19:処刑
翌日の早朝。名前は獄寺と山本と一緒に風紀財団の屋敷を訪れた。
名前が聞いた話によると今日、雲雀を陥れる作戦を決行する様子だった。
目的は昨日のことを雲雀にも説明して逃げるように促すこと。
…正直雲雀が素直に逃げるとは到底思えなかったが、知っていると知らないとでは最終的な結果が大きく違ってくるだろう。
「なんかやけに静かだな…。」
「そうだね…。」
一応今の名前達は「群れてる」ことになるので、周囲を警戒しながら屋敷へ近づいている。
しかし門の手前まで来ても誰一人とすれ違うことはなかった。
早朝だからかもしれないが、なんとなく名前は嫌な予感がした。
「う…ぐ……」
「!!」
名前達が様子を窺っていると、玄関から一人の男が這いつくばって出てきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「君は……」
男は駆け寄ってきた名前に見覚えがあった。昨日、雲雀の部屋から出てきた女性だ。
群れることを嫌うあの雲雀が自室に人…しかも女性を入れるなんて、と驚いたから印象に残っていた。
「がはっ…!」
「一体何が…!」
「…はァ、毒ガスを……まかれた…」
「!!」
男は毒ガスによって立つこともままならない。意識も朦朧としてきている。
開いた玄関の奥には確かに毒ガスらしき煙が充満していた。
「恭さんが…っ連れていかれてしまった…!」
「!」
「チッ、手遅れだったか…。」
屋敷の中には既に雲雀はいないらしい。一足遅かったようだ。
「…げほっ!!」
「俺、シャマル呼んできます!」
「うん、お願い。」
「君達は……」
「安心してください。雲雀さんは私達が助けます。」
「…!」
力の入らない拳をぎゅっと握ったのは目の前のか弱そうな女性。
それなのに男は不思議と安心できて、目を瞑った。
ジリリリ
そこで名前の子電伝虫が鳴った。町の様子を見に行ったリボーンからだ。
「リボーン、町の様子はどう?」
「今まさに広場で雲雀の処刑が執行されるところだ。」
「はあ!?」
「雲雀さん…!」
名前と山本が広場に急ぐとリボーンの言った通りそこは処刑場と化していた。
多くの海兵達が配置され、その中央には雲雀が斬首台に縛り付けられている。
両手は手錠で拘束されている。表情が苦しそうなことから毒ガスが体にまわってしまっているのだろう。
「わっはははは喜べ民衆よ!また俺が戻ってきてやったぞ!!」
そんな雲雀のすぐ傍に立っているのが持田中佐。
集まった町民たちはそれを微妙な表情で見ていた。
「お父さん、鳥のお兄ちゃん殺されちゃうの…?」
「くっ…何で今更あんな奴が戻ってくるんだ…!」
「あ、あの…!あの人は…?」
「風紀財団ができる前にこの町を仕切ってた海兵だよ。」
「!」
そう。今回雲雀を陥れたのはこの町を風紀財団によって追い出された海兵達だった。
つまりこの処刑が執行されれば、町民達にとっては本来あるべき平和な町に戻れるということなのかもしれない。
でも、名前は処刑台で高らかに笑う海兵の男にひとつの町を任せたくない…そう思った。
「あんな奴にでかい顔されるくらいなら風紀財団が仕切ってくれた方が全然マシだ…!」
「え…どういうことですか?」
しかし町民達はあまり海軍を歓迎していない様子だ。
「あいつはおれ達町民を見捨てたんだ…!」
話を聞くと、以前この町に海賊が攻め込んできた時、持田中佐率いる海兵達は自分の身の安全ばかりを優先して戦うことをしなかったという。
そこを救ってくれたのが雲雀率いる風紀財団の数人だったのだ。
「確かに理不尽なところはあるけど…群れさえしなきゃ彼らはおれ達を護ってくれてたんだ…!」
「!」
名前達が思っていたよりもずっと、雲雀には人望と呼べるものがあったのだ。おそらく本人も気付いてない…というより気にしていないだろうが。
「お兄ちゃんね、いつも可愛い鳥さん連れてるんだよ。」
「…うん、知ってる。」
小さい女の子が名前に話しかけた。
自分が今まで実際に見てきた雲雀と、下品な笑い声を響かせる正義を掲げた海兵。
どちらを信じるかなんて迷う余地がなかった。
「決意は固まったみたいだな。」
「うん。」
「よし!いっちょ暴れてくっか!」
ズガン!
「死ぬ気で、雲雀さんを助ける!!」
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