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16


名前が再び目を開けたとき、男達は1人残らず地に伏せていて、その中にただ1人…雲雀だけがたたずんでいた。
彼と、彼の持っているトンファーには赤いものが付着している。名前がこの状況を理解するのに、時間はいらなかった。


「…ねえ、起きなよ。」


雲雀は血のついたトンファーをおろすと、砂場に倒れている名前を見下ろした。
見たところ外傷は無いのだが、すごく苦しそうに眉を寄せている。


「(何か変だ。)」


だからあの時出てきた。本当は彼女の実力を拝見しようと思ったのだけれど。何故彼女は反撃しようとしなかった?
そう考えながら、立たせてやろうと名前に近づく。


「だめッ、近づかないで!!」
「…」


名前は自分の腕を雲雀が掴もうとしているのを視界にとらえ、叫んだ。
まさか拒絶されるとは思っていなかった雲雀は、驚いて一瞬止まってしまった。


「来ちゃだめ…!」
「……何で?」
「…とにかく…、これ以上私に近づかないで。わかった?」
「……」


名前は理由を教えてくれなかったが、雲雀はとりあえず名前の言うことを聞くことにした。顔は明らかに不機嫌だが。
そんな雲雀の足元に、何かがコツンと当たった。


「…携帯?」


デコレーション等が一切無い、白い携帯……名前のプライベート用の携帯だ。


「シャマルに、連絡、して…。鎮痛剤って言えば、わかるから…。……ロックナンバーは……1317…。」
「………」


名前の言ったとおりに、雲雀はロックナンバーを入れてアドレス帳を開いた。
アドレス帳には明らかに外国人の名前が多くて、その中にある「ひばり」の文字を見て心の中で微笑んだ。それから「シャマル」の文字を探す。


「かけるよ。」


詳細から電話番号を選んで、通話ボタンを押した。


『名前ちゅぁあ〜んv何だぁ?チューされたくなっちゃった?』
「……」


2,3回のコールの後には、シャマルの耳障りな声が響く。雲雀は反射的に携帯を投げつけたくなったが、ここは我慢だ。
シャマルに今の状態を伝えると、事態が事態なため、急に黙り込んだ。


「場所は…」
『場所はいい。名前に近づくんじゃねーぞ!』


最後にまた大声を出して、通話は終わった。
台詞を遮られたうえに一方的に通話を切られて雲雀は無意識に携帯を持つ手に力を入れた。ミシッと、嫌な音が聞こえた気がする。


「すぐ来るって。」
「ありがと…」














「大丈夫か名前!!」


電話からわずか5分後、シャマルが名前のもとにかけつけた。その表情はいつもの鼻の下が伸びた顔からは想像できないほど真剣だ。
シャマルは倒れている名前をそっと抱き起こして、懐から白いケースを取り出した。
更にその中から出てきたのは小さな注射器。それを名前が苦しそうに押さえる左腕に向けた。


「……ッ…」


シャマルがゆっくり中の液体を押し込むと、最初は顔を歪めた名前も、徐々に落ち着いてきた。


「わりーな。鎮痛剤渡すの忘れてたわ。」
「ん……ありがと、シャマル……ひば……」
「!」
「安心しろ。鎮痛剤の副作用で眠っただけだ。」


力なくお礼を言ったと思ったら、名前はシャマルの腕の中に倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
それを見て雲雀は少し動揺したが、どうやら眠っているだけのようだ。通常のものより副作用が強いらしい。


「…さて、オレぁ今から名前を送るが……少年はどうする?」


シャマルが雲雀に向かって言った。その顔はもう真剣なものではなくて、いつものやる気のなさそうな顔。


「……いくよ。」


雲雀はトンファーを強く握って答えた。















「……ん…」
「……」


それから名前を家に送って、3時間程したところで名前は目を覚ました。
シャマルはもう帰ってしまったらしいが、雲雀がソファーに座って本を読んでいた。
もちろんそれは名前のもので、日本語を学ぶために最近買った『さるでもわかる!正しい日本語入門』という本だった。


「………何でいんのーー?!」
「……元気そうだね。」


家の中に雲雀の姿を見た名前は、すごい勢いでベッドから起き上がって叫んだ。
そんな名前にうってかわって雲雀は落ち着いていて、名前の方は見ずに今まで読んでいた本を閉じる。


「し、しかも勝手に読んでるし!」
「当たり前の事ばかりでつまんなかったよ。」
「そりゃああんたは日本人ですからね!」


確かに。さるでもわかる程度のものを読んでいて面白いわけがない。なら何故読んでいたのか…。


「元気みたいだし、僕は帰るよ。」
「……あ…(今までずっといてくれたんだ…)………あ、ありがと……(いや、でもお礼を言う必要はあるのだろうか…)」
「…別に。今日はいろいろ収穫があったしね。」
「……?」


名前は雲雀の言う『収穫』という意味がわからなくて首をかしげた。
が、とりあえずは玄関に向かった雲雀を見送ろうと、ベッドから降りた。


「送ろうか?道わかる?」
「…いらない。……じゃあ、また来るよ。」
「あ、うん。」


最後に不適に笑って、雲雀は出て行ってしまった。
名前は何気なく「うん」と返事をしたが、よくよく考えてみるとその言葉に酷く後悔をした。


「な、何でまた来るの…?!」


そう呟いても生憎反応してくれる人は誰もいない。


「………あ!!」


そして更に、今の雲雀の不適な笑みを思い出して、『収穫』の意味を理解した。


「家、知られた……し……左手の事バレちゃったし……ロックナンバー教えちゃった……!!」


何でこうもあの男に弱みを握られてしまうのだろうか。名前は玄関の前で1人嘆いた。








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