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黒の観察


「今日からマネージャーになりました、名字名前です。よろしくお願いします。」


名字がマネージャーになった。
黄瀬はともかく赤司や緑間まで撒いたっつーもんだから驚いたけど、結局はテツをバスケ部員だと気づかず話してて捕まったらしい。爆笑した。
それでも勝負は勝負ということで、きっちりその日から名字は部活に来るようになった。


「おいおい新しいマネージャー超可愛くね!?」
「なんつーの、守ってあげたくなるような?」
「清楚系っていいよな〜。」


名字を初めて見る奴らは大体そう言う。可愛いだの、おしとやかそうだの、守ってあげたいだの。まあ……見た目だけならその通りだ。
でも俺はあいつの中身をそれなりに知ってるからその言葉に酷く違和感を感じる。だってあいつ、下手したらそこらへんの男よりサバサバしてるぞ。守らなくても確実に生きていける。


「なあ青峰、お前同じクラスなんだろ?」
「まじで!?桃井さんといいお前……爆発しろ!」


名字とは一年の時から同じクラスだ。
最初は俺もこいつらのように名字を可愛い女子だと思っていたが、そのイメージは話せば話すほど崩れ去った。好きな食べ物を聞けば肉と芋だと答え、趣味を聞けばカップラーメンの食べ比べだと言う。メールをしてみると返事の内容は必要最低限で、極端に絵文字が少ない。
でも、だからこそ名字と今の関係でいられるんだとも思う。一緒にいて退屈に感じない女子は名字くらいだ。


「彼氏いんの!?」
「知らねー本人に聞けよ。」
「おまっ、緊張すんじゃねーか!」
「そーか?」


緊張するような相手じゃねーのに。
名字はそのサバサバした性格から、男女共に人気が高い。話しやすいんだよな、名字って。実際にクラスのトラブルメーカーにギャルに大人しい奴に……相手がどんな奴だろうと対等に接している。
本人は面倒がっていたけどやるとなったら仕事はしっかりこなす。バスケ部のマネージャーだってそうだ。あれほどやらないと言ってたくせに、やると決めたら迷いが無い。
入ってまだ一週間も経っていねーのにもうすっかり部に馴染んでるし。


「名前っちー、ドリンク欲しいっスー!」
「うんそこにあるよー。」
「ヒドっ!手渡ししてくれないんスか!?」
「甘やかしませーん。」


黄瀬とはこの前が初対面のはずだがもう扱い方を心得てる。
ちなみに黄瀬は認めた奴には名前に「っち」をつけて呼ぶ。女子でこの呼ばれ方をされてんのは俺の知る限りさつきと名字だけだ。


「名前ちんお菓子ちょーだい。」
「部活終わったらね。」
「紫っちには甘いじゃないスか!」
「えーそんなことないよ。ねー?」
「うん。名前ちんはいつも優しいよー。」


紫原とは1年の時同じクラスだったから顔なじみだ。こいつら妙に仲良いんだよな。1年の時もよく一緒に菓子食ってた。
そういえば「あんなにでかいのに何で可愛く見えるんだろ…」とこぼしていた気がする。……可愛いか?


「名字、次の練習試合の……」
「日程表?印刷してあるよ。」
「それから今度の合宿の…」
「候補宿?3つに絞ってあとは多数決するだけ。今日とっちゃう?」
「……そうだな。」


スパルタな赤司に対してもこの通りだ。
仕事を頼む前にもうやってあるんだもんな。赤司も何も言えねーよ。


「よっ。頑張ってんじゃねーかマネージャー。」
「重っ!ちょ、自分の体重わかってんの!?」
「わかってやってる。」
「その筋肉全部脂肪になれ!」
「おいおい不吉なこと言うなよ。」


とりあえず、名字が来てから部活が楽しくてしょうがねェ。





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