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05


可愛いと有名な山田さんが赤葦に告白するらしい。そんな噂を聞いてから、私は気が気じゃなかった。
赤葦と山田さんが付き合うことになったらすごく嫌だ。でも、自分も告白しようという勇気が持てない私にそれを邪魔する権利なんてない。ただひたすら付き合わないようにと祈ることしかできないなんて滑稽だ。
噂を聞いて一週間が経ったけど、山田さんは告白したんだろうか。赤葦の様子を観察してみても特に変わった様子はない。まだ告白してないのかな。赤葦はバレー以外であまり表情を変えないからよくわからない。


「名字先輩。」
「ぅわっ!?」


そんなことをぼーっと考えながらビブスを洗濯機に投げ入れていると、頭の中に浮かべていたポーカーフェイスが目の前に現れた。驚きすぎて持っていた洗剤を落としてしまった。


「すみません、そこまで驚かすつもりはなかったんですが……。」
「ご、ごめん!私がぼーっとしてたのが悪いから!どうしたのスポドリ?それとも木兎がまた何かやらかした?」
「いえ……最近名字先輩、落ち込んでるように見えたので何かあったのかと。」
「!」


いつものように振る舞っていたつもりなのに、何で気付いちゃうの。一マネージャーの体調まで気にかけてくれるなんて赤葦は優しすぎる。そりゃあ山田さんも好きになっちゃうよなと納得した。


「ありがとう。でも大丈夫だよ!」
「……」


本当のことなんて言えるわけがない。赤葦に彼女ができるのが嫌で落ち込んでました、なんて。私は精一杯笑顔を繕った。


「俺には言えないことですか。」
「え?」
「木兎さんだったら言うんですか。」
「赤葦……?」
「……すみません。」


少しだけピリっとした雰囲気を感じたけど、赤葦が謝った時にはそれはもう消えていた。初めて見た表情にドキドキが治まらない。もしも赤葦が山田さんと付き合ったらどんな表情を見せるんだろう。優しく笑ったり、怒ったり、するんだろうか。


「おーい名前ー!」


ネガティブな思考回路が止まらない中、木兎の能天気な声に少しだけ救われた。


「俺のサポーター知らない!?」
「サポーター?私見てないけど……どうせ部室に転がってるんじゃないの?」
「そうかも!」


うちのエースはすぐに物をなくす。例えばそれが人に借りたものだとしてもだ。先日雪絵から借りたノートが行方不明になって半べそで助けを求められたのは記憶に新しい。結局はベッドの下に転がってたんだけど。だから今回もどうせその辺に転がってるに違いない。


「私見に行こうか?」
「そのくらい自分で取りに行ってください、木兎さん。」


木兎は一秒でも早く体育館に行きたそうだし、私が探した方が早いだろうから部室に行こうとしたら赤葦に腕を掴まれた。


「なんだよ赤葦!最近お前ツンツンしてんぞ!行くけど!」


赤葦にもっともなことを言われて木兎はプリプリして行ってしまった。きっと薄暗い部室に一人で行くのがちょっと怖いんだな。そんな木兎を見送りながらも、私の意識は赤葦に掴まれた腕に集中していた。


「今日、一緒に帰りませんか。」
「え!?」


腕を放されて言われたのは予想もしなかった言葉。一緒に帰るって……赤葦と私が?


「嫌でなければ。」
「嫌じゃない!嫌じゃないけど……」
「?」


そんなの嬉しいに決まってる。けど、山田さんの存在がチラついて感情のままに頷けない。


「赤葦は……その、大丈夫?私と帰って。」
「?」
「他に一緒に帰る女の子がいるんじゃないかなーって……」
「……いませんけど。」
「え、でも山田さ……あっ!」
「……」


思わず山田さんの名前を口走ってしまった。赤葦は「何でお前が知ってんの」って顔をしてる。終わった。絶対気持ち悪いって思われた。


「ご、ごめんね!その、噂で聞いちゃって……!」
「……もしかして、俺が山田さんと付き合ってるって思ってたんですか?」
「う、うん……。」
「……はあ。」


赤葦は深く溜息をついた。「この噂好きのミーハー女めが」みたいなこと思われてるんだろうか。つらい。


「告白なら断りました。」
「!? そ、そうなんだ。」


噂自体が嘘なんだと思ったら告白されたのは事実だった。あの可愛い山田さんの告白を断ったなんて。驚くと同時に嬉しいと思ってしまった私は最低な女だ。


「だから問題ないです。」
「え?」
「一緒に帰るの。」
「あ……!」


そっか。赤葦に彼女がいないってことは、別に私が一緒に帰ろうが誰に怒られるわけでもないのか。まあ、部活のみんなでアイス買って帰ったりは前からしてたし。


「……言っときますけど、木兎さんも一緒にってのはナシですよ。」
「え!?」
「木兎さんには俺から言っときます。」


そう一方的に告げた赤葦は気のせいか、少し笑っていたような気がする。




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