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03

 
「名字それ何?」
「ジンジャーハイボールだけど……」
「俺も同じの飲む」
「でも、白布くんもうやめといた方が……」
「全然余裕だし」

白布くんと居酒屋でお酒を飲んでるわけだけど……白布くんはあまりお酒に強くはないらしい。2杯くらい飲んだら顔が真っ赤になってしまった。口調ははっきりしているものの、目はいつもよりとろんとしてる。

「男が酒弱いとかかっこわりーじゃん」
「そんなことないよ」
「…… 名字は酒弱い男でもいいの?」
「え? 特に気にしないけど……」

白布くんは一見中世的で可愛らしい顔立ちをしてるけど口調とか考え方はがっつり体育会系だ。ぶっきらぼうな言動は時折人を誤解させてしまうのかもしれない。

「……つーか名字も少しは酔っ払えよむかつく」
「え!? ご、ごめん……」

理不尽に怒られた。反射的に謝ってしまったけど私が謝る必要はないはずだ。私が比較的お酒が飲めるのは、お父さんもお母さんも酒豪だからなのかもしれない。

「白布くんお水飲もう」
「……ん」
「!」

体内のアルコールを薄めようと私が水の入ったコップを差し出すと、白布くんは両手を膝の上に置いたまま唇だけ突き出した。飲ませろってこと?一瞬戸惑ったけどその姿が可愛らしくて母性本能をくすぐられて、要求通りにコップを白布くんの口にあてがった。
頼んだ料理も一通り食べちゃったし、白布くんが大丈夫そうならそろそろ帰った方がよさそうだ。

「大丈夫?吐き気ない?歩けそう?」
「……見んなバカ」
「ええー……」

心配して顔色を伺っただけなのにまた理不尽に怒られた。酔っ払ってるし可愛いから許すけど。

「歩けそうなら外出ようか。風に当たると気持ちいいよ」
「……うん」


***


お店から出ると涼しい風が吹いていて、白布くんは気持ちよさそうに目を細めた。

「大丈夫?」
「……ちょっと座りたい」
「わかった。公園で休憩しよう」

吐き気はないとのことだけど足元はどこか覚束ない。このまま電車に乗せるのは心配だったから近くの公園で休むことにした。
先導しようとする私の腕を白布くんが掴んで、そのまま手を繋がれた。ドキドキする私に対して白布くんはおすまし顔だ。何も言うことができずに、私はその手を引いて公園まで歩いた。

「……今日、何で来てくれたの」
「え?」

途中の自販機で買った水を渡してベンチに並んで座っていると、白布くんが突然そんなことを言い出した。

「ふたりで飲みに行くとか、喰われるかもとか思わねーの」
「お、思わないよ。白布くんそういうことする人じゃないでしょ」
「……」

そりゃあ、ご飯に誘われて、2回目飲みに誘われたら私のこと好きなのかな……とかはちょっと思っちゃったけど、白布くんに変なことされるんじゃないかとかは全く思わなかった。私が中学まで見てきた白布くんも、久しぶりに会った白布くんも、そういうことをするような人には見えなかったから。

「……でも下心はあった」
「えっ」
「名字が酔っ払って、俺が介抱して、何かあればいいのにとか、思った」

まさかの下心をカミングアウトされてどう反応していいのかわからない。そういうことは思ったとしても心に留めておくべきだと思う。酔っ払ってる今の白布くんに言っても右から左なんだろうけど。

「なのに俺の方が酔っ払うとか……超ダセェ……」
「そ、そんなことないよ。体質とか遺伝もあるし……」
「違う……いつもはこんな酔わない」
「え?」
「名字のせいだから」
「え!?」

私のせいだなんて心外だ。無理にお酒をすすめるなんてことはしてないのに。

「名字が隣にいたせいで緊張して、いつもよりアルコールがまわった」
「!」

理不尽だと思っていたらその理由を聞いて何も言えなくなってしまった。白布くん緊張してたの?全然そんな風には見えなかった。なんだか私まで赤くなってしまっているような気がする。

「わ、私、白布くんには嫌われてると思ってた……」
「……初恋の相手がすげー可愛くなってたから、他の奴に渡したくないって、思った」
「……!?」

なんてこと言うの白布くん。


***
 

この前は色々と衝撃すぎた。普段しっかりしてる白布くんがあんなに酔っ払ったのも衝撃だし、私が初恋の相手だったってことも衝撃だった。結局あの後どうこうなるわけでもなく、終始無言で家まで送ってもらって別れた。とりあえず、白布くんは私のことが好きっていうことでいいと思う。
白布くんとお酒を飲んだのが金曜日の夜で、土日を挟んで月曜日。いったいどんな顔をして会えばいいんだろうと思っていたけど、今朝の電車に白布くんの姿はなかった。連絡もない。それが物足りないと感じてしまっている私は、白布くんのことが好きなんだろうか。

「ため息なんかついちゃって、恋の悩みかなー?」
「……」
「え、そうなの?ついに名前ちゃんに男っ気が……!?」

私が軽くため息をついたのを目ざとく見つけたのはバイトの先輩、天童さんだ。週明け月曜日の居酒屋は基本的に暇だ。のろのろとグラスを拭く私の近くに椅子を持ってきて居座りだした。

「そうですけど、天童さんに相談してもなあ……」
「失敬な!心理戦には自信があるヨ!」

確かに人の心を読むことには長けているかもしれないけど、恋愛経験豊富なイメージがない。正直想像できない。まあお客さんもいなくて暇だし、男の人の意見を聞いてみるのもいいかもしれない。

「この前成人式だったんですけど……」
「あ、成人式ラブ?あるよねー、久しぶりに会って燃え上がっちゃうヤツ!」
「やっぱそういうの多いんですか?」
「そりゃそうデショー。ちょっと可愛い程度でも昔が微妙だったらすごく可愛くなった!ってテンション上がるじゃん?」
「……」

天童さんの言葉はいちいち刺さる。わかって言ってるんだろうけど。

「小学生の時はよく意地悪されてて、中学の時は全然話さなかった男の子に連絡先を聞かれて、ご飯に行って……」
「え、何それすごく面白そうなんだけど!」
「金曜日に飲みに行ったら酔っ払って、初恋の相手だったってカミングアウトされて……」
「まあそうだろうねぇ。好きだからいじめちゃってたんだろうネ」
「それで、今日まで連絡がないんですけど……どういうことなんですかね?」
「ワンナイトはあったの?」
「ないですよ」

天童さんにここまで中身のある恋バナをしたのは初めてだ。前のめりで聞いてくれるのはありがたいけど、よく女子相手にワンナイトがあったのかとかずけずけと聞けるなあ。

「まあ……アレだね、ガチで好きなんだろうね」
「そうですかね……でも何で連絡ないんだろう……」
「話聞く限りそいつけっこう真面目っていうか、プライド高いんじゃない?」
「……」
「多分今頃自己嫌悪で悶えてるんじゃない?待つべきだと思うヨ」
「……天童さん怖い……」
「それか忘れてるかダネ!」
「……」

ちょっと話しただけで白布くんの人物像の一部を言い当ててしまう天童さん……さすが心理戦が得意だと言うだけある。確かに白布くんの性格からして、酔った勢いで気持ちを伝えるのは本意ではなかったと思う。天童さんの言う通り、もう少し待った方がいいんだろうか。

「いらっしゃいませー!」
「あ! 英太くんじゃーん!」

ガランとした店内にようやくお客さんが入ってきたと思ったら天童さんのお友達らしい。カウンター越しに目が合ったから軽く会釈をした。かっこいいけど服装がちょっと残念だ。


***(天童視点)


「え! 名前ちゃん狙ってる男って賢二郎なの!?」
「こんなとこで白布の好きな子に会うとは思わなかったぜ……」

1こ下のバイトの後輩、名前ちゃんはからかいがいのあるいい子だ。そんな名前ちゃんから初めて恋愛相談をされてただでさえ面白いのに、その相手が賢二郎……高校の部活の後輩だなんてどんな偶然だよ。運命感じちゃうよね。
英太くんは賢二郎と名前ちゃんが一緒の電車に乗ってるのを目撃して、その後賢二郎本人にも確認したから賢二郎が名前ちゃんのことが好きなのは間違いないらしい。
なるほどね〜、名前ちゃんが賢二郎の初恋の相手で、賢二郎は好きな子はいじめちゃうタイプだったと。高校の時は賢二郎の浮ついた話は全く聞かなかったからもう今から楽しみでしょうがない。

「英太くん賢二郎に連絡してみてヨ!」
「何て?」
「んー……ちょっと貸して!」

おそらく賢二郎は英太くんのこと軽くナメてるから、ちょっとやそっとのことじゃリアクションを取らないだろう。そんな賢二郎のポーカーフェイスを壊せるのは、やっぱ名前ちゃんしかいないでしょ。

「名前ちゃんピース!」
「え?」

というわけで、英太くんのスマホを借りて厨房でネギの下ごしらえをしている名前ちゃんとのツーショットをインカメで撮る。インカメなんてあまり使わないから上手に撮れたとは言えないけど、しっかり俺の顔のアップときょとんとする名前ちゃんが写ったから問題なし。
こんな写真が英太くんから送られてきたら流石の賢二郎もスルーはできないだろう。俺は勝手に英太くんのスマホを操作して、今撮った写真とここの場所の地図を賢二郎に送りつけた。
さて、何分で来るかな?


***


「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃ……!!」

賢二郎はものの20分ほどで店にやってきた。すごく急いで来たんだろうねぇ。明らかに部屋着だし髪乱れてるし。名前ちゃんは賢二郎を姿を確認すると目を丸くした。

「白布来たなー!こっち来い!」
「……」

アルコールで顔を真っ赤にして呼ぶ英太くんを無視して、賢二郎はカウンターの中にいる俺たちに向かって歩いてきた。お顔が怖いよ〜。

「……どういうことですか天童さん」
「見ての通り、バイト仲間だよ〜」
「え……し、知り合い……!?」
「……高校の先輩。……あっちの人も」
「そ、そうなんだ……」

言葉を交わすふたりはどこかぎこちない。そりゃあそうだよね、中途半端な告白してそれっきりだったんだもんね。

「はいはい、お客さんは席についてくださいねー! せっかく来たんだし酔っ払い英太くんの相手でもしてってヨ!」
「……」

いつまでもカウンター前から動こうとしない賢二郎を英太くんの席に案内した。

「名前ちゃん今日21時までだよ」
「! ……ありがとうございます」

こっそり名前ちゃんのあがる時間を伝える。こんな素直に賢二郎からお礼を言われたの初めてかもしれない。



( 2019.3-4 )
( 2022.8 修正 )

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