28
あの後、しばらく名前と獄寺の病院内での鬼ごっこが続いたが、5分ほどしたところで獄寺が力尽きたようで勝負がついた。
獄寺はそのままドクターのもとに連れて行かれ、重症患者の部屋に移されたのだった。
獄寺を重傷患者の部屋に連れて行った後、名前は再びツナの病室を訪れたがそこはもぬけのからとなっていた。
「ま、まさか…敵襲!?」
名前もディーノと同様、「病院はボスが狙われやすい場所」という概念があるらしい。
そう思うやいなや、名前は顔を真っ青にして病院内を駆け回ろうとした、その時。
「ツナなら別の部屋に移されたぞ。」
誰もいなかったはずの病室から聞きなれた声が聞こえた。
「リボーン!襲われたわけじゃないのね!?」
「ああ。」
「よかった…。で、どこに?」
「それよりお前はヒバリのとこに行った方がいいぞ。」
「え!?」
「名前がいなくてそーとー機嫌が悪いらしーんだ。今頃ツナに八つ当たりしてるかもな。」
「はあ!?」
リボーンの言葉を聞くやいなや、名前は慌てて雲雀の病室に向かった。雲雀ならやりかねないと思ったのだろうか。
「!」
名前が雲雀の病室に駆け込んだときツナの姿はどこにもなく、雲雀がベッドで寝ているだけだった。
ツナは丁度入れ違い様に、重症患者の部屋に移されてしまったようだ。
「まさか……からかわれた…?」
しかしとても一騒動あったとは思えない静かさに、名前はまたリボーンに騙されたのだろうと1人で納得してしまった。
1つ溜息をついてから、テーブルの上に乗ったお皿がふと目に入った。
上に乗っていたはずの林檎が消えている。なんだかんだ言って、雲雀が食べたようだ。
「…寝てればいい子なのに。」
名前は笑みを零しながら、雲雀のベッドの隣においてあるイスに座った。
そしてまじまじと雲雀の寝顔を見てみる。そういえばこんなにしっかり、近くで顔を見るのは初めてかもしれない。
雲雀の顔は女の名前から見ても素直に綺麗で、羨ましく思いながらもちょっと笑えてきた。
「(そんなこと言ったらトンファー振り回されそう。)」
雲雀の寝顔を見ているうちに、名前は自分でも不思議なくらい自然に雲雀の頭を撫でていた。
「(…は!な、何してるんだ自分…)…!」
「……」
はっとして、慌てて手をどかそうと思ったところで手首をつかまれた。もちろんこの病室には名前と雲雀しかいないから、雲雀にだ。
どうやら目を覚ましたようだ。寝起きとは思えないはっきりとした目つきで名前を見つめている。
「いや、ああ、あの…熱!熱どんくらいかなーって見てただけだから!うん!」
「…何慌ててるの?」
「べ、別に慌ててませんー!」
何やら必死に弁解してくる名前に雲雀は薄く笑った。
「明日、退院するから。」
「…ああそうなの!…ってそういうのってドクターが決めるんじゃ…」
「今日は泊まってきなよ。」
「ああそうなの!…ってここに!?」
「他にどこがあるの。」
「いやでもそういうのってドクターが許さないんじゃ…」
「院長は僕に逆らえないから。」
「………」
妙に説得力のある雲雀の台詞。そういえば前にそんなことを言っていたような気もする。
名前はいろいろどうしようもなくなって言葉をなくした。
いつもより大人しい雲雀に調子を狂わせられるし、行かないと言っておきながらツナのもとへ行っていたという後ろめたさもある。しかも腕をつかまれていて逃げることができない。
「もう、どこにも行かないでね。」
「!」
そう言って雲雀はまたうとうとと眠りに入ってしまった。名前の腕を掴んだまま。
名前は一瞬顔をキョトンとさせてから、一気に赤面した。
「(なななな、何この子…!なんか今、ものすごくかわいいこと言われたような……っていうかかわいいんだけど!?)」
…母性本能がくすぐられたようだ。
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