×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

08


 
「なあ及川ー、バレー部のマネちゃんって彼氏いる?」
「……は!?」

同じクラスの佐々木が突然そんなことを聞いてきた。バレー部のマネージャーは一人しかいない。さよりちゃんのことだ。

「何で佐々木がさよりちゃんのこと知ってんの?接点なくない?」
「俺は知らないよ。実はさー、俺の可愛い後輩がその子のこと好きっつーもんで微力ながら協力してやろうかなーって。俺ってマジいい先輩!」
「はあーー??」

理由を聞いたら聞き捨てならないことを言われた。どこの馬の骨ともわからない男がさよりちゃんを狙ってるとか、なんかむかつく。

「何怒ってんだよ……え、まさか及川付き合ってんの?」
「付き合ってないけど、うちの大事なマネージャーと付き合いたいんだったら俺よりいい男じゃなきゃ許さないから!」
「それは……まあ大丈夫じゃね?」
「なんですと!?」

俺たちの大事なマネージャーが好きだっていうんだったらそれなりの男じゃないと許さない。これは我がバレー部にとって重大な問題だ。


***


「2年1組のサッカー部の鶴田ってどんな奴?」
「いきなりすぎるだろ」

というわけで、部室を開けた瞬間に本題に入った。

「渡っち知ってる?」
「はい。いい奴ですよ」
「女癖悪いとかブサイクとか頭悪いとかない?」
「彼女はできたことないって言ってました」
「ブサイクでもないし、頭はどっちかというと良い方ですよ」
「うぐぐ……」

同じ2年は知っているようで俺の質問に答えてくれた。何かはっきりと嫌なところがあれば「やめとけ」ってきっぱり言ってあげられるのに。中途半端にいい奴なのは困る。

「何で及川さんが鶴田のこと知ってるんですか?」
「その鶴田って奴がさよりちゃんのこと好きらしいんだよ!!」
「へー」
「ふーん」
「そうなんですか」

俺が思っていたよりみんなの反応は薄かった。もっと食いつくと思ってたのに。

「うちの大事なマネージャーがどこの馬の骨ともわからない男に取られたらどうするの!?」
「いや、話を聞く限りいい奴そうじゃねーか」
「だな。少なくとも及川よりは」
「うっ……」

まあね、悪い奴じゃないとは俺だって思うけど、俺よりいい男なわけないじゃん。この目で直に見るまでは断固として許さない。

「あ、今まさに鶴田と古賀一緒にいます」
「は!?」

矢巾に言われて部室の窓から外を覗くと、楽しげに談笑して並んで歩くさよりちゃんと鶴田らしき男がいた。背は俺より少し低いくらい。顔はまあ確かにブサイクじゃない。むしろそこそこ良い方だと思う。俺程じゃないけど。そして何より、さよりちゃんを見る目が優しかった。

「お。爽やかでいい感じじゃん」
「俺の方がかっこいいし!」
「ハイハイ」

それでも認めたくないのはいったい何故なのか、自分でもよくわからなくなってきた。


***(矢巾視点)


「最近さ……」
「ん?」
「やたらと3年生に『彼氏できた?』って聞かれるようになったんだけど何でだろう」

神妙な顔をした古賀に聞かれたことに関しては思い当たる節があった。サッカー部の鶴田が古賀のことを狙ってるっていうのは、及川さんのおかげでバレー部のほぼ全員に知れ渡っている。3年生は古賀を可愛がっているし、進展が気になるんだろう。

「……彼氏できた?」
「てきてないよ。それ流行ってるの?」

俺もそれなりにまあ興味はある。古賀のそういう話ってあまり聞かないし、実際高校では彼氏できたことないみたいだし。そもそもバレーバカすぎてちゃんと恋愛に興味あるのかさえ怪しい。

「彼氏できそうな雰囲気はないの?」
「彼氏できそうな雰囲気……とは……?」
「急に連絡先聞かれるとか」
「……」
「やたら話しかけられるとか」
「……え?」
「え?」

具体的に例をあげてみたらちゃんと心当たりがあるみたいだ。

「でも……いやいや」
「いやいやいや」
「……ていうか何で矢巾くん知ってる感じなの?」
「だって見てればわかるじゃん」
「えっ」

本当に気付いてなかったらしい。俺も及川さんの話を聞いて初めて知ったけど、その後鶴田の様子を見てみたら確かに一目瞭然で古賀に好意があるとわかった。俺だったら女子に連絡先聞かれた時点で「もしかして」って思うのに。それが普通の反応だと思う。
野暮なことをしてしまっただろうか。いやでもこのままだったら古賀絶対気付かなかったし、むしろアシストとして評価されるべきなのでは。

「そ、そうなの……かなあ……」

やっと理解した古賀は照れたようにはにかんだ。可愛い反応だ。鶴田はいい奴だし、古賀だって少なくともマイナスなイメージは持っていないはずだ。

「で、どうすんの?」
「どうすると言われても……」
「告白されたら付き合うの?」
「……付き合うとかは、考えられないかなあ」
「……ふーん」

とりあえず付き合ってみるという考えは古賀にはないらしい。その答えを聞いて少し安心している自分がいた。なんだかんだ俺も、大事なマネージャーをとられるのはちょっと嫌みたいだ。


***(及川視点)


「古賀さん!」
「あ、鶴田くん」

自販機でジュースを買った帰り道、さよりちゃんと噂の鶴田が一緒にいるのを見つけて咄嗟に身を隠した。

「それ重くない?俺持つよ」
「大丈夫だよ」
「いいから」
「あっ……ありがとう」

さよりちゃんはごみ捨ての途中だったようで、手には2つのごみ袋。鶴田は少し強引に1つのごみ袋を奪った。誰がどう見てもアピールしている。

「部活忙しそうだね」
「うん。今度合宿あるんだって!大学生と練習試合するみたい」
「へー。じゃあ土日はほぼ部活?」
「うん、そうかも」

これは……予定を探っている。おそらくデートに誘うつもりなんだろう。

「土曜日の練習って何時に終わる?」
「18時だよ。サッカー部は何時までやってるの?」
「うちもそんくらい!」

いーや嘘だね。この前佐々木に部活終わりサイゼ行こうって誘われたけど部活の終了時間が合わなくて断ったし。サッカー部は多分17時くらいなんじゃないのかな。

「よかったらさ、今度の土曜日、部活終わった後会えない?」
「え……」

少し緊張した雰囲気が流れる。鶴田もさよりちゃんも顔が赤い。この様子だとさよりちゃんは鶴田の気持ちを少なからず察しているようだ。何この青春真っ盛りな感じ。むかつくんだけど。

「で、でも私部活終わった後みんなと一緒に練習させてもらってて……」
「待つよ」
「ほんと、遅くなっちゃうと思うよ?」
「待つ。……何時間でも待つよ」
「! う、うん」

鶴田は顔を赤くしながらも引き下がらずにさよりちゃんを真っ直ぐと見た。デートどころか、もしかして告白するつもりなんじゃなかろうか。
さすがにさよりちゃんも察したのか、少し戸惑い気味に頷いた。さよりちゃんは何て返事をするんだろう。矢巾がさよりちゃんにその気はないって言ってたけど、直接告白されたらやっぱ嬉しいし実際どうなるかはわからないと思う。最初は特別好きじゃなかったけど告白されて嬉しかったから付き合った、なんて話は周りでよく聞く。
今まで見たり聞いたりしてきた鶴田は確かにいい奴で好青年の印象がある。特別欠点も見当たらない。それでもやっぱり、さよりちゃんが鶴田と付き合うのは嫌だと思った。

「いやー、青春してるねさよりちゃん!」
「!?」
「そろそろ告白してきそうだよね」
「そ、そうなんですか!?」

俺の背後から突然マッキーとまっつんの声が聞こえた。ふたりも盗み聞きしていたらしい。それに関しては俺も同じだから文句は言えないとして、わざわざ俺越しに声かけなくてもよくない?出ていく気はなかったのに俺まで見つかってしまった。

「……どうするの?」
「えっ」
「告白されたら」
「はいとは、言えないです」

野暮だとは思いつつも聞いてしまった。さよりちゃんに鶴田の告白を受ける意思がないと確認できて安心してしまった俺は性格が悪いんだろうか。

「何で?サッカー部で爽やかスポーツマンって感じでいいじゃん鶴田くん」
「!?」
「うんうん。勉強もできるんでしょ?優良物件じゃん鶴田くん」
「!?」

鶴田の情報が予想以上に筒抜けでさよりちゃんが驚いている。その反応を見て面白がって、本当に悪い先輩達だよ。

「及川さん、私どうやって断ったら……」
「な、何で俺に聞くのさ」
「だって及川さんモテるじゃないですか」
「ま、まあそうだけどね!」

そんなこと聞かれたら「ごめんなさいでいいじゃん」と言いたいところだけど……今まで見てきて鶴田がさよりちゃんのことを本気で好きってことは伝わったから、さすがにそんなことはできない。

「まずさよりちゃんは何で断ろうって思ってるの?」
「鶴田くんのこと、嫌いなわけじゃないんですけど……」
「……」
「鶴田くんと過ごす時間より、バレー部のみんなと練習してる時間の方が大事だって思っちゃったんです」
「「「!!」」」

断る理由を聞いてみたらとんでもない殺し文句が出てきた。俺もマッキーもまっつんも、そのいじらしい想いに胸を打たれた。

「ちょ、さよりちゃんハグしていい?」
「えっ、ハイ、優しめでお願いします……」
「いやいやダメだからね!?」

気持ちはわかるけどさすがにそれはセクハラだと思う。さよりちゃんも受け入れちゃダメだから。慌ててマッキーとさよりちゃんの間に入ってふたりを引き離した。
こんなに警戒心が薄いなんて、いつ変な男にたぶらかされるかわからない。俺が近くにいるうちは目を光らせておかなければ。とりあえず今回の鶴田は俺達を超えられなかった、ってことで。

「その気持ちを素直に伝えればいいと思うよ」
「でも……」
「傷つけちゃうのはしょうがないよ。向こうもそれを覚悟で告白するんだから」
「!」
「だから、正直な気持ちを伝えるのがこっちの誠意じゃないかな」
「……はい」

それなりに告白されることは多いから、断る方も勇気がいるってことはわかる。けれど相手の真摯な気持ちに対して変にフォローしたり曖昧な返事をするのは、それこそ失礼だ。

「及川が珍しくまともなこと言ってる」
「俺はいつでもまともだよ!」



prev- return -next