすりな雲雀は今までどおりに静かに寝息をたてて寝ている。


「……」


すると名前は何を思ったのか、雲雀の顔の上でせわしなく手を振りだした。
しかしこれでも雲雀は起きる気配がない。


「……」


それを確認すると、名前は少しずつ身を屈めていった。
その際に落ちてきた髪の毛が、雲雀の顔に当たらないようにかきあげながら。
雲雀の寝顔を近くでまじまじと見たあと、名前は意を決したようにちゅ、と、寝ている雲雀のおでこにキスをした。
1秒もたたないうちに名前は唇を離して、相変わらず眠っている雲雀を安堵の息をついて見つめた。


「!?」


…と、思ったら、雲雀が何の前兆もなくバッと目を開くものだから、名前もバッと体を離した。
まさか今のキスで起きたというのだろうか。いやそうではない。雲雀は名前以外の誰かの気配を感じとったのだ。


「つ、綱吉さん…!隼人に山本くんも…」


ふと屋上の入り口を見てみると、そこにはツナ・獄寺・山本のいつもの3人がいた。
が、3人とも顔を赤くして視線を合わせてくれない。


「…!」


この様子から名前は自分のさっきの行動がツナたちに見られていたことを悟った。
ボンッと、名前の顔がツナたちに負けないくらい赤くなった。


「あっ、あの、これはその…!」


名前は慌てて口を開いたが、弁解の言葉が浮かんでくるわけでもなかった。…というか弁解の仕様がなかった。
名前が寝ている雲雀にキスしたのは紛れもない事実だ。
1人慌てる名前はおいといて、雲雀の方は眠りを妨げられたことと、名前との空間に邪魔が入ったこととで機嫌は最悪。
いつの間にか立ち上がっていて、トンファーを片手にものすごい殺気を放っていた。


「ひぃっ…」
「わ、雲雀待って!」
「!」


ツナの小さな悲鳴で我に帰った名前は、無言でツナたちの方に歩いていく雲雀に背後からガバッとしがみついた。


「雲雀落ち着こう!綱吉さんたちは悪くないから!むしろ悪いのは私で…」
「…意味わかんないよ名前。」


必死に雲雀を止める名前だが、傍から見れば名前こそ落ち着いた方が良さそうだ。
名前は雲雀越しにツナたちに早く逃げるよう、目で促した。


「あっ、あの、オレたち本当たまたま通りかかっただけなんです!…お、お邪魔しました…!!」


するとツナは一気にそう言って、屋上から逃げるように走り去っていった。
獄寺はガンを飛ばしながら、山本は苦笑しながら、ツナのあとに続いて屋上を去った。


「よかった…。」


事なきを終えて名前は一安心、とため息をつく。


「…君の仕業かい?」
「ち、違いますよ!」
「そうだぞ。」
「リボーン!?」


自分が言われたんだと思って慌てて否定したが、雲雀が話しかけたのはいつの間にか足元にいたリボーンだった。
名前は少し考えてから一通り理解した。
つまり、雲雀が鍵をかけたと言ったのに鍵が空いていたのはリボーンが空けたからで、ツナたちが屋上に来たのもリボーンが呼んだからだったのだ。


「何でそんなことするのよー!」
「面白いからに決まってんだろ。」
「んな…!!」


ズバーンと言うリボーン。


「いつまでくっついてる気だ?」
「へ……ああ!!」


更に笑顔で続けた。
リボーンに言われてやっと自分がまだ雲雀にしがみついていることに気づいた名前は慌てて雲雀から離れる。


「いくら赤ん坊でも邪魔するなら許さないよ。」
「邪魔する気はサラサラねーぞ。むしろいい傾向だと思ってんだ。名前にとっても雲雀にとっても…ボンゴレにとっても、な。」
「……」


リボーンは殺気立つ雲雀をものともせず、落ち着き払った様子で意味深に笑った。
最後の「ボンゴレにとっても」…というのが気になるが、まあ今はいいとしよう。


「だけどあんまイチャつきすぎんなよ。見てらんないからな。」
「!? ま、まさか…」
「…さーな。」


リボーンがニヤリと、とてもいい笑顔で言った。その目はピンポイントで名前をとらえている。
まさかさっきの行動…リボーンにまで見られていたのだろうか…。
リボーンの笑みが、そう言っている風にしか見えなかった。


「…で、お前らどこまでいったんだ?」
「!」
「リ、リボーンっ!!」
「ちゃおちゃお。」
「あっ……行っちゃった…。」


名前の怒声を聞く前に、リボーンはレオンが変身したパラグライダーで屋上から逃げてしまった。完璧な言い逃げだ。
リボーンが行ってまた2人きりに戻ったが、なんとも言えない空気が流れた。


「名前。」
「は、はい!」
「膝枕。」


さっきのことに後ろめたさを感じている名前に、雲雀はただ単語を口にした。どうやらまた寝たいらしい。
地面に腰を下ろし、名前が正座するのを待っていた。
少し戸惑いながらも雲雀の言いたいことを読み取った名前は、要求通り雲雀の隣に腰を下ろして正座した。
すると間もなくして、雲雀の丸い頭が丁度いい場所に下りてきた。


「…あ。」
「…どうし………!?」


雲雀が何かを思い出したかのように呟いたから何かと思ったら、少しだけ体を起こして名前の前髪を丁寧にかきわけ、そこから見えたおでこに軽くキスをした。
そして驚く名前の顔を満足気に見たあとで、また膝の上に頭を預けて目を閉じる。


「な…な…!」


名前は恥ずかしさですっかりパニック状態だ。


「…明日、どっか行こうか。」


そんな名前に、雲雀が目を閉じたまま言った。


「へ…!?」
「行きたいとこ考えといて。」
「そ、それって………………デート…」


名前が呟いたときにはもう、雲雀は眠っていた。







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