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07


「おい赤葦、お前名字と何かあった?」


翌日、どことなくぎくしゃくしている2人を気にかけて声をかけたのは木葉だった。
ぎくしゃくしているのは2人ではなく主に名前の方だけなのだが。赤葦を避けているということにはほとんどの部員が気付いた。おそらく気付いていないのは木兎だけだろう。そのくらい名前の態度はわかりやすかった。


「告白しようとしたら逃げられました。」
「あー……あんのヘタレ。」


名前が赤葦に好意を持ってるのはバレー部3年の間では周知の事実である。そしてまた、赤葦も名前に好意を抱いてることも木葉は知っていた。


「俺が軽率でした。無意識に焦ったんだと思います。」


バレー以外では感情をあまり表に出さないからわかりにくいが、赤葦は名前に避けられて相当ショックを受けているようだった。普段年上の木兎をうまく扱っている賢い後輩が落ち込む姿を見て、木葉の先輩魂に火がついた。



+++



「おい名字。」
「なにー木葉。」


部活の休憩時間、木葉はドリンクボトルを洗う名前に声をかけた。


「赤葦をフったんだって?」
「は!?フるわけないじゃん!!」


木葉の質問に名前は驚いて持っていたボトルを落とした。名前は赤葦のことが好きだ。フるなんてことはありえない。


「あいつはそのぐらいに捉えてんぞ。」
「え……赤葦、何か言ってた……?」
「逃げるってお前……ねーわ。」
「だ、だって!緊張で心臓破裂しそうだったし……!」


明らかに告白する雰囲気だったのにそれをさせてくれなかったということは拒絶されたということ……赤葦がそう思うのは無理もない話だ。しかし実際のところ名前が逃げたのは極度の緊張に耐えきれなかったからであって、赤葦がどうこうという問題ではなかった。


「今の関係、崩したくないし……」


そして何より、名前は今の先輩と後輩という関係性を崩すことが怖かった。


「でも、赤葦はそれを越えようと覚悟決めたんだろ。お前も覚悟決めれば済む話じゃねーの?」
「……」


木葉の言う通り、今の関係性を壊すことになるのはきっと赤葦もわかっている。それを知ったうえで伝えようとしたのは、彼にとってもすごく勇気のいる行動だっただろう。


「別に部内の雰囲気とか考える必要ねーよ。盛大に茶化してやるからな。」
「……ありがとう、木葉。」


そもそも人を好きになってそれを伝えたいと思うことは何も悪いことではない。名前がいろいろと考えすぎているのだ。3年間共に過ごした木葉に言われるとなんだか妙に納得できた。


「うん。私赤葦のことほんと好き。」


すとんと素直な気持ちが名前の胸に降りてきた瞬間。


「えーー!?名前、赤葦のこと好きだったのかーー!?」
「!?」
「うわ……」


偶然通りかかった木兎に聞かれてしまった。木兎は初めて知った幼馴染の恋心に盛大に驚き、大声で復唱した。そして更に不運なことに、名前を捜しに来た赤葦がその後ろでぽかんとしている。間違いなく聞かれた。


「木兎の……ばか!!」
「え!?え!?」
「木兎お前、ほんっと……!」


事態を誰よりも早く理解した名前は顔を真っ赤にして逃げ出した。空気が読めなさすぎる主将に、木葉はもう溜息しか出なかった。
しかし、荒療治ではあるがこれは逆にチャンスかもしれない。


「おい待てよ名前……!」
「いい。お前は行くな。」


名前の後を追おうとした木兎を木葉が止めた。何故なら赤葦がすでに名前を追いかけていたからだ。




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