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応接室の扉の前で1回小さく、でも深く深呼吸。
雲雀がこっちを向いたらまず、「ありがとう」って言うんだ。昨日見守っててくれてありがとうって。それから、「大丈夫だよ」って、言わないと。
……よし!
ガチャ…
「ひ、雲雀……?」
……って、あれ、お留守ですか!?
「雲雀?」
「…ああ、名前。」
いろいろ探したけど結局雲雀は中庭にいた。
どこにいるんだろうって考えながら廊下を歩いていたら中庭に黒い頭を見つけたから、急いでおりた。
振り返った雲雀はいつもの雲雀で、なんだか安心した。…じゃなくて!言わないと!
「あ、あのっ…その………え…?」
「ありがとう」って言おうとしたのに言えなかった。
だっていきなり雲雀が手を握ってくるから!握るって言うよりも何だろ……包む…って感じかなぁ。
そのとたんに今まで考えてたことがバッて吹っ飛んで、代わりに雲雀の手の暖かさでいっぱいになった。
雲雀って意外と手、あったかいんだよなあ。意外って言うのは失礼だけど。
「大丈夫みたいだね。」
「!」
ありがとうの次に言おうと思ってた言葉も、雲雀に先に言われて言えなくなってしまった。
こ、心読まれた!?いやいや雲雀はそんなことできないはず!
とにかく私は雲雀のあたたかさに胸がいっぱいになったのです。
やっぱり雲雀は優しい。綱吉さんとかみんなは怖がってるみたいだけど……こんなにも優しい。
「うん!ありがとう。」
だから私も精一杯の笑顔でお返しした。決して作ったわけじゃないよ。自然とできたの。
そしたら、雲雀はいつもの何考えてるかわかんない顔で私をじーっと見つめてきた。
え、えーっと……何でしょうか…。
「名前…」
私の手を握っていた雲雀の手がほっぺたに移動した。
おかげでなんだか私は顔を動かせなくて、更に雲雀から視線を外せなくて、雲雀はやっぱり私を見つめていて……
こ、このパターンはキス………される…の、かな……
「…で、どうしたの?」
「!」
と思ったけど、それだけで雲雀は何もせずに私の頬から手を離して、体もちょっと離れた。
キスじゃなかった………って、何を思ってるんだ私!!ていうか、何でキスするかもって思ったのに逃げなかったんだろう…!!
ああもう最近変だ…私…!!
「僕に用?」
「あ!えーっと…今日の試合、大丈夫かなぁって……」
うん。「ありがとう」は一応伝えたから、あと気になるのはここだけ。あんな夢見ちゃったら、そりゃあ心配になるよ。
「へぇ……誰に言ってるんだい?」
「へ…」
雲雀はにっこり……いや、違うな。ニヤリと笑ってまた私に近づいてきた。
え、あの……雲雀さん、珍しく笑顔なのに、こ、怖いです…!!
「!」
雲雀が私の目の前まで来て何されるんだろうって考えてたら、ぎゅって抱きしめられました。
けっこう強い力で引き寄せられたから体勢崩しちゃったけど、雲雀がしっかり支えてくれたから大丈夫だ。
手だけじゃなくて体もあったかい。……って、生きてるから当たり前なのかもだけど……なんかこう…気持ち的にもあったかいっていうか…
何なんだろう……目をつぶったら、すぐ眠れるようなあたたかさ…
「ね?」
「……」
何が「ね?」なのかは言わなかったけど、私は雲雀の胸の中で1回だけ頷いた。
うん、なんか大丈夫な気がしてきた。だって雲雀だもん。
「うん、安心した。」
「…そう。」
私がゆるい力で雲雀の胸板を押して、少し離れると雲雀も私の背中にまわしていた手をおろした。
そしてそのままの至近距離で…雲雀と目が合う。
恥ずかしいけど視線を離せないのは何でだろう。
ゆっくり雲雀の瞳が近づいてきて、私はゆっくり目を閉じた。
「……」
ザッ…
「あ…!」
「!?」
ってちょっと待てぇぇえええ!!ななな、何で私今目閉じたの!?何で普通に受け入れてんの!?
そしてそんなところに…綱吉さぁぁああん!!
「あっ、あの、綱吉さんこれは…!」
「すすすすいません…!(こ、殺される…!!)」
「……」
うわあ、うわあ、ばっちり…見られた……よなあ、今の…!
ああもう私、本当にどうしちゃったんだろう…!絶対キスされる…ってわかってたのに!
目を瞑るなんて、「キスしていいよ」って言ってるようなもんじゃん!
「10代目!名前のヤツいましたか!?」
「ご、獄寺くん…!」
隼人まで!で、でもこの様子からして隼人には見られてない…よね!
「お、みっけ。」
「名前!大丈夫か!?」
「名前さん!!」
隼人に続いて山本くんにディーノに犬ちゃんたちがぞくぞくと……
…というか、何でみんな学校にいるの…?さっきまで病院にいたのに。
「名前さんらいじょーぶ!?アヒルに変なことされてないよな!?」
「あひる…?」
「雲雀恭弥だよ、犬。」
「ろっちでもいーびょん!」
あひるって何のことかと思ったら雲雀のことだったんだ。……何であひる…?ひばりとあひるって、一文字もあってないよ。
「名前さんから離れろ!」
「君たちこそ群れないでくれる。」
「ちょ、2人とも!」
またいつかみたいに険悪なムードになっちゃってるよ!!ええーと、どーすればいいのかな!?
「名前さん帰ろーぜ!」
「名前、まだこんな奴らと群れてるの?」
「ちょ、ちょっと落ち着こうね2人とも…!」
こういう状態のことを“いたばさみ”って言うんでしょうか!押しつぶされそうな勢いだけどがんばります…!
「…で、結局名前はどーすんだ…?」
「は、はい?」
ディーノってば急に真剣な顔して…どーするって……そんなの私が聞きたいくらいなんですけど!
誰かこのけんかを止めてくれる人いますか!?
「みんなと一緒に行くか、雲雀のとこに残るか、だぞ。」
「リボーン!」
い、いつの間に…!そしてけんかのことじゃなかったんだ…。
みんなと行くか、雲雀のとこに残るか、…って………どういう意味、でしょうか…。何でみんな真剣にこっちを見てるんでしょうか…。
「えっとー…その…」
「名前さん…」
私が返答に困ってると、さっきまでずっと黙ってた凪ちゃんが口を開いた。
「お昼ごはんのカレーのお鍋、出しっぱなし…」
「えええうそ!?れ、冷蔵庫に入れないと…じゃあ、私は1回家に帰るね!」
「オレらも行くびょん!」
カレーのお鍋出しっぱなしだったなんてなんという失態…!
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