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「マフィアなんてやめとけって。どーせまた壊すだけだろ?……アルビトロみたいに。」
「…!」
「それともまたオレに壊されたいか?」
「ッ……やめて!!」


ドォンッ












「…お前がそっちの銃に1発しか弾を入れないことも知ってる。」
「…!」


名前は震えた手で黒い銃を絆に向けて撃ったが、その弾は絆に当たるかわりに最後の1つのカメラに当たってしまった。
名前は黒い銃には決して1こ以上の弾を入れない。そして白い銃の方は数メートル先に転がっていて、右足には銃弾が掠めた跡。
もう名前には、絆の攻撃を避ける術は残されていなかった。


「……」


名前は覚悟を決めて俯いたが、いつまで経っても絆の動く気配がしない。
見上げてみると、絆はフィールド内をキョロキョロと見回して何かを確認してるようだった。


「…?」
「…よし、これでゆっくり話できるな。」


そして銃をホルスターにしまい、名前の前にあぐらをかいて座り込むではないか。もう戦う気はまったくないように見える。
それでも名前は警戒したが絆のさっきまでとは違う表情に、自分でも気づかないうちに警戒態勢をといていた。


「…名前、今からあんま大きな声出すなよ。」
「……」


いまだ状況についていけず混乱したまま、名前はただ絆の言葉に頷いた。


「まずお前に渡すモンがある。」


そう言って絆は、シャツのポケットから2つに折りたたまれた古びた紙切れを取り出した。
名前はやっぱりわけがわからないまま差し出されたその紙を受け取った。
開いてみると、それは紙切れじゃなくて1枚の写真だった。さきほどの雨で少し濡れているが特に支障はない。
そこには1人の男性と、その男性に肩を抱かれている女性、その女性にだっこされている赤ん坊が写っていた。
家族だろうか…幸せそうに笑っている。


「…?」
「お前と両親だよ。」
「え…!?」


絆の言葉に名前は耳を疑った。
なぜなら、その写真に写っている2人にまったくの見覚えがなかったからだ。
見たこともないような人たちがいきなり自分の両親だなんて言われて、信じられるはずがなかった。


「ち、違う、私の両親は…」
「お前が今まで親だと思ってきたのは本当の親じゃない。」
「!?」


それなのに今まで自分が親だと思ってきた人たちが実は違ったなんてことは、もっと信じられるわけがない。
しかし絆の表情は戦いのときよりも真剣だ。その表情から名前はそれが決して嘘ではないことを嫌でも察知した。


「う、そ……」
「ウソじゃない。…ま、俺にしてみたら本当の親だけどな。」
「……」
「つまりお前と俺は血の繋がった兄妹じゃないってわけだ。」
「!!」


もう信じられないことだらけで、名前の頭は真っ白になる寸前だ。
今まで信じてきたものが音をたてて一気に崩れた気がした。


「まーそこは置いといて…」
「な、何で…」
「お前の本当の親は……日本にいながらボンゴレの中枢機関を担って9代目を支えていた。…風の守護者としてな。」
「!?」
「風の守護者っていうのはな、他の7つのリングと違って適正者がいない限り起用しなくていいんだ。」
「……」
「何故かわかるか?その役割はある家系にしか務まらないからだ。」
「……」
「名字の血を持つ者にしかな…。」
「…!」


もし絆の話が本当だとすると名前は生得的にボンゴレと関係していたことになる。
この風のリングを預かるのも決まっていたことなのかもしれない。


「あいつらはその血が欲しいがためにお前の本当の親を殺し……お前の親になりかわったってわけだ。」
「そんな……」


ありえない話ではなかった。絆の話は全て筋が通っていて、実際に写真がある。
もう一度写真を見てみると、母親にはどこか名前を思い出させる面影があった。


「じゃあ…今までのは、全部…うそ…?」
「…それから…」
「でも…!お兄ちゃんにとっては本当の親だったんでしょ…?」


自分のこともそうだが、それよりもまず絆のことが気にかかった。
絆にとっては本当の家族だったのだ。それを彼は自分の手で殺した。


「……そんなことして富に溺れている奴らを許せるか?」
「でも…」
「俺の話はいい。」
「よくないよ!…1つしかない家族なんだよ…!?」


名前はずっとこらえてきた涙を流して叫んだが、絆はいたって冷静に答えた。


「…後悔はしてない。悲しいとも…思わなかった。」
「そんな…!」
「……昔っから名前は泣き虫だよな。」
「!」
「それと、優しすぎる。」


涙が止まらない名前に、絆は優しく微笑みかけて頭を撫でた。それは紛れもない“兄”の表情だ。


「名前。」
「……」
「お前はこうはなるなよ。」
「…!」


絆は頭を撫でたあと、その手で名前の涙をふいてやった。


「あそこがお前の居場所で…帰る場所なんだろ?」
「……うん。」
「じゃあ守れ。ただし…お前が死んだら意味がない。守られることも覚えろよ。」
「……」
「…まだこの世界には名字の血を狙う奴らがいる。」
「……」
「…気をつけろよ。」
「…何で…」


ここまで自分を心配してくれているのだろうか。最初の冷笑的な態度とは正反対だ。
絆は最初から名前のためにファミリーを惨殺し、ヴァリアーに入隊し、リング争奪戦に参加したというのだろうか。
せっかく絆がふいてくれたのに、名前の目からはまた涙が溢れてきた。


「お前は生きろ。そんで人生満喫しろ。最終的に笑えんだったらどんな人生でもいい。」
「…お兄ちゃん…?」


絆はまた泣き始める名前に微笑んでからゆっくり立ち上がった。
そして首のチェーンについていたハーフリングを名前の手に握らせて、背を向けて歩きだした。


「ああそれと…変な男選ぶなよ。年収10億以下は断れ。」
「…!?」


絆が振り返ったときにはもういつものやる気のなさそうな顔に戻っていて、手には手榴弾が握られていた。


「風の守護者はお前だよ。」
「な、何を…」


絆は自分の足下に戦闘中に自分が踏んだスイッチがあるのを横目で確認して、手榴弾のピンを抜いた。


カッ


天井の機械が光ったと同時に、絆が一歩下がって手榴弾を真上に軽く投げた。


「!!」
「愛してるよ…名前。」
「お兄ちゃ…ッ!!」


ドォォオン


手榴弾と雷とが絆の真上に落ちて、絆の姿が見えなくなった。
あたりに閃光と炎と煙がまきおこり、やがて晴れていった。
そのあとに絆の姿はない。かわりに、黒い灰がサラサラと地面を這っている。


「いやぁぁああ!!」






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