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「#エロ」のBL小説を読む
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04


小さい頃から時々変なものを見た。それはおそらく、妖怪と呼ばれる類のもの――。









「夏目さんって可愛いよなー。」
「でもすげー変わってるらしいじゃん?」
「ああ、いきなり走り出したり、独り言言ったりだろ?」
「ちょっと近付きにくいよなー。」


自分が周りからどう思われてるかは大体理解していた。
いきなり走り出すのは妖怪と遭遇したから。独り言と思われているのは妖怪に向けたもの。
物心ついた頃にはもう妖怪が見えるようになっていた。人間と同じように見えてしまうものだから、周りの人からはよく気味悪がられた。
なるべく反応しないように努力はしているんだけれど、なかなかできない。だって一つ目の黒い物体がいきなり現れたら誰だって吃驚するでしょう?
どうやら妖怪は私の妖力に寄り集まってくるらしい。害の無いものもいるけど、もちろん危害を与えてくるものもいる。
昔、初めてできた友達が私を狙った妖怪によって怪我をさせられたことがあった。
大事な人が傷つくのは怖い。だから、今の距離感でいい。


「おはよー!夏目さん。」
「……おはよう。」


そんな中、最近高尾くんとはよく話すようになった。
きっかけは席が隣になって……そう、帰り道、妖怪から逃げてるところに出くわしたからだ。私は走っていて、高尾くんは自転車にのっていて、曲がり角でぶつかった。
追ってくる妖怪に気をとられて前を見ていなかった私が悪いのに、高尾くんはすごく気にしていた。
その後も、なんとなくだけど高尾くんは私のことを気にかけてくれている気がした。


「あー寝坊した!はい、夏目さんにもチョコあげる。」
「ありがとう。」


高尾くんは明るい人で誰とでも仲良くできて、クラスのムードメーカー的存在だ。そしてすごく優しい人だから、私のことも気にかけてくれるんだと思う。
この前も妖怪に頼まれて探し物をしていたら一緒に手伝ってくれた。
少しだけ……仲良くなれたと、思っている。だからこそ傷つけたくない……そう思う。高尾くんには私が見ている世界を知ってほしくない……絶対に。











それから、大切なものがもうひとつ。


「おかえりなさい、名字さん。」
「……ただいま。」


私の両親は小さい頃に亡くなっているので、それからは親戚の家に転々と預けられてきた。
親戚といってもすごく遠い親戚で、幼少時に関わりはほとんどなかった。つまり他人の子供も同然。子供といっても人一人にかかる生活費はそれなりのもの。
いきなり現れた厄介者に、みんなあまりいい顔はしなかった。加えて妖が見えるせいで言動がおかしいと気味悪がられた。正直、あまりいい待遇は受けてこなかった。けど……今は違う。


「ロールケーキ一緒に食べませんか?隣の森さんがくれたみたいなんです。」
「わあ…美味しそう。食べていいの…?」
「もちろんです。」


黒子家に預けられたのは2ヶ月くらい前。
お父さんとお母さんとおばあちゃんとテツヤくんの4人家族。お父さんの方が私の母方の遠い親戚らしくて、私が生まれたばかりの時に一度会っているらしい。とは言ってもほぼ他人。それなのに、ここの人たちは温かく迎えてくれた。
正直こんな待遇初めてで時々どうしようもなく照れてしまうけれど、それも心地いいと思える。


「最近、名字さん楽しそうですね。」
「! そ、そうかな……」
「学校で何かありましたか?」
「えっと……」


テツヤくんは私と同い年の男の子で、誠凛高校という新設校でバスケ部に入っている。
バスケは中学の時からやっているらしくて、部活でのことをテツヤくんはとても幸せそうに話してくれる。私はその話を聞くのが好きで、いつか試合なんかを応援に行けたらと思っている。


「隣の席になった人と、よく話すようになって……」
「……そうなんですか。」


私の拙い言葉ひとつひとつに相槌を打ってくれて、微笑んでくれるのがすごく嬉しい。私をまっすぐ、透き通った瞳で見つめてくれるのがなんだかくすぐったい。


「すごく、優しい人なの。」
「……良かったですね。」


この時間がとても愛おしい。
だから……絶対に壊したくないと思う。




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