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06


(赤葦視点)



俺が入学した梟谷学園には木兎光太郎という、全国で5本の指に入るすごいエーススパイカーがいる。
俺はずっとセッターをやってきて高校2年になった今、この人と同じコートに立ってトスを上げている。上がり下がりの激しい人だけどバレーの実力はすごいと思うし人望も厚い。本人には絶対言わないけど尊敬している。
そんな木兎さんには同い年の幼馴染がいる。名字名前さん。バレー部のマネージャーだ。
木葉さんは彼女のことを木兎さんのお守り役だと言った。しばらく見ていたら確かにその通りだと思った。木兎さんの忘れ物をチェックしたり常識を教えてあげたり煩いと叱ったり……その姿はまさしく親のようだった。


「ちょっと木兎!それ私のタオル!」
「お?そーだったのか。」
「何で普通に汗拭くの信じられない!」


今日も繰り広げられるやりとりに周囲の温かい視線が集まる。俺もスポドリを飲みながらそれを横目に見て、木兎さんも学習しないなあと思う。


「よーし赤葦トス上げろォ!!」
「いいですけど、タオルを名字先輩に返してからにしてください。」
「赤葦……!」


2年に進級して副主将を任されて、この2人の輪に入れてもらうことが多くなった。


「ありがとう赤葦!」


そしていつからか、名字先輩が木兎さんじゃなくて俺に笑いかけてくれることが嬉しいと感じるようになった。



+++



「木兎、今日調子悪そうだったね。もうすぐインハイの予選なのに大丈夫かな……。」
「まあ……問題ないです。」
「ふふ、そうだね。」


せっかく2人で帰ることになったのに、名字先輩から出てくるのは木兎さんの話ばかり。この前喫茶店に誘った時もそうだ。名字先輩は話題に困るとすぐに木兎さんを出してくる。それが面白くないと思ってしまう俺は幼稚なのだろうか。今の笑顔も、可愛いけど俺に向けたものじゃない。


「アイス食べますか。」
「うん!」


それでも少しでも長く名字先輩と一緒にいたいと思う。木兎さんが知らない名字先輩を知りたいと思う。名字先輩の好きなアイスが何かは、きっと木兎さんだったら知っていただろう。


「部活終わりのアイスは美味しいね。」
「そうですね。」


隣に名字先輩がいるから尚更……なんてクサいこと、さらりと言えたら何か違ったのだろうか。心拍数がいつもより上がっている今の俺には到底答えなんて出せるわけがなかった。


「……」
「……」


お互いにアイスを食べて無言になる。なんとなく気まずい。
いつも見てるからわかったことだけど、最近の名字先輩は様子がおかしかった。部活中も何か考え込んでは悲しそうな顔をする。俺と目が合うと今までみたいに笑いかけたり手を振ったりしてくれず、ふいと逸らされる。
そんなショックに耐えられず今日、本人に直接聞いてみたら誤魔化されそうになったけどどうも俺が山田さんに告白されたことを気にしていたようだった。もしそれが本当だとしたら変に期待してしまう。
正直、名字先輩に好かれている自覚はある。少なくとも嫌われてはいないはずだ。だけどそれが俺の名字先輩に対する好意と同じなのかは確証がない。それに多分、今名字先輩が一番優先しているのは俺ではなく部活だ。


「えっと……あ、そういえば今日ね……」
「先輩、前見てください。」
「っ、ああありがと!」


沈黙を気まずく感じたのか、名字先輩が喋りだしたが言葉を紡ぐのに必死で前から来る学生の集団に気づいていなかった。このままだとぶつかると思ったので手を引いて自分の方に寄せると、力が強過ぎたのか思ったより近くに名字先輩が来た。
正直このまま放したくないと思ったが慌てた名字先輩に振り払われてしまった。そうやって顔を赤くして焦る姿を見ると、やっぱり少し期待してしまう。きっと先輩は自分のことで精一杯で、俺も赤面してることには気づいていないんだろうな。


「あ、赤葦は……かっこいいよね!」
「は……」
「こう、女の子の扱いが丁寧だから……えっと……うん、嬉しいです。」


あ、はにかんだ。今のは他でもない、俺によって生まれた笑顔。そして好きな人からの「かっこいい」程嬉しいものはない。この前もそうだったけど、名字先輩は恥ずかしがる割にはけっこうさらっとそういうことを言ってくる。その一言に俺がどれだけ心を乱されてるか、思い知らせてやりたい。


「かっこよくないですよ。」
「?」
「どうやったら俺の方を見てくれるか……木兎さんに勝てるか、いつも必死に考えてるんです。」
「木兎……?」
「俺がどれだけ足掻いても幼馴染の壁は超えられない……わかってはいるけど、受け止めたくないんです。」


名字先輩の言葉にひとつ訂正を入れるとしたら、「女の子の扱いが丁寧」なのではなくて相手が名字先輩だから丁寧になるんだ。
なかなか伝わらない好意がとてももどかしくて、気付いたら普段明かさない心の内を一方的に話していた。ああダメだ、止まらない。もう伝えてしまいたい。


「名字先輩、俺は……!」
「…っ……」


意を決して名字先輩の顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていて言葉を飲み込んだ。


「先輩……」
「い、家!もうそこだから!ここでいいよっ、じゃあね!」
「……」


そんな泣きそうな顔さえ可愛いと思ってしまう俺は本当に先輩のことが好きなんだと思う。
涙を拭おうと手を伸ばすとハッとした名字先輩は途端に俺から距離をとり、走って行ってしまった。
……逃げられた。




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