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08


小さな頃から時々変なものを見た。それはきっと、妖怪と呼ばれる類のもの。


「ねえあなた、私が見えてるでしょう。」
「………」
「無視したって無駄よ。何度も目が合ってるもの。」
「………」


ああ、ついに話しかけられてしまった。
今私の目に映っているのは白いワンピースを身にまとった黒髪の女の人。彼女は人ではない…妖怪。この前公園で会った金髪の人についている妖怪。気にしないようにしてたけど気付かれてしまったみたい。


「危害を加えるつもりはないわ。ただちょっとお願いがあるのよ。」


今までの経験上、妖怪には2種類いる。食べようとしてくるものと頼みごとをしてくるもの。今回は後者の方だけど…どちらにしてもろくなことはない。


「あなたは何であの人に憑いてるの?」
「あなた、人間のくせに黄瀬涼太を知らないの!?」
「黄瀬涼太……?」
「黄瀬涼太っていえば今人気沸騰中のイケメンモデルじゃない!そしてバスケの天才!チャームポイントは……」


どうしよう……語り出した。
彼女の話を聞く限り、黄瀬くんはモデルさんでバスケをやってるみたい。後半は好きなものとか特技だとかだから聞き流した。それにしても人間界の芸能にここまで詳しい妖怪もいるのか…。
彼女が黄瀬くんのことがすごく好きなんだということは伝わった。とりあえず危害を加えるつもりはないみたいでよかった。


「……一応聞くけど、お願いって?」
「聞いてくれるの!?」
「聞くだけね。」
「あの人にファンレターを渡したいの!」


彼女からのお願いは拍子抜けのものだった。そう、きっと人間の女の子と同じような可愛らしいお願い。


「やっぱり私は妖怪だから、長く傍にいると自分の意思とは関係なく災いを呼んでしまう…。でも、想いを伝えずに離れることなんてできない!」
「……」
「私は人間の字を書けないし、書いたところであの人にそれは見えない。だから、私の想いをあの人に伝えてほしいの!」


人間に対してここまで好意を抱いてる妖怪も珍しい。けど……正直、めんどくさい。他の妖怪に比べたら可愛いお願いだけど、やっぱり私にとっては厄介ごとでしかない。


「でも私、その黄瀬涼太さんがどこにいるかとか知らないし…」
「大丈夫!私が知ってるわ!」
「………」


コンコン


「名字さん、ご飯ですよ。」
「は、はい!とりあえずその話はまだ後で。下まではついてきちゃダメだからね。」


断る口実に困っていたらいいタイミングで夕飯の時間だ。面倒くさいことは美味しいご飯を食べてから考えよう。












下におりてリビングに向かうとテツヤくんがいて、テツヤくんのお父さんとお母さん、おばあさんがいて……いつもの暖かい場所。この人達と一緒に食卓を囲むのはまだなんだか気恥ずかしい。


「テツヤくん、黄瀬涼太さんって知ってる?モデルでバスケやってるらしいんだけど…」
「モデルでバスケやってる黄瀬くんなら、僕の友人です。」
「え!?」
「中学が同じだったんです。名字さんも黄瀬くんのファンなんですか?」
「ううん、今日落とした学生証を届けに来てくれて…」
「そうですか。拾ったのが黄瀬くんでよかったですね。」
「うん。」


モデルらしいから有名な人なのかなって思って聞いてみたら意外な答えが返ってきた。
テツヤくんの友達となると……うん、放っておけないな。











「あなたを初めて見たのは梅の香が漂う頃……」
「ちょっと待って。なんかすごく長くなりそうなんだけど。」
「全部で5章ある。」
「……もう少し短くまとめた方がいいと思う。」


結局こうやって、妖怪に関わってしまう自分がいる。今度はいい繋がりになるといいな。




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