after1
恋人が部屋に2人きり。この状況から想像することは、大体みんな同じだと思う。
名前さんと付き合うことになって1ヵ月が経って、やっと訪れたチャンス。今日こそ、キスする。
「えっと……あ!ゲームでもやる!?スプラトーンやろ!」
「……」
そう意気込んだ俺を、彼女はあっけなく撃沈させた。
「ヘイヘイ最近どうよ、赤葦。」
「……」
木兎さんの口癖を使って話しかけてきたのは木葉さん。
ふざけてるように見えるけど、なんだかんだ気にかけてくれる頼れる先輩だ。誰と比べて、とは言わないけれど。
最近どうだっていうのはバレーのことではなくてきっと名前さんとのことだ。
「気付いたことがあります。」
「お?」
「名前さんのペースに合わせてたら何もできません。」
「ぶっは!」
たまには先輩に頼ってみようと打ち明けたら盛大に笑われた。
「笑いごとじゃないです。」
「悪い悪い。そーか、チューもできてないのか。」
「……」
「まーあのヘタレが相手だもんな。心中お察しするわ。」
あれだけの言葉で全てを察してくれるのは流石と言うべきか。
名前さんとの付き合いは俺より長い。名前さんのことを「ヘタレ」と呼ぶように、その性格はよくわかってるようだ。
「だから、多少強引にいこうと思ってるんですけど……嫌われませんかね……。」
「!」
俺だって健全な男子高校生だ。好きな人と付き合うことができたんだから、その次にも進みたいって思うのが普通だ。
そういう雰囲気になった途端逃げるのは恥ずかしいから……それはわかるけど、名前さんのペースに合わせてたらいつまでたっても進展できる気がしない。
「大丈夫だ、アイツきっと卒倒する!」
「卒倒されても、困るんですけど……。」
木葉さんはすごくいい笑顔で背中を押してくれた。
「今度の日曜日、デートしましょう。」
「!」
というわけで早速デートに誘ってみた。
1ヵ月も経つけど、部活帰りや学校帰りにしか会っていなかったから丸一日を使ってのデートは初めてだ。
「うん!」
提案すると、名前さんは嬉しそうに笑って頷いてくれた。可愛い。
「どこか行きたいところありますか?」
「え?京治と一緒ならどこでもいい……よ…。」
「……」
語尾が小さくなって、途端に赤面する名前さん。
きっと、言葉に出してから恥ずかしいこと言ってるって気付いたんだろうな。
ああもう、本当ずるい。
「名前さん。」
「っ!?」
そんな顔されたら我慢できなくなってしまう。ぐっと近づくとやっぱり名前さんは一歩下がった。
「逃げないで。」
「!」
でも今日は逃がさない。
肩をぐっと掴んで抱き寄せると、名前さんは観念したように目を閉じた。
少し震えてるようにも見える赤い唇に自分の唇を合わせる。
名前さんの表情が気になって薄く目を開けてみると、眉間に皺を寄せてぎゅっと目を瞑っていた。
「本当はデートの日にしようと思ってたんですけど……名前さんがあまりにも可愛いことを言うので我慢できませんでした。」
「……倒れそう。」
「それは……困ります。」
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