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04

 
まさか天童さんが白布くんの高校の先輩だったとは。しかも部活の先輩なんて、かなり近しい関係じゃないか。そうとも知らず白布くんとのアレコレを全部話してしまうなんて……私自身恥ずかしいし、白布くんにも悪いことをしてしまった。天童さんは人をからかう時ものすごくキラキラする。

「……外で待ってる」
「!」

21時少し前、お会計を済ませた白布くんにまっすぐ見て言われた。今日の私のシフトは21時まで。多分天童さんが教えたんだろう。
白布くんと話すのはたった3日ぶりなのにすごく久しぶりなような気がした。変にドキドキしてしまう。

「名字さんちょっと早いけどあがっていいよ〜」
「……」

話を聞いていたらしい菩薩顔の店長から退勤の許可が出た。まだ心の準備できてないんですけど。


***


「お、お待たせ」
「……ん。家まで送る」
「ありがとう」

スウェット姿の白布くん、新鮮だ。家でゆっくりしてるところに天童さんが撮った写真が送られてきて、慌てて来てくれたんだろうか。だとしたら嬉しい。

「天童さんと同じバイト先だったんだな」
「うん。私も天童さんが白布くんの先輩だって今日知ってびっくりしたよ」
「天童さんちょっとめんどくさいだろ」
「……ちょっとね」

知り合いとは知らずに色々と天童さんに話してしまったことは秘密だ。
それにしても……白布くんは私が思っていたよりも普通だ。なんだか私ばかりが意識してドキドキしてしまっている気がする。もしかしてこれ、忘れてるパターンなのでは。あの時白布くんは酔っ払っていたしその可能性は大いにあり得る。だとしたら一人で勝手にあれこれ考えちゃって恥ずかしいんですけど。

「てことは天童さんもバレー部だったんだ。なんか想像できないや」
「……」

それなら変に意識するのはもうやめよう。そもそも初恋の人だったって言われただけで、好きだと告白されたわけでもないし。私自身白布くんのことが好きなのかどうなのか、まだはっきり答えは出せないし。

「じゃあ……送ってくれてありがとう」
「……」

家の前まで到着して白布くんを見送ろうとするけどなかなか動こうとしない。意味ありげな目で見つめられてどうしたらいいかわからない。

「名字さあ……何で普通なの」
「え……」
「酔っ払ってたとはいえ、告白したんだけど」
「! 白布くん憶えてたの?」
「あ?」

ものすごく怖い顔で睨まれた。どうやらこの前のことは白布くんもちゃんと憶えているらしい。

「で、でもあれは告白っていうか、初恋の人ってだけで……」
「好きなんだけど」
「!」

あ、あれ、私今告白されたはずなんだけど何だろう……こう、きゅんきゅんしないというか。青春っぽい雰囲気が全然ないのは、白布くんに睨まれているせいだろうか。むしろ怒られている気分だ。

「……で、返事は」
「えっ……と……」

まるで尋問されるように返事を迫られてうまく言葉が出てこない。

「……悪い、やっぱいい」
「あっ……」

私がもごもごしていると、返事を聞く前に白布くんは行ってしまった。緊迫した雰囲気は解放されたけど踵を返す前にチラっと見えた白布くんの悲しそうな顔がしばらく忘れられなかった。


***
 

白布くんの告白からそろそろ1週間が経つ。あれから白布くんから連絡は一切ないし、電車で会うこともなくなった。
私が返事をできずにもごもごしていたら白布くんは「やっぱいい」と言って帰ってしまったわけだけど……やっぱいいって、どういうこと。
すぐに返事ができなかったからNOとして捉えられたんだろうか。はっきり言えなかった私も悪いけど、白布くんだってちょっと気が短すぎるんじゃないか。もうちょっと待ってくれたっていいのに。時間が経って振り返ってみたらなんだか段々と怒りがこみ上げてきた。

「名前明日合コン行けない?」
「……行く」

半ばやけくそのような気持ちで私は合コンの誘いに頷いた。


***


合コンの相手は地元企業の会社員1年目の年上。まだ経験していない社会人の話は普通に面白かったし為にもなったと思う。顔も普通にかっこよかったし、何より社会人ならではの財力は学生にはないものだ。数ヶ月前の私だったらこのチャンスを逃してたまるかと気合を入れてきただろう。
だけどお酒を飲んでる時も話を聞いてる時も、頭にチラつくのは最後に見た白布くんの悲しそうな横顔だった。もう、こんなの好き以外の何でもない。何であの時、白布くんの告白に頷けなかったんだろう。いくら後悔してもし足りない。ぽっかりと空いてしまった何かを埋めるために、私はいつもより無計画にアルコールを入れてしまった。

「名前ちゃん大丈夫?」
「はい……」
「ちょっと近くの公園で休もうか」
「すみません……」
「気にしないで。お水飲む?」
「……ありがとうございます」

酔っ払って足元が覚束ない私を送り届けると申し出てくれたのは、合コンで私の前に座っていた岡部さんという男の人だった。
下心は多少あるんだろうけどいやらしさは全然なく表面上は爽やかだ。歩く速さも歩幅も私に合わせてくれてたのがわかった。話も面白くて、付き合ったらこんな感じでスマートにリードしてくれるんだろうなって思った。

「あのさ……酔っ払ってる時に言うのはずるいかもしれないけど、俺名前ちゃんのこと結構いいなって思ってて……今度ふたりでご飯とか誘ってもいいかな?」
「……」

薄暗い公園のベンチに座って、肩に手を置かれて好意を伝えられる。ドラマに出てきそうなロマンチックなシチュエーションだ。

「……ごめんなさい」

スマートでもロマンチックでもなくていい。歩くペースを合わせてくれなくても、にこやかじゃなくてもいい。私は……白布くんがいい。


***


岡部さんの誘いを断った後、すっかり酔いが冷めた私は自力で帰路についた。目的もなくスマホを取り出して画面ロックを解除する。いつも電車内で見てるフリマアプリやSNSは何故か見る気になれなくて、つい指がタップしてしまったのはトークアプリだった。白布くんとのやりとりは友人や企業アカウントによってすっかり埋もれてしまっていた。

「……」

わざわざ遡ってトーク画面を開く。会いたい……そんなことをいきなり送ったら、怪訝に思われるだろうな。

「名字」
「……!?」

ため息をついてトークアプリを終了したと同時に名前を呼ばれた。スマホに落としていた視線を上げると、そこにいたのは白布くんだった。何でこんなところにいるんだろうとか考えるよりもまず、ただただ白布くんに会えて嬉しかった。

「……今日、合コン行ってきた」
「!」
「年上の社会人で、酔っ払った私を介抱して途中まで送ってくれたの」
「……」

今日のことを報告すると白布くんは表情を歪ませた。違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。

「歩くペースも合わせてくれるし、『無理しなくていいよ』って優しく言ってくれた」
「……良かったな」
「ううん……そんなの、してくれなくていい」
「……」
「……私、白布くんがいい」
「……!?」
「白布くんに好きって思ってもらえたら、それでいい」

ドラマみたいなロマンチックな恋なんていらない。愛想がなくても、口が悪くても、ちょっと怖くても……白布くんと一緒にいたいと思った。

「まだ、私のこと好き?」
「……」

自分が都合のいい奴だってことはわかってる。白布くんが意を決してしてくれた告白に対して即答できなかったくせに、他の男の人と比べてようやく結果が出せたなんてずるい女だ。

「そう簡単に忘れられるわけねーだろ」
「……」
「最初連絡するのにもすげー躊躇ったし、乗る電車も名字に会いたくて合わせたし、天童さんとのツーショットが送られてきた時はめちゃくちゃ焦った」

今思い返してみればそういうことだったんだと思う。ポーカーフェイスに見えて、実はいろいろと私のことで悩んでくれていたのだとわかるとどうしようもない気持ちがこみ上げてきた。好きな人が私のことを考えてくれるってだけで、どうしようもなく愛おしい。

「歩くペースも合わせられねーし優しい言葉もかけられねーかもしれないけど…… 名字のこと、好きだから」
「……うん」

器用じゃなくていい。白布くんが私のことを好きでいてくれる……その事実さえあればいい。

「付き合ってくれんの?」
「うん、好き」
「!」

私がまっすぐに好意を伝えると、白布くんのポーカーフェイスが崩れて顔がほんのり赤くなった。

「……見んなバカ」

可愛いなあと見てたらおでこを小突かれた。小突かれようが、「バカ」と罵られようが、そんな赤い顔されたらノーダメージだ。これからは白布くんのぶっきらぼうな言葉に怯えることはない。その言葉の裏に隠れている愛情が、私には見えるから。



( 2019.3-4 )
( 2022.8 修正 )

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