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「おいで。」
ヒバリさんはそれしか言わなかったけど、それから名前さんの震えが止まったように、オレには見えたんだ。
「もういいやっちまえ!!」
「ひぃっ!」
さっきから意味のわからない雲雀に痺れを切らしたリーダー格の男が周りの男に合図をした。
それと同時に雲雀に向かっていく男たち。ちなみにツナの方にも。
「クク、どーした?泣いてんのか?」
「……」
一方名前の方は、さっきからずっと頭を下げて動かない。
「だいじょーぶ、あいつの代わりにオレがたっぷり可愛がっ…!?」
「動かないでね。これ本物だから。」
泣いてるのかと思われたが、名前の目には涙1つなかった。しかも背後の男の顎に銃を押し付けているではないか。
男は思わずひるんで、その隙に名前は男の腕からするりと抜けて、男の顔を銃で殴った。
「……」
それを見た雲雀は、口の端を少し上げてトンファーを再び構えた。
「……」
「……」
あの後獄寺と山本も加勢に来て、5対50くらいにも関わらず勝利を収めたのはツナたちだった。
ツナたちのお金は、名前がなんとか雲雀を説得してくれたおかげで無事取り戻せた。
そして名前は今、雲雀の隣で花火を眺めている。
「…けが、ない?」
「ないよ。」
「そっ、か。よかった。」
「……」
さきほどから全く会話が無い。なんだか名前がギクシャクしているような気もする。
聞こえるのは花火の音と、どこからか響く感嘆の声ばかり。
「ねえ…」
「!」
「なに、さっきから緊張してるの?」
「!?」
雲雀が面白そうに笑って、名前との距離を縮めてみた。
名前はより一層肩をすくめて、俯いてしまう。
「顔、上げてよ。」
「…」
髪を撫でて、そこから滑り落ちるように頬も撫でる。
「……く………した…」
「…何?」
すると名前が何やら口を開いたが、花火の音でよく聞こえなかった。
「…すごく、安心した。」
「…?」
「雲雀がおいでって言ってくれたとき……すごく安心したの。」
「……」
「戦ってるときも、大丈夫だ、…って思えた。」
「……」
相変わらず目は合わせてくれないが、今度はちゃんと聞き取れた。
「だから……っ!」
「……」
「悔しいけど、ありがとう、って、言いたいの…!!」
「……」
すごくいいムードに思えたのだが……どうやらさっきから雲雀に「ありがとう」と言うのがしゃくだったらしい。
本当に悔しそうな顔をしている名前はやはりズレている。
少なからずも期待はした雲雀は、少し唖然として、それから呆れた。
「な、せっかく人がお礼言ってるのに、何その呆れ顔…!!」
「…名前が空気読めないからだよ。」
「はあ?空気は読むとかそういうのじゃないでしょ!」
おまけに日本語が通じない。
雲雀は大きくため息をついた。名前にもわかるくらいに。
「もういいよ。」
「なんかものすごくばかにされてる気がする…!」
雲雀に馬鹿にされたと思い込んだ名前は「ふん」と言って草の上に寝転んでしまった。
そんな無防備な姿に雲雀は大きなため息をもう1つ。
チラリと名前を見てみると、その目はもう夜空の花火に釘付けになっていた。
「…名前。」
「ぅわ!?」
それがなんだか気にいらなくて、雲雀は名前の顔を挟むように両手を置き、名前と花火の間に遮って入った。
「花火見えない。」
「君はストレートに言わないとわかんないわけ?」
「はい?」
雲雀は真剣な顔で言うが、名前は何のことだかわからずにきょとんとしている。
「……」
「……」
少しの間無言が続いた。
「あ!!」
「……」
キスでもしてやろうかと雲雀が考えていると、いきなり名前が顔を上げてきたので咄嗟に顔を離した。
「草壁くんに景品預けてるんだった!ごめんちょっと行ってくるね!」
「……」
そう言って名前は走っていってしまった。
雲雀は本日3回目のため息をついて、草の上に寝転んだ。
「(うまくいかない…な。)」
真上に咲く花火を見ながら、そう思った。
「(…草壁は後で咬み殺そう。)」
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次から黒曜編。
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