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「勝ったぜ。」


いつものようにニカッと笑って、山本は完成したリングをカメラに向けた。
流派を見切られていて苦戦を強いられていた雨戦だったが、最終的にはやはり山本の父が言う通り、時雨青燕流が勝ったのだ。


「よかった…。」
「……」


山本の勝利に屋上のタンクの上から安堵する名前。
隣の雲雀も安堵というわけではないが、自分が咬み殺す前に負けなかったことに安心した。


「ざまぁねえ!!負けやがった!!!カスが!!!」


一方、負けた側のヴァリアー……ザンザスはというと、高らかに笑い出した。その笑い声は屋上の名前たちにも聞こえている。
ザンザスたちがスクアーロの処分について話すものだから、名前は急に不安が押し寄せてきた。


「お待ちください。」


そこに1人のチェルベッロがおりてきた。
何でも、校舎内の規定水深を達したため獰猛な海洋生物が放たれたんだとか。
獰猛な海洋生物……固有名詞を出さなくてもその言い方で充分にわかる。モニターに巨大なサメが映しだされた。


「!!」


名前は思わず立ち上がりそうになったが、足場が無いために体がビクっと動いただけだった。
山本は勝利したから逃げられるが、動けないスクアーロはこのままではサメの餌食となってしまう。
なのにスクアーロは敗者だから生命の保証はしない、とチェルベッロが冷たく言い放った。


「そんな…!」
「…どこ行くの。」
「だって…」


それを聞いた名前がはしごを降りようとするのを、雲雀が腕を掴んで止めた。
行って何をするとか、そういうのは全然考えてなかった。けど、体が勝手に動いたのだ。
今となっては“敵”という立場だが、スクアーロには以前世話になっていた。
多少キツいところはあるが、男性恐怖症の名前に普通に接してくれた。


「……」


しかし今自分が行ったところで何ができるんだろうか。
下手をすれば反則行為とみなされ、自分のリングまで取られてツナ側の敗北に繋がるかもしれない。
雲雀に言われて冷静を取り戻した名前はタンクの上に座りなおした。
そしてモニターを見ると、スクアーロを担ぐ山本の姿が映っていた。


「山本くん…」
「……」


だがまだ安心はできない。サメが血の臭いに反応して2人のところに近寄ってきたのだ。
それに山本も今の戦いでかなり労費している。スクアーロを担ぐのもやっとのことだろう。


ガラガラガラ


「山本ーー!!!」


山本が立っている階の床にサメが体当たりをしたらしく、足場が崩れて2人とも水の上に落ちてしまった。
まだ届かないと思っていた距離が一気に縮まってしまった。水面に現れたヒレでサメがこちらに泳いでくるのがわかる。


「ああ!!」


次の瞬間。山本がスクアーロによって安全な3階部分に蹴り飛ばされ、取り残されたスクアーロをサメが覆った。
数秒後水面は静かになり、やがて赤い色を生み出した。


「スクアーロ…?」


いきなりの残酷な出来事を名前は理解できないでいた。というよりも、理解したくなかったのかもしれない。
でも水面に浮かぶのは紛れも無いスクアーロの血で、それ以外何も浮かび上がってくるものは無いのだ。


「名前。」
「雲雀……スクアーロ…スクアーロが…!」
「……」


名前が雲雀の学ランを掴んだ。
雲雀は今にも泣き出しそうに歪んだの顔を見つめながら、その頬に右手を添えた。


「名前……君の試合、僕がやろうか?」
「…!」


雲雀から出た言葉は今名前が思っていることとは全くズレたものだった。
だが、それも名前を混乱させる元凶の1つであることは確かだ。


「ディーノって人がそれじゃ反則になるって言ってたけど……君がそこまで戦いを苦とするなら、僕が代わる。」
「……」


雲雀の目はまっすぐと名前の目をとらえている。
名前の目がいつもより少しだけ大きく見開かれて、中のひとみが揺れ動いたのがわかった。
そして静かに一筋の涙が名前の頬を伝い、やがて雲雀の指で止められた。


「名前…」
「……ありがとう、雲雀。」


名前が添えられた雲雀の手を上からぎゅっと握ると、次々と目じりから涙が溢れだした。
雲雀はただただ、無言でその様子を見つめる。


「でも…、大丈夫。」
「……」


やがて雲雀の手は名前によってどけられて、名前は自分で流れた涙を拭いた。


「雲雀はやさしいね。」


「やさしい」なんて言われたのは初めてだった。







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