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黄の呼び方

名前っち。新しく入ったマネージャーっス。忍耐強くて、バスケの知識があって、俺目当てじゃなくて、可愛くて、料理がうまくて、巨乳の子。そんな女の子いるはずないって思ってたけど、案外見つかるもんっスね。
実は「俺目当てじゃない」っていう条件を聞いた時、一人だけ思い浮かんだ子がいるんスよね。それがまさに名前っちで。
でもこの時俺は名前っちの名前もクラスも何も知らなかった。ただ、顔だけは覚えていた。











俺が名前っちを最初に見たのは1年の秋くらい。まだ俺がバスケ部に入る前っスね。
放課後の廊下ですれ違った――ただそれだけだったのに、すごく印象に残った。だって普通の女子なら俺とすれ違う時顔を赤くしたり、話しかけてきたりするのに。名前っちは俺の顔を一瞬見て、それだけだった。
すぐに視線は外されて、赤面することもなく俺の横を通り過ぎていった。
初めての反応に俺は唖然として思わず後ろを振り返ると、以前俺にリフティングで負けたサッカー部の奴と話していた。
俺の方が実力は上なのに、俺を素通りしてそいつに笑顔を向けてるのに無性に腹が立ったのを覚えてる。
その後も何回か名前っちとはすれ違ったけど、毎回素通りされた。俺に見向きもしない女の子なんて初めてだった。きっと自分は可愛いと自負してて、プライドが高いに違いない……俺は勝手にそんなイメージを決め付けていた。
しかし実際に会ってすぐに、そのイメージは崩れ去った。
俺が少し皮肉を込めて「俺を知らない女子がいるなんて…」と言うと、名前っちはいとも簡単に俺のことを「イケメン」だと言った。
その反応が予想外で、言われ慣れてる言葉のはずなのに名前っちから聞くとなんだか新鮮に思えた。


名前っちがバスケ部のマネージャーになってからも、名前っちの態度は変わらなかった。
いや、流石に素通りはなくなったけど、なんていうか……他の女の子達のような反応は一切ない。例えば、差し入れにクッキーを焼いてきてくれたり、デートのお誘いをしてきたり。


「名前っちは本当に俺のことかっこいいと思ってんスか?」
「思ってる思ってる。」


ほら、こうやって聞いてもこの適当な返事!目も合わせてくれないんスよ!?ヒドくないスか!?


「俺一応モデルなんスけど……」
「知ってるってば。すごいすごい。」
「絶対思ってないっスよね。」
「うーん……福山さんと会うことがあるんだったらすごく崇める。」
「……」


名前っちの好きなタイプは福山正治。桃っちの情報と、本人がそう公言してるから間違いない。福山って40過ぎのおっさんじゃないスか。前にそう言ったら怒られた。そしていかに福山がかっこいいかを力説された。
名前っちの好みは渋い。とりあえず髭が似合う人が好きらしい。俺……髭はちょっと自信ないっス…。


「ほら、テーピング取れかけてるから巻きなおしなよ黄瀬っち。」
「やってくれないんスか!?……って…名前っち、今のもう1回…!」
「え?だからテーピング取れてるって。」
「そっちじゃなくて!」
「巻きなおしなよ黄瀬っち。」
「それ!」


『黄瀬っち』。名前っちがおれを呼ぶのは多分初めてで、今までされたことのない呼び方に新鮮さを感じる。
「〜っち」って、俺の真似っこじゃないスか!そんで俺はこの呼び方、認めたやつにしかしないんスよ?つまりそれって、名前彩弥っちも俺のこと認めてくれてるってことっスよね!?


「嬉しいっス!名前っちには俺が出てる雑誌全部タダであげちゃうっス!」
「いやいらないけど。私はね、モデルの黄瀬っちよりバスケやってる黄瀬っちの方がかっこいいと思うよ。」
「!! 本当っスか!?」
「うん。」


「かっこいい」なんて色んな人から言われ慣れてるのに、名前っちが言ってくれるとすごく嬉しい。それに、モデルとしての俺じゃなくて、本来の俺そのものを褒めてくれてるっていうか……あーもう!名前っちの言動には翻弄されっ放しっス!


「俺、もっと練習頑張るっス!!」
「うん、程々にね。」


そして今日も俺は名前っちに褒めてもらいたくて練習に励む。






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