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「……」


ここは中山外科医院。ディーノの手配した病院だが公としては運営していない。
その病院の一室で名前がゆっくりと目を開けた。















目を開けたら見覚えのない天井で、「あのときと同じだ」なんて冷静に驚いてた。
だってすぐにあの場所とは違うってわかったから。あそこの部屋は分厚いカーテンで何もかもが遮断されて真っ暗だった。
だから月の光がものすごく眩しく感じた。1時か2時くらいかな……。


「……」


目を瞑ろうと思ったけど、眠れそうにないからちょっと起きようかな。
ゆっくり起き上がったら布団の右側がやけに重たく感じた。
見てみたら、イスに座った凪ちゃんがベッドにもたれて眠っていた。ずっとそばに居てくれたんだ…。


「…ありがとう。」


凪ちゃんが起きないように小さく言って頭を撫でた。…よし、起きてない。
なるべくベッドが動かないように、ゆっくり床に降りた。


「っ…」


床に足をついた瞬間に、チクリと右足に痛みが走った。
お兄ちゃんに………銃で撃たれたあと…。かすっただけだから、ズキズキするだけで歩くのには何も支障はない。
…きっとこの銃弾、わざと外してくれたんだ。カメラを壊したのもそう…ヴァリアーの人たちに話を聞かれないように。
そしてヴァリアーに入隊したのも………お父さんとお母さんを、殺したのも………全部、私のため…。


「……」


ちょっと喉が渇いたな…。確か入り口の近くに冷水機があったはず。


「!」


病室のドアをゆっくり開けたら、そのすぐそばの壁に綱吉さんが寄りかかって寝てるのが見えた。
…綱吉さんだけじゃない。山本くん、隼人、了平くん、バジル、犬ちゃん、ちーくん……
みんな……せめてソファの上で寝ればいいのに…!こんなところじゃあかたいし、寝にくいだろうに…。
だからといって私の力じゃベッドに運べないし……あ、布団だけでもかけてあげよう。
冷水機のところに行くついでに布団も探してこよう。もうちょっと待っててね。


「…っ」


歩き出したら、ほっぺたに何かが流れ落ちてきた。
私、また泣いてる…。最近泣いてばかりだ。だめだなぁ……強くなるって、決めたのに…。
涙をそでで拭いて、私は小走りして冷水機に急いだ。













「名前…さん……?」


……ってあれ!?
ここは…ディーノさんが手配した病院……そ、そうだ!名前さんを運んで、心配で、でも中で寝るのはちょっと…っていうことで外にしたんだ。
隣を見たら相変わらず山本や獄寺くんが静かに寝息をたてていた。
名前さん……大丈夫かな…。身体的にはたいしたことないって言ってたけど、オレは精神的な方が心配で…。
…だって、お兄さんが死んじゃったんだ…。いくらファミリーを惨殺した人だって言っても名前さんにとってはお兄さんなんだから…つらくないわけがない。
実際に試合の後、名前さんはあんなにも弱弱しく泣いていた。いつもじゃ考えられないくらいに…。


「…?」


ふと周りを見てみたら、名前さんの病室のドアが空いてるのに気づいた。
心配になってちょっと悪いなって思いながらも中をのぞいてみたら、ベッドはもぬけの殻で……名前さんの姿はどこにもなかった。
ど、どこに行っちゃったんだろう…?もしかして、何か起きたのかな…!?











「! 名前さん…?」
「…あ、綱吉さん…」


名前さんを探しにあちこちまわって、最後に受付のロビーに行くと名前さんが1人ソファに座っていた。
オレが呼ぶと、名前さんはこっちを向いて少し笑顔をつくった。
泣きそうな顔はしてない……けど、何かがぽっかりなくなってしまってる気がした。
名前さんは1枚の紙切れをずっと見つめていたみたいだ。


「それは…」
「…お兄ちゃんから貰ったんです。」
「…!」
「あ、どうぞ座ってください。」


お兄さんのこと…思い出させて悪いなって後悔したオレに、名前さんが「いいんですよ」とでも言うように促した。
思い出させて…って言うのはおかしいな。あんなことがあって、忘れられるはずがないんだ。
オレは名前さんの言葉に甘えて隣に座ったけど、何を話していいのかわからない。


「あの…私の話…、聞いてもらいたいんですが…」
「オ、オレでよければ…」


少し沈黙が流れたあと、名前さんがきりだした。
オレが答えると名前さんは「ありがとうございます」って言って、手の中の紙切れを見つめながらまた数秒口を閉じた。
目だけでその紙切れを見てみたら、それは写真だったみたいで親子だと思われる3人が写っていた。
名前さんと、名前さんのお父さんとお母さんかな…。お母さんの方が名前さんと似ている。


「……綱吉さんは…、もし……もしもですよ?奈々さんと家光さんが本当の親じゃなかったとしたらどうしますか?」
「え…?」


名前さんの聞いてもらいたいことは、まったく想像のつかないことだった。
母さんと父さんが本当の親じゃなかったら…?そんなの急に聞かれても…考えたことなかったからなぁ…。
何でいきなりそんなことを…。名前さんは返答に困るオレに「すみません」と言って笑った。


「この写真に写ってる人…私が今まで親だと思ってた人と違うんです。」
「!」


そして次に名前さんの口から出たのは………え?


「本当に……優しかったんです…。私にいろんなことを教えてくれて、私とたくさん遊んでくれて、私を叱ってくれる時もあった…。」
「……」
「それ全部が…偽りだった…んで、しょうか…」
「そんな…」


名前さんは写真を握り締めながら、それから目をはなさなかった。
オレはそんな名前さんから目をはなせなくて、でも何て言えばいいかわからなくて言葉が止まった。


「…風の守護者は私の一族にしか務まらないらしいんです。その血を欲しがったお父様とお母様が……この人たちを殺して…」
「…!」
「もう…何を信じていいのかわからない…!」


ポタリ、と名前さんの握る写真に水滴が落ちた。それが何かは考えなくてもすぐわかる。
もう一滴、また一滴と、水滴が落ちていく。


「名前さん…」
「私は…どうすれば…」


オレが名前を呼ぶと、名前さんは涙で歪んだ顔でこっちを見上げた。
いつもの名前さんならオレたちに心配かけないように必死で涙をこらえるのに、今はこらえようとも涙を隠そうともしていない。
やっと名前さんが弱い自分を見せて、オレを頼ってくれてると思うとすごく嬉しい。それから…守りたいって、心から思った。


「オレたちを信じて。」
「!」
「オレもみんなも、絶対名前さんを裏切らない……一人にさせない。」
「綱吉さん…」
「楽しいときは一緒に笑って、悲しいときは一緒に泣くよ。」
「……」


名前さんは相変わらず涙を流しながらオレを見ていた。


「だって、みんな名前さんが大好きだから。」
「…ッ!」
「…だから辛いときは遠慮しないで言って。みんな、名前さんの力になりたいんだ。」
「…っうぅ…ッ…」


オレが言い終わると、名前さんはオレにしがみついて嗚咽を漏らして泣き始めてしまった。
いつもは大人でお母さんみたいな名前さんだけど、今だけはすごく小さい子供に見えた。妹がいたらこんな感じなのかな。オレは自然に名前さんの頭を撫でていた。







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