113
「ただいまー。」
って言っても「おかえり」は返ってこないんだった。言ってから気が付いた。いつもいるはずの犬ちゃんたちはリング争奪戦が終わってから黒曜ランドに戻った。
本当はあんな衛生の悪いところで暮らして欲しくないんだけど、あそこはみんなが骸くんと一緒に過ごした場所だから。たまにご飯を持っていったり、掃除しに行ったりはしてる。
「……」
また広くなってしまった家に一息ついてから上がった。やっぱり寂しいな。
ボンゴレになってからあまりにも周りの人たちが優しいから、余計に一人が寂しく感じてしまう。もう大人なんだからしっかりしなきゃいけないのに!
綱吉さんには助けてもらってばかりだし、隼人にはなんか年上扱いされてないし、山本くんにはいろいろ教えてもらってるし、リボーンには何だかんだ言って逆らえないし、ディーノには昔から面倒見てもらってるし、……雲雀には………
「!?」
そこまで考えたところで、足と一緒に思考もストップした。
いや、だって吃驚するよ!帰ってきたら雲雀が普通に家のソファで寝てるんだもん!すごい、なんかナチュラルに居るけどおかしいよねこれ!?何で雲雀がいるの!?玄関は鍵かかってたし………
「……」
嫌な予感がして視線を上げたら、見事粉々にされた窓ガラス……。もう…、本当にこの子は…!
「……ふぅ。」
ため息をついて、それから笑ってしまった。
雲雀には本当……たくさん困らされたなぁ。……けどそれだけじゃなくて、たくさん助けてもらった。ゲームセンターに行ったときも、お祭りに行ったときも、…リング争奪戦のときも、そう。
最初はものすごく嫌いだったのに今はそうは思わない。雲雀は優しいよ。そして…不思議な人。
「……」
雲雀が起きないか様子を窺ってから、雲雀が眠るソファの前に腰を下ろした。そしてソファに寄りかかって目を瞑る。
最近よく思うのは雲雀の傍にいるととても落ち着くってこと。すごく心地よくて、安心できる場所。綱吉さんとかディーノの傍にいるときとはまた違った感じ………
次に意識が戻ったとき、私の視界に映ったのは純日本風の和室だった。
目を瞑っていたらいつの間にか寝ていたみたい。きっとこれは夢の中。ほら、意識ありながら夢を見ることってあるでしょ?多分それ。
「朝だよー!」
襖をスパンと開けて入ってきたのは……私?
髪の毛が今より短くなってて、顔も今より大人っぽい感じ………ってことは、未来の私なのかな。
「お母さん」がするエプロンをつけてズカズカと畳の上を歩く私。立ち止まったそこには布団がしいてあった。
ま、まさかこのシチュエーションはお母さんが子どもを起こしに行くパターンのやつかな!?私お母さん?子どもいるの?わー、ドキドキするなあ…!
「もう……恭弥ー!」
……えええええーーーーー!?
布団から顔を出して姿勢正しく寝ていたのは……ひ、ひひひ雲雀!?
え、ちょ、どういうことですか!え、子どもって雲雀?にしてはやけにでかいっていうかむしろ今より大人っぽいっていうか……
しかも私雲雀のこと名前で呼んだよね!?いやいやいやものすごく違和感があるんだけど!
「ん……」
「おはよう、恭弥。」
「……おはよう。」
ぎゃーーーまた名前で…!なんかむずがゆくなる!
もぞもぞと布団が動いて雲雀は私の方を向いた。今よりちょっとだけ低くなった声にどきって……し、しないから!
「名前…」
「!」
次の瞬間、雲雀は私の腕を引っ張りながら重たそうな瞼を再び閉じた。もう片方の手は近づいてきた私の頬におかれて、そのまま……キス…。
相変わらず行動が突発的だ…!な、なんかこう、客観的に見ると変な感じ…ちょ、直視ができません…!
っていうか未来の私、全然離れようとしないし!むしろ受け入れてる感があるんだけど……ちょっとー!長すぎませんか!?
「ん…」
「ちょっと恭弥!」
やっと離したかと思ったら、離したのは唇だけで雲雀はそのまま私の体を抱きしめた。
ぎゃーぎゃーぎゃー!何これ!何この状況!もう覚めてくれていいよ私ー!
「愛してるよ。」
そんな言葉が耳元で囁かれたところで、目が覚めた。
「っ!?」
ビクって体が揺れて、目の前に映ったのは家のリビングの景色。
心臓が煩いくらいバクバクいってる。ああ、変な夢のせいだ…!
普通は夢なんて起きたら忘れてるものだけど、あまりにもインパクトが強すぎて今でも鮮明に覚えてしまっている。
あああもうなんて夢を見てるんだ私は!あれじゃまるで私と雲雀がふ、夫婦……みたいな……うわー!大体何であんな夢を………
「…おはよう。」
「〜〜〜〜!?」
声にならない悲鳴が上がった。もちろん、私からです。
そーいえばそーだった!帰ったら何故か雲雀が家のソファで寝てたんだった…!あーもう雲雀のせいだよあんな変な夢見ちゃったのは!
そして「おはよう」とかさっきの夢とまるかぶりだからやめてくれないかな…!一瞬心臓跳ね上がったよ!
「ひっ、ひば、な、ちょ……」
「…何慌ててるの?」
動悸が激しすぎてうまく喋れない。
そんな私を見て雲雀は口の端を上げて余裕な笑み。どことなく機嫌が良さそうなのは気のせいかな…?
「顔が赤いけど……」
「ッ!」
「…僕の夢でも見た?」
「な…!?」
雲雀の手が私の頬を包んだ瞬間、そこに熱が集まる。
いろんな意味で耐えられなくなった私はその手を振り払って、リビングから…っていうか家から走り出た。
私を呼ぶ声が聞こえたけど、もちろん振り返られるはずがなかった。
≪≪prev