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強引なキス

テスト期間でもないこの時期、図書館は空いている。
私もテツヤも一番奥のテーブルの一角に向かい合って座って本を読んでいる。
テツヤが読んでいるのは映画化が決まっている有名作家のサスペンス。私がオススメしたものだ。けっこうな長編だから読み終わるにはまだ時間がかかるだろう。
一方私が読んでいるのは初恋をテーマにした短編集。薄いものだからすぐに読み終わってしまった。
テツヤはまだかかりそうだから暇つぶしになる本でも探しに行こう。そう思って視線を上げるとテツヤの視線とかち合った。
あれ、小説を読んでたはずなのに…いつからこっちを見てたんだろう。どうしたの、と声をかける前になんとも言えない雰囲気を感じとる。
恋人であるから感じ取れるそれ。何よりテツヤが何も言わずに見つめてくるから居心地の悪さを感じる。


「私、本探してくるね。」
「……」


なんとなく居たたまれなくなって半ば逃げるように席を立つ。テツヤは何も言わなかったけど視線で追われるのは感じた。







テツヤと付き合い始めて3か月になる。
お互いに趣味も合うし、距離の取り方も丁度いいし、バスケに対する姿勢は尊敬する。
物腰の柔らかし話し方の通り性格も優しいし、でもたまにちょっと意地悪なところもある。
そんなところも全部ひっくるめて私はテツヤのことが好きで、その気持ちは3か月経っても衰えることなく、むしろどんどん増していく。
つまり何が言いたいのかというと、3か月経った今でもドキドキが止まらないわけです。
もはや本を探すことではなく、このドキドキを落ち着かせるために私は図書館内を彷徨っていた。
もう少し落ち着いてから戻ろうと思って、キリスト誕生諸説なんていうあまり興味のないタイトルの本をパラパラめくる。


「名前。」
「!?」


せっかく落ち着いてきたのにふいに後ろから声をかけられて一気に心拍数が上昇する。


「迎えにきました。帰りましょうか。」
「え、でもまだ読み終わってないんじゃ…」
「はい。恋愛小説を読む名前が可愛くてあまり読んでませんでした。」


サラッと爆弾発言をしたテツヤ。
ということはもしかして、私が小説を読み終わる前から見られてたってこと?恋愛小説を読んでハラハラしたりキュンキュンしたりしてるところを?


「あの小説僕にも貸してください。」
「え?」


テツヤはよく本を読んでるけど、あまり恋愛ジャンルの本は読まないはずだ。


「名前がどういう時にドキドキするのか、勉強します。」
「そ、そんなの必要ないから!」
「…どうしてですか?」
「だって…いつもドキドキするし……今も、してるし…。」
「……」


言ってから後悔した。私、ものすごく恥ずかしいことを言ってしまったのでは。チラリとテツヤを見上げると、いつもの表情で黙っている。ひ、引かれちゃったかな。


「すみません、キスします。」
「へっ…」


その言葉を反芻するより先に、テツヤの顔が目の前にあった。


「な、なっ…!?」
「可愛すぎてどうしてもしたくなっちゃいました。」
「こ、ここ図書室…!」
「大丈夫です、誰も見てませんよ。僕、影なので。」


ほら、こうやってたまに強引なことしてくるから私の心臓はキュンキュンを通り越してバクバクだ。


「…帰りましょうか。」
「…うん。」


差し出された手に自分の手を重ねる。
私はどんな恋愛小説のヒロインよりも幸せかもしれない。







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