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01

 
「清水くん東大だって! すごいよねー」
「へーすごい!」

一生に一度の成人式。何か月も前から振袖と美容院の予約をして、私も人並みに精一杯おめかしをして臨んだ。小・中の同級生と会うのは実に5年ぶりくらいだ。一部の仲の良い友達とはたまに会ったりしていたけど、中学ぶりに会う同級生の中には大きく変わってる人もいて新鮮だった。坊主だった野球部の男の子が髪の毛を伸ばしていたり、大人しかった女の子が派手になっていたり。
私自身あまり変わった自覚はなかったけど、久しぶりに会う人は「可愛くなった」と褒めてくれた。美容師さんが施してくれたお化粧のおかげな気がする。覚えたてのアルコールも入って私は上機嫌で2次会の席を楽しんでいた。

「トイレ行ってくる」

2次会もそろそろいい時間だ。騒がしい宴会場から涼しい廊下に出ると現実に引き戻された。そういえば冬休みの宿題として出されたレポート、まだ手を付けてなかった。

「名字」
「! 白布くん……?」
「ん」

トイレに向かう途中のベンチに白布くんが一人座っていた。髪型が変わってなかったからすぐにわかった。
白布くんは……正直苦手だ。小学生の時、よく意地悪されたのを覚えている。お気に入りのヘアピンを可愛くないって言われたり、トカゲを見せられたり。中学に入ってからは同じクラスになることはなくて疎遠になったけど、たまに廊下ですれ違う時はビクビクしていた。その時の記憶がまだ残っていたせいで変に緊張してしまう。だって、白布くんに話しかけられたのなんて小学生ぶりだ。

「……どこの大学行ってんの?」
「宮城教育大学……」
「ふーん……俺東北大学」
「ち、近いね」
「一人暮らし?」
「ううん、実家」

相変わらず白布くんの口調はどこか冷たい感じがする。白布くんにこんな質問されるなんて変な感じ。居心地が悪くて視線が泳いでしまう。さっきまでほろ酔いで上機嫌だったのが嘘みたいに肌寒くなってきたような気がした。

「携帯の番号変わってない?」
「え? う、うん……」
「今度、連絡する」
「えっ、あ、はい」

思わず頷いてしまったけど、白布くんが私に連絡することなんてなくない?
……とは、怖くて聞けなかった。


***
 

"ラインのID教えて"

成人式から1週間経った頃、突然白布くんからメッセージが来た。電話番号でのショートメールだ。
レポートやらサークルやらですっかり忘れていた。成人式の時「連絡する」って言われていたのを。いやでも二次会から帰った後も次の日も何も音沙汰なかったから、なんだ社交辞令かって納得したのに……まさか1週間後に来るなんて。昨日の寝る直前に気づいて、返事に迷っているうちに寝落ちしてしまった。
そして翌朝、寝坊した私はなんとか朝一の授業に間に合う電車に乗り込んで、いつものようにスマホを取り出したところで思い出した……白布くんのメッセージに返事をしていないことを。幸いショートメールなら私がメッセージを見たことはバレない。昨日は途中で寝落ちしてしまったけど、この電車を降りるまでには返事をしよう。

「……」

文面を考える前にまずIDを教えてもいいものかと悩んでしまう。別に白布くんに害があるというわけではないんだけど……トークアプリ特有の"既読がつく"という機能が怖い。別に相手が友達や家族ならそこまで気にしない。でも、相手は白布くんだ。今みたいに読んだくせに返事をしないなんてことがバレたら怒られそう。
そもそも白布くんがトークアプリを使って私に連絡するようなことなんてないと思うんだけどな。ん?だとしたら教えても問題ないのでは?いや、逆に言えば知らなくても問題ないじゃん。

「名字」
「……!?」

一回スマホをしまって現実逃避してしまおうかというところで名前を呼ばれて、視線を上げるとそこにいたのは白布くんだった。ご本人様の登場に心臓が止まるかと思った。
白布くんは相変わらずの無表情で驚く私を見た後、視線を私の手元に落として軽く眉間にシワを寄せた。やばい、スマホ触ってるとこを見られてしまった。

「何で返事しねーんだよ」
「あっ、いやー……」

私が言い訳をする前に怒られてしまった。怖い。

「な、何て送ろうか、迷ってて……」
「……ふーん」

 「早くしろよノロマ」くらい言われるかと思ったのに、白布くんの反応は案外普通だった。

「じゃあ今ID教えて」
「あ、うん」

実際に面と向かって言われてしまったらもう断ることなんてできない。嫌っていうわけじゃないから別にいいんだけど。

「私のID長くてめんどくさいと思うからコード読んでもらってもいい?」
「は? コード? どうやんの?」
「右上を押して……」
「……これ?」
「うん」
「……ありがと」

僭越ながら私が白布くんのスマホを覗き込んで操作を教えてあげると、白布くんは少し照れ臭そうにお礼の言葉を口にした。笑ったような気もしたけど多分私の見間違いだろう。

「じゃあ、また連絡する」
「あ、うん」

目的の駅に着いた白布くんはそう残して電車を降りていった。いったい白布くんからどんな文面が送られてくるんだろうか……私は一人静かに恐れ慄いた。


***
 

"暇な日教えて"

白布くんからの連絡はIDを教えたその日の夜に来た。トーク画面を開かなくてもわかってしまった内容に軽く手が震えた。何のために私の予定なんかを聞くんだろうか。一般的にはデートに誘うためだと期待してしまうところだけど……白布くんに限ってそれはない。胸を張って言えることではないけれど、私は白布くんに嫌われているはずだ。
あれかな、暇すぎたのかな。あまりにも暇すぎて連絡する人もいなくて、私だったらどうせ暇だろ、みたいな?暇な日を教えたところで多分「暇人だな」ってからかわれて終わりに違いない。変に身構えることもない。私は自分の予定を確認してからトーク画面を開いて、返事をポチポチと打った。

「……!」

メッセージを送信したらすぐに既読がついてびっくりしてしまった。画面開きっぱなしだったのかな。とりあえずトークアプリを終了した数秒後に白布くんからの新着メッセージの通知がきた。え、返事早い。

"じゃあ次の土曜日の夜飯食いに行こう"

白布くんから来た文面はまるでデートのお誘いみたいで見間違いかと思った。ちゃんとトーク画面を開いて確認しても間違いない……土曜日の夜、ご飯に誘われている。どうしよう。暇な日を最初に送ってしまった手前、今更行けないとか言えない。

"18時に仙台駅集合でいい?"

私が返事をする前に時間と場所まで提案されてしまったため、既読ついてしまった。早く返事をしなければというプレッシャーでスマホを持つ手が震えた。


***


「お、お待たせ!」
「……別に」

結局あの流れのまま、私は白布くんとふたりでご飯を食べに行くことになった。バイト終わりで直行して、集合場所に着いたのは5分前だったけど既にそこには白布くんの姿があった。いつからいたんだろう。待たせてしまったかな……怒ってたらどうしよう。

「……髪ボサボサ」
「えっ、あ、ごめん!」
「何で謝んだよ」

髪の乱れを指摘されて慌てて手櫛で整える。反射的に謝ってしまった私を白布くんは笑った。白布くんが普通に笑っている……白布くんってこんな些細なことで笑うような人だっただろうか。それとも白布くんが笑ってしまうほど私の髪のボサボサ具合が酷かったのかな。それはそれで女子としてやばい。

「ど、どこ行こうか」
「……パスタ好き?」
「うん好き」
「……」
「えっと……白布くんは、好き?」
「す……き、嫌いじゃないから、パスタ食おう」
「う、うん」

お互いにぎこちない会話。こんな感じでご飯行って、果たして楽しめるんだろうか。



( 2019.3-4 )
( 2022.8 修正 )

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