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02

 
先日の白布くんとのお食事は意外と楽しかった。私が思っていた程白布くんには嫌われていないのかもしれない。間が持つかとか心配したけど、地元が同じだからか話題は不思議と尽きなかった。小学校の時の担任が今校長先生になってるとか、中学の時ヤンチャしてた男の子が真面目に働いてるとか。落ち着いて話ができたおかげで白布くんに対する苦手意識はかなり払拭できたと思う。

「名字」
「あ、白布くんおはよう」
「おはよ」

通学に同じ電車を利用しているからか、最近では電車でよく会うようになってきた。白布くんは東北大学に通っている。頭が良いところだ。そういえば高校は白鳥沢に行くって人づてに聞いて驚いた記憶があった。元々頭は悪くなかったけど、県内有数の進学校を狙える程ではなかったはずだ。そのこともこの前話題にあがって、バレーで憧れの人と一緒にプレーしたいって思ったからだと教えてくれた。白布くんにそんな熱血な一面があったなんて意外に思った。

「そういえばさ、野球部の西島くんって覚えてる?」
「……覚えてるけど」
「昨日合コンしようって連絡きてさ。なんかチャラくなってて残念」
「は? 合コンすんの?」
「今回は遠慮しようと思ってる。中学の同級生と合コンってなんか気まずくない?」
「同級生じゃなきゃいいの?」
「うーん……私合コン行ったことないから、一度は行ってみたいかも」
「行く必要ねーだろ」
「いやいや、大学って思ったより出会いなくない?」
「……」

ついさっきにこやかに挨拶したはずなのに、白布くんの眉間にシワが寄ってしまった。合コンにあまりいいイメージを持ってないみたいだ。
でもモテない人間はそういう場に積極的に足を運ばなきゃ一生恋人なんてできない。待ってるだけじゃダメなんだよ、来てくれる人なんていないんだから。

「今日バイト?」
「ううん、今日はサークル」
「サークル何やってんの?」
「ダンスサークル」
「ふーん……新体操やってたもんな」
「! うん」

友人にはどんくさい私がダンスサークルなんて似合わないと言われたけど、白布くんはすんなり受け止めてくれて少し驚いた。私が小学生の時新体操をやってたというどうでもいい情報を覚えていてくれたことに少し感動した。

「白布くんはバレーやってるの?」
「いや、大学ではやってない」
「そうなんだ。白布くんが試合してるとこ見たかったなあ」
「……」

白鳥沢は勉強でも有名だけど、バレー部が強いことでも有名らしい。白布くんが憧れて当時一緒にプレーをした「牛島さん」はプロの道に進んだと教えてくれた。「牛島さん」のことを話す白布くんはどこか自慢げで、少年みたいで可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

「サークル何時まで?」
「20時までだよ」
「その後飲み行ける?」
「え……うん」
「……また連絡する」

今日の夜飲みに誘われたところで東北大学最寄りの駅に到着してしまった。
2回目のお誘いを受けて、前回否定した仮説がまた浮上してきた。昔はどうか知らないけど、少なくとも今は嫌われてるわけではないとわかった。嫌いなわけではなくて、これはむしろ……いや、結論を焦ってはいけない。今日飲みに行って、それから考えよう。


***(白布視点)


「よォ白布〜」
「……」
「っておい無視すんなよ!」

電車を降りて駅のホームを歩いていると背後から瀬見さんに声をかけられた。振り返って見えた表情がかなりニヤニヤしていたから嫌な予感がしてスルーしようとしたけど、追いかけられて捕まってしまった。

「見たぞ〜〜彼女?」
「……違います」
「じゃあ好きな子かー! へー!」
「……」

瀬見さんとは同じ大学だ。同じ電車に乗り合わせていてもおかしくない。多分俺が名字と話していたのを見ていたんだろう。ニヤニヤした表情から、俺をからかってやろうって魂胆が見え見えだ。

「可愛いじゃん。いけそうなの?」
「ほっといてください」
「なんだよつまんねーなーあ!」

つまらなくて結構。よくわからない英語がプリントされたTシャツを着ている瀬見さんに恋愛相談をすることは一生ない。俺は完全スルーに徹して、名字に送るメッセージの文面を考えた。

名字は俺の初恋の人だ。きっかけは忘れたけど小学生の時のことだし大した理由は無いんだろう。その時の俺は好意を表に出すのが恥ずかしくて、つい「可愛くない」とか「むかつく」とか、思ってることとは真逆の悪態をついてしまっていた。まさしく"好きな子をいじめちゃうガキ"だったわけだ。
そのせいで名字からはあまりよく思われていなかったと思う。中学では同じクラスになることもなかったからすっかり疎遠になって、別々の高校に進学して、それっきりだった。
小学生の時から今の今までずっと名字のことを想っていたわけではない。しかし先日の成人式ですっかり大人っぽくなった名字を見て、かつてない程に胸が騒いだのを感じた。"初恋の人"っていう贔屓目があるのは否めないけどすごく可愛いと思った。そう思ったのは俺だけではなかったようで、他の同級生の口からも名前があがっていた。それを聞いて面白くないと思った。

酒が入ってたせいもあってつい勢いで「連絡する」なんて言ってしまって、それから一発目に何て送ればいいのか悩んでいたら1週間が過ぎていた。
俺が意を決して送ったショートメールの返事が来ないまま、翌日電車でスマホを弄る名字を目撃してしまった。シカトされたのかと内心ショックを受けていたら俺と同様返事の文面に悩んでいたと言われて悪い気はしなかった。
トークアプリの操作を説明してもらった時は距離が近くて心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。思春期の中坊かよって自分でも思うけど、思春期真っ盛りの時期にそういった経験をしてこなかった俺に耐性なんて無かった。

その後はすぐに連絡をとってご飯に誘うことができた。断られなくて良かったと内心ほっとして、それから女子と飯食いに行くってどこに行けばいいんだという問題に直面した。いろいろとネットで検索して最終的にパスタに辿り着いて、仙台駅周辺で美味い店を探してそこに行った。
名字の何気ない「(パスタが)好き」という発言にさえ過剰に反応してしまった。ポーカーフェイスには多少自信があるけど、名字に緊張が伝わっていないか心配になる。パスタを食ってる時も何話したかよく覚えていない。名字が今通ってる大学のこととかバイトのこととかは覚えてるけど中学の同級生の話とかはもう忘れた。

会話の中で名字が木曜日以外は毎日一限から授業があると聞いてから、俺はその時間に合わせて電車に乗るようになった。朝のほんの10分くらい。たったそれだけでも名字と過ごす時間は大事に思えた。
顔を合わせる回数を重ねていくちに、名字の俺に対する苦手意識もだいぶ薄れたと思う。なかなか合わせてくれなかった視線が徐々に俺に向けられるのを実感して嬉しかった。
しかし悠長にもしていられない。名字のことを狙ってる奴は他にいるかもしれない。好きだと伝えられずに後悔するのはもう嫌だ。



( 2019.3-4 )
( 2022.8 修正 )

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