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65


ボンゴレリング争奪戦が決まった次の日。ツナはリボーンに言われて学校に向かっていた。
いきなり突きつけられた過酷な戦いにツナは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、途中で会った山本と獄寺のおかげでもう震えは止まっていた。


「綱吉さーん!」
「名前さん!」
「お、はよー。」
「おはよう!」


そこに同じ並中の制服を着た名前が小走りで来た。
名前もこれから命を懸けた戦いが始まるというのに、いつもとなんら変わりはないように見える。


「隼人もおはよう!…って…これ何?紙ヒコーキ?」
「なっ!おいコラ開けんなっ!」


名前が獄寺の持つダンボールを覗いたところ、中は大量の紙ヒコーキでいっぱいだった。
ツナが聞いてみると修行に使うんだとか。紙ヒコーキで修行……ツナはまた一気に不安になった。


「にしても霧のリングの奴は何してんスかねー。この大事な時に顔も見せずに!!」
「どんな奴だろーな。」
「アホ牛よりまともな奴であることを願うばかりだぜ…。名前知らねーのか?」
「私も知らない。リボーンってば教えてくれないんだもん。」
「ヒバリもいなかったよな。あいつと手合わせしてーんだけど…」
「あいつはきっと寝てるぜ、応接室で…。」
「でもディーノさんと修行してるはずだけど…」
「!!」


ツナの言葉を聞くなり顔を青くさせる名前。額には冷や汗が見えて、目はどこか泳いでいる。


「…名前さん…?」
「あっ、あの…私、先に学校行ってますね!では!」
「あ…」


そしてビクッと肩を震わせたかと思うと、半泣き状態で学校に向かって走っていってしまった。


「何なんだアイツ…?」
「どーしたんだろーな。」
「さあ…」















「はぁ、…っ!」


バンッ


「!」
「名前!?」


学校についた名前は真っ先に応接室に行って、誰もいないのを見て屋上に向かった。
そこには血だらけで武器を構え対峙する、雲雀とディーノの姿が。
屋上の破損された壁が、2人の戦いの凄まじさをもの語っている。


「ちょっ、2人ともケガ…!ちゃんと手当てしないとだめじゃない!!」
「「……」」


いきなり登場したうえ、少しズレたことを言う名前に雲雀とディーノは数秒固まってしまった。
名前はそんなのお構いなしで2人の間に入って雲雀のトンファー、ディーノの鞭をそれぞれ没収した。


「…っつーか名前!お前恭弥に指輪の話してないなかったのかよ!」
「うっ…!」


はっと気がついたようにディーノが言った。名前は素早くディーノから目を逸らして口ごもる。
ディーノが雲雀と初めて会ったとき、名前が指輪を渡したことは知っていたから、当然その指輪についての話もしてあると思っていた。
しかし実際いってみると話が全然通じなく、おまけに名前が来るのを期待していた雲雀にトンファーを振り回されたのだ。


「だ、だって雲雀がいきなり…」
「…!?」
「あ…私、救急箱とってくるから!けんかしちゃだめだからね!?」


口をもごもご動かしたと思ったら意味深な発言を残して名前は屋上を出ていってしまった。


「……恭弥、お前名前に何かしたのか?」
「……あなたには関係ないよ。」


名前はもう行ってしまったからディーノは雲雀に聞いてみた。が、返答はそっけない。
2人の反応に、なんとなくだが、雲雀が名前に何をしたか検討がついてきた。


「…じゃあその関係ない人から1つ忠告だ。」
「……」
「名前はああ見えても男性恐怖症なんだ。」
「…!」


雲雀は無視を決め込もうとしたようだが、このディーノの言葉には反応せざるを得なかった。
そんなこと名前からもリボーンからも聞いたことがなかったし、実際今までずっと普通に接してきた。


「思い当たる節は見せてねーか?」
「……」


しかしよく考えてみれば、思い当たる節はいくつかあるかもしれない。
雲雀の攻撃を軽く受け流すくらいの名前が、不良の男に囲まれた途端に震えて何もできなくなってしまうということがあった。あれは男性が怖かったからだったのだ。


「最初は物陰に隠れて口もきいてくんなかった。」
「……」
「…やっとここまで回復したんだ……変なことすんなよ。」


ディーノの最後の言葉が重くのしかかった。


「…ロマーリオ、昼飯買いに行くぞ。」
「おう。」


立ち尽くす雲雀を置いて、ディーノはロマーリオと一緒に屋上を出て行ってしまった。


「……」


残された雲雀はただ静かに空を見上げた。














「あ、あれ!?ディーノは…!?」
「…どっか行ったよ。」


数分後、保健室から救急箱を拝借してきた名前が屋上に戻ってきた。
が、そこにディーノとロマーリオの姿はない。名前と入れ違いで出て行ってしまったのだ。
勝手に行ってしまったディーノに、名前は口を尖らせながらも「まずは雲雀の手当て」と言って雲雀の隣に座り込んだ。


「……」
「……」


雲雀は救急箱からガーゼを取り出す名前をじっと見つめていた。
名前が雲雀の視線に気づいてもなお、構わずに名前の目をとらえて離さない。


「…名前…」
「! ちょ、雲雀…」


そしてだんだんと名前に近づいて、すっぽりと名前を自分の腕の中に抱きしめた。
もちろん名前が大人しく抱きしめられているわけがなくて、雲雀の腕をほどこうと足掻くが、足掻けば足掻くほど雲雀の腕の力は強くなる。
抵抗しても無駄だということがわかったのか、名前は抵抗をやめたが、その体は小さく震えていた。


「…大丈夫。」
「…!」


そんな名前を雲雀はもっときつく、しっかりと抱きしめた。耳元で囁かれた言葉が、優しく名前の鼓膜を振るわせる。
安心したのだろうか、名前の震えはおさまっていた。


「……怖い?」
「……」


雲雀が尋ねると、名前は小さく首を横に振った。
顔は雲雀の胸に埋めているからわからないが、耳を見る限り赤い。
雲雀は名前を抱きしめる腕の力を少し緩めた。


「…この前は、ごめん。」
      

雲雀の口から謝罪の言葉が出てきたので名前は顔が赤いのを構わずに雲雀を見上げた。その目はしっかりとこっちを見つめていた。


「怖がらせてごめん。」
「……」


「あの雲雀が謝るなんて…」と目をぱちぱちさせて驚く名前。
驚きながらも何か反応をしなければと思い、名前は適当に首を振った。


「でも、大丈夫だから。」
「……」


雲雀は相変わらず真剣な目で名前を見つめたまま、右手を名前の頬に添えた。名前は呆気にとられて特に反応をしない。


ガチャ


「!!」


が、屋上の扉が開かれる音とともにすごい勢いで雲雀を突き放して立ち上がった。
入ってきたのはコンビニの袋を持ったディーノとロマーリオだ。


「名前も一緒に昼飯食おーぜ!」
「う、うん!ってそれより傷の手当て!!」
「はいはい。」
「……」


この後の修行、ディーノは雲雀からものすごい殺意を感じたそうだ。







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