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「うーん…」


イタリア某所のブティック店にて、名前は空のカゴを持ったままメンズ服と睨めっこしていた。














えーと、今日は最近できたらしいブティック店に服を買いに来ています!
自分のもまあ買うんだけど、主な目的としては犬ちゃんとちーくんの着替え!
私のを貸そうにも2人には小さすぎるし嫌がるだろうし、とにかく着替えがないのですよ。
それで張り切って買いに来たはいいんだけど……2人の好みがわからない…!
うーん…男の子ってどういうのがいいんだろ……わかんないなぁ…。
ここに本人たちがいればこんな悩む必要は無いんだけど、今2人をうかつに外に連れ出すわけにはいかない。
どんな理由があっても2人が脱獄者なのは変わりないんだから、関係者に見つかったら大変だもん。


「……?」


なんて考えてたら、何も入れてないはずのカゴが急に重たくなった。
あ、あれ?なんか服入ってる……ってまた入ってきた!え!?


「あ、あの…」
「ん?」


横を見たら知らない男の子。金髪で、前髪が長くてモデルさんみたいにスラーってしてる。
あ、頭にティアラ……可愛い!…じゃなくて!何でこの子人のカゴに勝手に服入れてるの!?


「これ私のカゴだよ?」
「知ってるよ。今日はあんたに奢ってもらうから。」
「へ?」


しれっと当たり前のように答える男の子。
それはつまり、この子の服を私が買うということでしょーか…


「な、何で!?」
「ずーっとここ動かなくて邪魔だったしなんか金持ってそーだし。」
「あ、ごめんなさい…じゃなくて、カツアゲはだめだよ!?」
「うしし、いーの。だってオレ王子だもん。」
「はい…?」


いや、まあ確かに王子さまっぽいけど…(ティアラが!)
なんてわがままな子なんだろうか!私と話しながらもどんどんカゴに服を入れてくるこの子に私はどう対処すればいいの!?
ちょ、お母さーーん!お母さんいませんか!?お宅の子がこんな非行をー!!


「つーか何で女がメンズ見てんの?」


なんて心で叫んでもお母さんは来てくれません。それ以前にお母さんと一緒に来てないのかもしれません。
18歳…くらいかな…?この歳はもうお母さんと一緒に服買うとかしないのかな…。


「ねえ、聞いてる?」
「はい私は生物学上女ですよ!?」
「しし、そんなの聞いてねーし。」


あれ、からかわれてる…?なんか今すごくばかにされた気がする!


「次こっち。アクセ見る。」
「わ、ちょ、ちょっと待って!」


よく見るとこの子、けっこうおしゃれさんなのかな…。一般的な基準はよくわかんないけど、今着てる服もかっこいい…と思う。歳も犬ちゃんたちと近そうだし……


「あのっ、私の代わりに服選んでくれる!?」
「は?」
「えーと、一緒に住んでる男の子…14歳なんだけど、その子たちの服選んでるの。でも若い男の子の趣味ってよくわかんなくて…」
「…ふーん。いーよ。オレのも買ってくれれば。」


む…そうきたか…!
……まあいっか!2人の気に入る服が買えるんだったらこんなの安いもんだよね!


「いいよ!」
「交渉せーりつー。」












「しし、気分いーから送ってってやるよ。」
「あはは、ありがとうございます!」


1時間ほどで買い物を終えて、ベルと名前は並んで道を歩いていた。
ベルの両手には2つの大きな袋。中はもちろん洋服だ。金額にして1200ユーロ。
1200ユーロは日本円に換算するとおよそ17万。洋服を買うのにこの値段はなかなか無い。
一般人ではありえない程の量の買い物と、普通にゴールドカードを出してくる名前に店員はもちろん、周りの客もそりゃあもう、驚いていた。と言っても、半分以上はベルのものなのだが。


「ゴールドカードとかどこのセレブだよ。」
「セレブじゃないよー。」
「あんたおもしれーや。」
「?」


普段のベルならこんな風に奢らせた相手を生かしておいたり、あまつ荷物を持つなんてことありえないことだ。
奢らせた相手は気分次第では殺す、ただの暇つぶし程度のものだった。
でも名前の場合は10万もの大金を普通に出すし、お礼まで言ってくるし、今までに無いタイプでベルは少なからず名前を気に入ったらしい。


パァン


「きゃぁぁああ!!」
「!?」


すると、突然近くから銃声と女の悲鳴が聞こえてきた。おそらくどこかのマフィアが抗争でも始めたんだろう。
明らかに穏やかではない騒音に名前はどうしようかと迷っていると、隣を歩いていたベルがフラっとその方向に向かって行ってしまった。


「ベル…?」
「獲物み〜っけ。」


名前は慌てて小走りでベルを追いかけた。やっぱり放ってはおけないし、ベルは名前の分の袋を持ったままだ。
ベルの顔を覗きこむと、舌で唇を舐めて愉しそうに口の端を上げていた。


「(この子…!)」


ベルから滲み出てくる、一般人ではありえない程の殺気を感じとった名前は一瞬足を止めた。
が、それなら尚更放っておくわけにはいかない。この子は危険だ。本能的にそう思った。


「何だおまえは!」
「殺されたくなかったら今すぐ消えな!」


狭い路地に入ってみると、銃を持った2人の男と腹部から血を流している男と、その男に寄り添って泣いている女がいた。
おそらく倒れている男と寄り添う女は一般人だろう。買物袋からトマトやリンゴなどが地面に落ちている。


「ゲームスタート。」
「!」


ベルがニヤっと笑ったと思うと、いつの間にかベルは手に数本のナイフを持っていて、それを銃を持つ2人の男に投げた。
ナイフは男たちのあらゆる場所に的中した。あまりもの速さに名前はもちろん、男たちも未だ状況がよくわかっていたいみたいだ。
やがて男たちは自分に刺さっているナイフを確認して、うめき声をあげて倒れていった。


「2匹…」
「ぐあ!!」
「がっ!!」
「……ひっ…」


ベルは倒れた男2人にとどめのナイフを刺して、今度は女のところにゆっくりと近づいた。
女は恐怖に怯え、倒れている男を抱きしめながら震えている。とても動けるような状態ではなかった。


「ベル!!」
「……」


ナイフを構えたベルの腕を名前が掴んだ。ベルはつまらなさそうに名前の方を振り向く。


「邪魔しないでよ。」
「その人は一般人でしょ!」
「……ふーん…じゃー名前は一般人じゃないんだ?」
「!」


名前は墓穴を掘ってしまった自分の言葉にはっとした。
ベルはその表情を肯定ととって名前に向き直る。標的を名前に変えたのだ。


「しし、楽しませてよ。」
「……」


銃は両方とも太ももに仕込んである。が、ここで抜くのは気が引けた。ベルの後ろには一般人がいる。
名前はとりあえずこの路地から出ようと、ベルを見ながらゆっくりと後ろに下がっていった。


「…っ」
「つれねーの。」


大きめの道に出たと同時に名前は全力で走った。ベルはその様子を少し眺めてから追いかけてきた。
逃げ切れれば1番いいのだが、ベルの足の速さを考えるとまず無理だ。少しずつ距離が縮められていく。
名前は観念して太もものホルスターから針銃を抜いた。


「へぇ…」


それを見てベルはますます愉しそうに顔を歪め、右手のナイフ3本を名前に向かって投げた。
名前は咄嗟に普通の銃の方も抜いて、2つの銃そのもので全てのナイフを叩き落す。


「…やるね。」
「(ど、どうしよう…)」


名前のその反応は余計にベルの好奇心を煽ったみたいだった。
ベルは更に多くのナイフを構えてどんどん名前に投げつけていった。


「っ!?」


名前はそれを1つ1つかわしたり弾き返したりしていくが突然死角からナイフが現れて、名前の首元に薄く赤い筋を刻んだ。
それに怯む隙も与えず、今度は足元にナイフが降ってきた。
名前は前に跳んで避けたが、レンガ造りの道が仇となりバランスを崩して膝をついてしまった。


「うしし、ゲームオーバー。」
「……」


そんな名前に、ベルが加速して近づいてくる。
今から立って逃げようにも間に合わない。名前は覚悟を決めて針銃をベルに向けた。


ドォン


「!!」


銃声とともにベルの動きが止まった。ベル自身何が起きたのかわからないようだ。
確かに銃声はしたのに、弾が飛んでこなかった。
それもそのはず、聞こえた銃声は左手の銃のもので、名前がベルに向けて撃ったのは針銃の方。
一見しただけでは針銃と普通の銃の区別はつかないため、ベルは針銃から弾が出てくるのを予想していたのだろう。
が、実際に出たのは針。弾を描いていたベルの目がそれを捉えるのは難しかった。
針はベルの足に刺さり、やがてベルは膝を地面につけて倒れた。それを見て名前はゆっくり立ち上がる。


「何コレ…?」
「…麻痺の薬塗ってあるの。致死性はないから安心して。」
「殺し屋じゃねーの?」
「…違うよ。一般人じゃないのは…確かだけど。」
「ふーん…」
「…解毒剤、ここに置いとくね。じゃあ、私は逃げるんで!」
「……」


ベルより少し離れた場所に解毒剤を置いて名前は走って行った。わざわざ「逃げる」宣言をする意味はないと思うが。


「…しし、変なの。」


ベルは地面に伏しながら愉しそうに笑った。








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