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04


それから一週間。
私の生理はすっかり終わり体調は万全になったけど精神的にやばい。これはやばい。だって毎日、休み時間になるごとに、バスケ部員の誰かしらが私のもとに訪ねてきて「マネージャーよろしく」と言ってくるのだ。
私はあと何回「やらない」と言えばいいんでしょうか。まじ何なのこいつら日本語通じない。


「こんにちは、名字さん。」
「……こんにちはー。」


今朝来たのは巨乳で美人の桃井さん。何やら好戦的な笑みを浮かべている。うん、美人だ。そして巨乳だ。この人本当に中学生?
青峰の巨乳好きはここから来てるのか。幼馴染だって言ってたし。いいねえ、こんな綺麗で巨乳な幼馴染。漫画で主人公になれるよ青峰。


「名字さん、勝負しましょう!」
「……はい?」
「ルールは簡単。今日の昼休みの30分間、バスケ部員から逃げ切れるかどうか。逃げ切れたら今後一切バスケ部はあなたに干渉しない。でも逃げ切れなかったら……潔くバスケ部のマネージャーになってもらう。」
「ちょっと待ってそんな勝ち目の無い勝負受けると思いますか。」


私女!あいつら男!どう見ても私の不利じゃん。文化部女子ナメんな!


「ふふ、簡単なことよ。参加するバスケ部員は青峰くん以外の2年生レギュラーだけだし、名字さんのスタート時間は自由。つまり絶好の隠れ場所を見つければ30分じっとしているだけで勝てるんだよ?」
「………」


なるほど……青峰以外のレギュラーってことは、4人か。で、私は先にスタートしていいと。確かにそれなら勝てる気がする。正直毎日入れ入れってうるさいし、ここらへんでケリをつけるのもいいね。


「わかった。私が勝ったら二度と勧誘しないでね。」
「もちろん。」












12時30分。そろそろバスケ部員が動き出した頃だろう。名前は屋上の入口の上で寝そべっていた体を起こした。
この勝負で逃げ切ることができたら、しつこい勧誘から解放される。
バスケットボールは嫌いではない。事実小学校の頃はスポーツ少年団に入っていたし、それなりに強かった。
しかしマネージャーとなると話は別だ。マネージャーの仕事といえばドリンクを作ったり洗濯をしたり……選手を影から支える役目。そういった仕事にやりがいを感じる人もいるだろうが、名前は全くだった。



さて。
帝光中学の屋上は基本的に開放厳禁となっている。にも関わらず名前が入れたのは、先生に事情を話して懇願したら鍵を貸してくれたからだった。
名前の日頃の行いがいいのか、はたまた楽しんでいるだけなのか……とりあえず、ここは絶好の隠れ場所になるだろう。


ガチャ


「お、鍵開いてる。」


と思っていたのに、開始10分にも満たない時点で人が来てしまった。


「桃っちの言ってた通りっスね〜。」


この軽い口調と太陽に反射する金髪……イケメンモデルの黄瀬だった。


「でも逃げ場のない屋上を選ぶなんて……捕まえてくださいって言ってるようなもんっスよ〜。」


入口から入ってきた黄瀬にまだ名前の姿は見えないが、鍵が開いていたということは誰かがいるということで間違いない。おそらくは入口の裏か、上か。どちらに先に向かおうかと考えていると、裏の方から微かだがコツン、と音がした。
黄瀬はニヤける口元を押さえながら、なるべく音を立てないように裏に回りこむ。


「さ、大人しく捕まってもらうっス……って、あれ?」


しかしそこに名前の姿はなく、丸められたお菓子の紙袋がコンクリートの上に転がっていた。そして反対の入口側にストンと降りる音と、ガチャ、と鍵の閉まる音。


「え…え、えええええ!?」


急いで回り込んでもやっぱり彩弥の姿はなく、且つドアを回しても開かない。鍵がかかっているようだ。


「まずは一人目。」


ドアの向こう側で名前が楽しそうに笑った。












「!」
「黄瀬はうまくかわした様だな。」


階段を下りて4階の廊下を走っていると、理科室から赤い髪の男子……赤司征十郎が現れた。
今から方向転換をするには近すぎる距離。そうなると、もう突っ切るしかない。名前は速度を緩めずに赤司に向かっていった。


「僕と1on1でもするつもりか?」
「………」


バスケ部の次期キャプテンというからにはそれなりの実力なんだろう。
とは言っても名前だって小学校の頃とはいえバスケの全国大会に出場している。いくら男と女と言ってもまだ中学生。対格の差くらい他の技術で補えるレベルと名前は考えていた。


「なっ……」
「2人目!」


右か左、どちらに行かれても反応できる反射神経は持っていた。
それでも反応できなかったのは、目の前にいたはずの名前が急に消えたからだ。
気づいた時にはもう後ろに抜けていて、すぐには追いつけない程の距離ができていた。












黄瀬に続き赤司を撒いた名前は階段を下りていた……いや、飛び降りていたと言った方が正しい。
黄瀬は屋上に閉じ込めたからいいものの、赤司はまた追いかけてくるだろう。単純な追いかけっこでは勝ち目はないことは目に見えていた。


「あ、名前ちんみーっけ。」
「げっ。」


名前が階段の一番上から飛び降りた瞬間、紫原が現れ、その場で両手を広げた。このままでは自ら紫原の胸に飛び込んでしまうことになる。
しかし紫原とは一年の時からの付き合いだ。彼がどういう人間かを名前はよく理解していた。


「!!」


名前がスカートのポケットから出して紫原に投げつけたのはまいう棒2本。紫原の優れた動体視力はそれが新発売のたこチャーハン味と塩焼き牛タン味であることをしっかりと捉えた。そして名前に向けられていた体は背けられ、まいう棒2本を華麗にキャッチした。


「3人目!」
「あ。」


気づけば名前は次の階段も飛び降りて2階にたどり着いていた。紫原はそんな名前を見送りながら、さっそく袋を開けたのだった。













「さて、どっちに行こうかな……っと。」


階段を下りて右か左、どちらに行こうかと思い、ふと左を見たら4階で撒いたはずの赤司が待ち構えていた。先回りをされてしまったらしい。もう1回勝負だと言わんばかりの好戦的な表情で名前が来るのを待っている。
しかし名前にもう1回真っ向勝負する気は全然なく、赤司とは逆の左方向に進むことにした。


「ふん、どっちに行こうがお前の運命は決まっているのだよ。」
「!」


進んだ先には緑間真太郎が立ちはだかっていた。今更戻ることはできない。となると、突っ切るしかない。幸い名前と緑間の身長差はおよそ30cm。つまり、赤司よりもさっきの技が使いやすい。


「なっ…!?」
「4人目!」


緑間も先ほどの赤司同様、寸前で名前が視界から消えて通り抜けられてしまった。これで4人抜き。勝利を目前にして、名前は口の端が緩んだ。












「ふう。」


今の時間は12時50分。あと10分、バスケ部員に見つからなければ名前の勝利である。
名前は中庭の木の裏に腰を下ろし、乱れた呼吸を落ち着かせた。


「疲れたー!」
「お疲れ様です。」
「……!?」


独り言のつもりで呟いたはずが、思いのほか返答があったことに驚いて隣を見ると、水色の髪の毛の少年が透き通った瞳でこちらを見ていた。


「あれ、君……保健室で……」
「……覚えててくれたんですか。」


名前は少年に見覚えがあった。
以前、名前が保健委員という権利を乱用して保健室に入り浸っていた時に処置をした少年だ。名前が自分のことを覚えていたということに、少年は感動したように目を丸くした。


「あの時はありがとうございました。」
「いや、そんなお礼を言われるようなことはしてないって。」
「それでも……嬉しかったんです。」


丁度あの時は保健室の先生がいなくて読みたい漫画もあったから残っていただけだった。
処置と言っても、知らない男子に運ばれてきた彼をベッドに寝かすように指示しただけだ。その後はずっと漫画を読んでいた。だからお礼を言われるようなことではない。


「あの時、少し落ち込んでいたんです。名字さんからは元気をもらいました。」
「いやいやそんな……ってあれ?私名前言ったっけ……」


この少年と対面するのは確かに2回目だ。
上履きの色で同学年であることは知っていたが、初対面の時名前は名乗ってないはずだ。気づけば名前の腕はしっかり彼に押さえられていた。


「だから、僕も名字さんにマネージャーをやって欲しいです。」
「え……ええええ!?」


彼の名前は黒子テツヤ。
今月の初めに一軍に昇格し、レギュラーとして常にベンチ入りしている存在だったのだ。






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