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06


 
「お前、ちゃんとフォローしてんのか?」
「え、何の?」

昼休みに学食でラーメンを食べた帰りに岩ちゃんに言われた。部長として、セッターとして、部員達のフォローに関してはそれなりにしている自信がある。いったい何に対してのフォローを言っているんだろう。

「古賀のことだよ。前の彼女軽く女子達にいびられてただろ」
「あー……大丈夫じゃない?ちゃんと彼女じゃないって言ってるし」
「それでも面白くないって思う奴もいるだろうよ」
「うーん……そうかもねぇ……」

確かに俺はモテる。女子にキャーキャー言われる。そんな俺が所属する男子バレー部にいきなり女子マネージャーが入ったって聞いたら、面白くないって思う子もいるかもしれない。
正直女子の世界はよくわからないしあまり首を突っ込みたくない。逆に俺が変に首突っ込んだら火に油を注いでしまう可能性もあるから難しい。さよりちゃんを見る限りいじめとかそういうのはないと思う。

「ねえ、古賀さんって及川さんのこと好きなの?」

そんなことを話していたらまさに怪しい場面に遭遇してしまった。女子トイレの前でさよりちゃんと話しているのは、最近よく差し入れをくれる後輩の女の子だった。名前は忘れたけど顔は結構可愛かったから覚えている。
隣から「ほら言わんこっちゃねェ」とでも言うように岩ちゃんの視線が突き刺さる。そんなことを言われても、そもそもさよりちゃんは彼女じゃないんだし俺にはどうしようもないでしょうが。

「あ、いきなりごめんね。古賀さんがバレー部のマネージャーになったって聞いて……そういうことなのかなあって気になっちゃって」

岩ちゃんと立ち止まって影から様子を観察する。よく漫画やドラマにありそうな「及川さんに近付くなブス」みたいな展開ではないようだ。

「姫路さんは及川さんのことが好きなの?」
「う、うん」

さよりちゃんの質問に頬を赤らめて頷いた女の子は普通に可愛いと思った。

「可愛いよねー」
「いや、あれ完璧に牽制してんだろ」
「それも含めて可愛いってこと!」
「……」

物腰は柔らかいけど、要は「私の好きな及川さんにちょっかい出さないでね」ってことだろう。俺のことを想ってそんなことしちゃうってのがいじらしくて可愛いじゃないか。もちろん度が過ぎた場合には干渉する必要があるけれど。

「好きじゃないよ」
「そっか、よかったあ!及川さんかっこいいから心配だったんだ」
「うん、かっこいいよね」
「うん!バレーしてるとこすっごくかっこいいの! この前の試合もかっこよかったなあ」
「応援来てくれたてんだね」
「毎回行ってるもん!サーブすごかったよね!」
「うん、調子良さそうだったよね。あと2セット目のマッチポイントでのツーは流石だと思うし……」
「へっ?」
「京谷くんに集めた後に国見くんのバックアタックを使うところか、すごいよね」
「そっ、そそ、そうだね!?」

毎回来ていると自慢気に話し始めた女の子だったが、さよりちゃんのガチな感想についていけず最終的にはタジタジになってしまった。隣で岩ちゃんが軽く噴き出したし、俺も笑いを堪えられなかった。本当、さよりちゃんってツワモノというか単なるバレーバカというか……

「……で?何照れてんだよ及川」
「だって……あーもう!普通に嬉しいじゃんか!」

不意打ちの褒め言葉に俺は柄にもなく赤面してしまった。


***(夢主視点)


「俺も告白されたい」
「……どうしたの、急に」

今日は土曜日の一日練習。午前の練習が終わって体育館のエントランスでお昼ごはんを食べていると、矢巾くんが何の脈絡もなしに言い出した。せっかく渡くんとリベロトークで盛り上がっていたのに。

「俺中学ではまあ、差し入れ貰ったりたまに告白されることもあったんだよね」
「あ、そうなんだ」
「でも高校入ってから全然そういうのなくなった。何でだと思う?」
「……?」

いきなりクイズを出されて、ちょっと考えても答えは全然わからなかった。矢巾くんはかっこいいし意外と真面目なところがあるから、好きになってくれる女の子はいると思うのになぁ。

「及川さんがいるからね」
「そう、それ」
「うん?」

答えられないでいる私の代わりに渡くんが正解した。その答えを聞いてもピンとこなかった。どういうことだろう。

「ほら、及川さんの方がかっこいいから女の子みんなそっちに流れちゃうんだよ」
「説明するなよ空しくなるから……!」
「なるほど」
「なるほどって何だよ!」

なんとなく渡くんが言った意味がわかった。確かに青城の女の子の多くは及川さんに夢中だから、なかなか他の人に目が向かないのかもしれない。

「古賀ってそこらへんどうなの?」
「え? どこらへん?」
「彼氏いんの?モテんの?」
「彼氏いないしモテないよ。わかるでしょ」
「わかんねーじゃん。好きな人は好きそう」
「何その言い方……」

正直そこまで興味のない話題だったのに私にまで飛び火してきた。私なんかがモテるわけないのに、いちいち聞かないでほしい。

「好きな人もいないの?」
「いないよー」
「面白そうな話してるね、お前たち」
「!」
「俺も混ぜてよ」
「俺も気になる〜」
「よっこいしょっと」

3人で話してるところに及川さんと花巻さんと松川さんが混ざってきた。3人ともお昼ごはんはもう食べ終わったみたいだ。花巻さんが持ってるポッキーは食後のデザートに違いない。見ていたら「ほい」と差し出されたからありがたく頂戴した。

「で? さよりちゃんの好きな人の話?」
「それはいないってことで終わりました」
「ふーん。じゃあどういう人がタイプなの?」
「えっ……」
「え?」

好きなタイプを聞かれてすぐに答えが出なかった。友達と恋バナをする時は専ら聞いてるばかりだったから、ちょっと考えてみても特にコレという条件は思い浮かばない。

「タイプ……」
「え、嘘でしょ?好きなタイプくらいすらっと出てくるでしょ」
「みなさんはすぐ出てくるんですか?」

何て答えたらいいかわからなくて悩んでいたら、みんなから若干引かれた目で見られた。好きなタイプって普通パッと出てくるものなんだろうか。

「俺は素直で可愛い子!」
「俺はからかい甲斐のある子」
「俺は素直じゃない子」
「ほ、ほう……。矢巾くんと渡くんは?」
「俺は普通に可愛ければイケる」
「うーん、優しい子かなあ」
「矢巾くん、渡くんを見習って」
「好きなタイプすぐ出てこない奴に言われたくない」
「う……」

聞いてみればみんなそれぞれ多様な好きなタイプを教えてくれた。確かにかっこいい人や優しい人は素敵だなと思うけど、だからといって好きになるとは限らない。今まで好きになった人を思い返してみても共通点は見つからなかった。

「え、本当にないの?」
「……バレーの話はしたいです」
「……」
「ぷっ……いいねー!俺さよりちゃんのそういうとこほんと好きだわ!」
「それだとバレー部はみんな可能性あるってことになるけど」
「あ、そうですね」

どうしても譲れないところ、という観点で考えて絞り出した私の答えは笑われてしまった。私的にはけっこう重要なことなんだけどな。もし仮に恋人ができた時、バレーの話が全くできなかったらつまらないと思う。

「てかさよりちゃん彼氏いたことあるの?」
「な、何なんですか……!」
「照れちゃってさよりちゃんかわい〜」
「可愛くないです!」
「まあまあカリカリしないで。ほらポッキーカリカリしましょうねー」
「あむ」
「ぎゃんかわ」

今までに恋人がいたことはないし、残りの高校生活でできる気もしていない。別にそのことに関して焦りはない。今は部活のこの時間が楽しくて、好きだし。



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