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あの子の弱点

「名前っちって、苦手なものとかないんスかね。」


ある日の部室にて、黄瀬が急にそんなことを言い出した。


「何なのだよいきなり……。」
「ネギとタマネギ。」
「食べ物じゃなくてさ、弱点的な!」
「何でそんなこと知りたいんですか?」
「だって名前っちって常に隙を見せないってゆーか逞しすぎるってゆーか……」
「まあ、あいつは“守らなくても生きていける系女子”だからな。」
「何そのカテゴリー。」
「自分で言ってた。」
「やっぱ、男としては守りたいじゃないスか!!」
「……は?」
「え?」
「何なんスか!みんなしてその反応!」
「いやだって……」
「お前何言ってんの?」
「まあまあ。黄瀬の言いたいこともわかる。」
「赤司っち…!」
「つまりは名前の弱みを握って優越感に浸りたいということだろう?」
「ちょっ、違うから!それ赤司っちでしょ!?」
「あー、確かに。」
「……オレも名前ちんの弱点知りたいかも。」
「紫原まで……」
「じゃあ、名前っちの弱点を誰が見つけられるか……勝負っス!!」
「ふ、オレに勝負を挑むなんて100年早いよ。」
「お前がオレに勝てるわけねーだろ黄瀬ェ。」
「人の弱点を探るなんて……趣味悪いです。」
「まったくなのだよ。」











ということで、第一回名前っちの弱点を探せ大会の始まりっス!!まずはオレ、黄瀬涼太からいくっスよ!


「名前っちー!」
「んー?」
「オレすげー話聞いちゃったんスよ!」
「え、なになにー?」


女の子の苦手なものといえば……そう、幽霊っス!怖い話を聞いて怖がってる姿って可愛いっスよね。怖いあまり服の裾掴んできたり、オバケ屋敷なんかだと抱きついてきてくれたりするのが最高っス!
そんなこと名前っちにされたら……俺もうやばいっスわ。


「帰り道のコンビニの手前の曲がり角にミラーがあるじゃないっスか。」
「うん、あるね。」
「そのミラー……夜になると、髪の長い女の子が映るんだって!」
「………」
「そんで、鏡越しに目が合った人をどこまでも追いかけてくるんだって!笑いながら!」
「……こわー。」


あ、あれー…?「怖い」って言ってる割にはいつもとテンションが変わらないような……あれ?


「そーいえばさ……」
「ん?」
「なんか怖くてゾクッとして後ろ振り返る時とかあるじゃん?」
「……あるっスね。」
「でも結局何もないじゃん?でも見ちゃうじゃん?」
「……そっスね。」
「そういう時って、後ろじゃなくて真上にいるんだって。」
「!!」


ぞくうっ!
想像してみたらものすごくゾッとした。つまり背後に誰かいそうで振り返って誰もいなくて安心している様子を上から見られてるってことっスよね?
うわああ…どーしよ、これから背後見た後真上見たくなっちゃうじゃないスか…!


「え、ま、まじスか……」
「あ、そろそろ集合時間だよ。」
「ちょ、オレそんなの知りたくなかった……」
「あと水場に出やすいって言うよねー。お風呂とか。」
「ちょ、ま、名前っち置いてかないで。」











名字の弱点を見つけることになった。
最初はくだんねーって思ったけど、よくよく考えてみれば名字の弱み握れるって超楽しくね?いつも生意気な名字が怯えたり泣いたりするのが見えると思うと……うん、イイ。
ってことで女が嫌いなもんっつったら……こいつらだろ。


「おい名字、手ェ出せ。」
「? ん。何かくれんの?」
「ほい。」
「………だんご虫?」


そう、虫だ。
オレは集合時間の前に中庭で捕まえてきたダンゴ虫たちを名字の手の平に乗せて様子を見る。しかし名字は顔をしかめたぐらいで特に大きな反応はしない。小さい頃さつきの頭に毛虫乗せたら泣き叫んだのにな。


「つっまんねー!」
「は?何が?」
「お前虫平気なの?」
「ああ……お兄ちゃんいるからかな。よく一緒に捕まえた。」


うっわマジかよとことん可愛くねー!











名前ちんの弱点を探せ大会〜。
黄瀬ちんが言い出したことで、最初は意味わかんないって思ったけど、よくよく考えてみたら俺、名前ちんの弱点知らなかったから参加することにした。だって名前ちんのことは全部知っていたいもん。
んー、でもなー……全然思いつかないんだよねー、コレが。
黄瀬ちんは怖い話して返り討ちにあって、青ちんの虫も効果無しだったらしい。他に女の子が怖がるものって何だろー?


「むっくんどうしたの?考え事?」
「んー…」


パス回しの順番を待ちながら考えてると、空いたボトルを回収しに来た名前ちんが俺を見上げていた。
名前ちんってこんなちっこいのに、ほんと逞しいよねー。黄瀬ちんが「守りたい」とか言うけど、そんな必要ないくらい逞しい。見た目はほんとにちっこくて可愛くて小動物みたいなのに。


「………あ。」
「ん?……んんん!?」


ちっこいから高いとことか苦手なんじゃね?って思って、名前ちんの脇に手を入れて持ち上げてみた。てか、かっる!女の子ってこんな軽いもんなの?


「あの……どうしたの?むっくん。」
「……怖くない?」
「は?別に怖くないけど……」
「そっかー。じゃいーや。」


俺の目線より上の高さに持ち上げても特に怖がる様子はなかった。高所恐怖症ってことはないみたいだ。
うーん、あとは何だろー……


「紫原。練習中に遊ぶな。」
「……はーい。」


他にもいろいろ試そうと思ったんだけど赤ちんに怒られちゃったからやめる。


「名前、ちょっと来てくれる?」
「ん?わかった。」


どうやら次は赤ちんのターンらしい。











名前の弱点を探すことになった。
いつも生意気な名前の弱点を握っておくに越したことはない。黄瀬もたまには有意義な提案をするものだ。
今のところ黄瀬が怪談、青峰が虫、紫原が高い所で試した結果、全部クリアされている。
どれも普通の女子なら悲鳴をあげてもいいものだが……さすが名前だ。一筋縄ではいかない。


「部室?私入っていいの?」
「ああ、ちょっと確かめてほしいことがあるんだ。」


もちろん確かめてほしいことなんて無い。むしろ名前が暗所恐怖症じゃないかを俺が確かめるんだけど。


カチ


「!」


名前が十分奥まで行ったところで電気を消した。
今の時間は19時過ぎ。太陽もすっかり沈んで照明なしでは無闇に動けない程の暗さになった。


「赤司くん、電気消えたんだけど蛍光灯切れたのかな?」
「………」
「赤司くーん?」
「………」
「え、呼んどいてバックレるとか赤司くんどんだけ自分勝手なの?」
「名前は本当に可愛くないね。」


しばらく粘ってみたけど名前は暗いところも平気なようだ。更には俺に暴言まで吐いてくるとは……さすがと言ったところか。









今日は黄瀬っちに怖い話されたり、青峰にダンゴ虫もらったり、むっくんに抱っこされたり、赤司くんに電気消されたり、なんかよくわからない一日だった。本当何だこれ。嫌がらせされてんのかな、私。
まあ、そんなこんなで今日も一日終わろうとしています。あとはボトルを片付けてマネージャーはおしまい!家に着くのは20時くらいかー。何しようかなー。


「……あれ。テツくん何してるの?」
「あ、名字さん……」


水道に干してあったボトルを取りに行くと、木陰にしゃがむテツくんの姿が。一瞬調子悪いのかと思ったけど、振り返ったテツくんの顔色は普通だった。
じゃあ何でこんなところにしゃがんでいるのか……その答えはテツくんの腕の中にあった。


「犬です。」
「!!」
「あっ……」


私はその姿を確認したと同時に走り出した。どこへかなんてわからない。とにかく走り出した。私の本能が叫ぶのだ。「逃げろ」と。そして振り返らなくてもわかる……奴は追ってきている…!!


「こないでーーー!!」
「? どうしたのだよ名字……」
「緑間くんヘルプ!」
「なっ…!?」


人間恐怖を感じると助けを求めたくなるのは当然で、私の足は少しでも人が多い第一体育館へと向かっていた。そして入口付近にいた緑間くんに助けを求めて飛びつく。
よ、よし、緑間くん程の巨体だったら奴も怯えて近づかないはず……


「ワン!ワン!」
「ひいいいっ!!」
「!?」


と思ったのに緑間バリアー意味ねええええ!!
奴は素早い動きで緑間くんの後ろに回りこみ、私に飛びついてきた。私はそれを避けることもできず、緑間くんごと床に倒れこんでしまった。そうなればもう、あとは奴にされるがままだ。


「名字!どくのだよ!」
「ふふ…むり……もう、むり……」
「ワン!ワン!」


何が楽しいのか、奴はもふもふの尻尾をふって私の顔面、耳、首……ありとあらゆる場所を舐めてくる。
そう……私は犬が苦手だ。嫌いなわけじゃなくて、苦手。何故かわからないけど、私は異様に犬に懐かれる体質のようで、大体こういうことになるのだ。人並みに可愛いとは思う。だけど、こうも毎回押し倒されては……ねえ。


「ちょ、何やってんスか緑間っちいいい!!」
「明らかに被害者は俺なのだよ!!」
「何事だ?」
「犬?」
「名前ちん大丈夫ー?」


わらわらと私(と緑間くん)のところに人が集まってくる。
集まってくるのはいいんだけど、誰一人として助けようとしないのは何故ですか。私が犬に舐められまくっているというのに、誰一人として助けてくれないのは何故ですか。


「名字さんは犬が苦手だったんですね。」


と、そこで私を舐めまくる犬をヒョイと持ち上げてくれたのは彼氏にしたいランキング1位のテツくんでした。これでようやく私も緑間くんの上からどくことができる。


「そ、そうだったんスか!?」
「へー。じゃー勝負はテツの勝ちだな。」
「は?勝負?」
「ななな何でもないっスよ!」
「誰が名字さんの弱点を見つけられるか競争してたんです。ちなみに発端は黄瀬くんです。」
「黒子っちいいいい!!」
「へー。ふーん。」


とりあえず今週1週間、黄瀬っちの対応は冷たくしよう。







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