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13


 
東京観光2日目。午前中に浅草に行って、午後は再び会場にやってきた。今日は岩泉さんが見たいって言っていた梟谷を見ようと思って来たのに、私はその隣のコートの井闥山のプレーに夢中になってしまった。正確には井闥山のリベロのプレーに、だ。高校男子バレーでナンバーワンリベロと評価されている古森くん。彼の動きは決して目立ったものではなかったけれど、同じポジションだからこそわかる凄さがあった。味方スパイカーの邪魔をしないしなやかな動き、そして何より洗練されたディグに私は釘付けにされてしまった。

「おっ、メン子ちゃんや」
「今日はどこ見とったん?」

すごい試合を見させてもらってほくほくとエントランスまでの通路を歩いていると、前方からやってきた宮兄弟と鉢合わせた。昨日の今日でさすがに間違えない。私のことを「メン子ちゃん」と呼んだのが宮侑くんで、おせんべいを片手に持っているのが宮治くんだ。もうメン子ちゃん呼びは甘んじて受け入れることにする。そこまで嫌じゃないし。

「井闥山見てた!」
「あー、佐久早クンのとこなー」

佐久早くんといえば、宮城の牛島さんとともに全国3本の指に入るスパイカーだと言われているうちのひとりだ。確かに試合を観ていても佐久早くんはスパイクでもサーブでもかなり得点を稼いでいたし、守備でも活躍していた。

「あ、ほらあそこにおる」
「!」

宮侑くんが指差したのはエントランスにさしかかる柱。そこに寄りかかっていたのは確かに佐久早くんだった。あんな隅っこで何してるんだろう。

「ちょお声かけてこ。メン子ちゃん紹介したる!」
「え、いや……」
「佐久早クーン」

別に紹介しなくていいんだけど、と遠慮する前に私は宮侑くんに引っ張られてしまった。強豪校同士、仲が良いんだろうか。そう思ったけど、宮侑くんに名前を呼ばれてこちらに気付いた佐久早くんはものすごく嫌そうな顔をした。


***(古森視点)


客席の出入り口付近でスマホを拾った。全国各地から人が集まっているこの場所で、このスマホが誰のものかなんてもちろんわかるわけがない。落とし物を拾ったら事務室に届けるのが定石だ。どうせ今からエントランス向かうしちょうどいいや。

「!」

個人情報の塊であるそれをあまり見ないように手に取った瞬間、ブルブルと震えて誰かからの着信を伝えてきた。他人のスマホを操作するなんて憚られるところだけど、この場合持ち主がスマホを探すために鳴らしている可能性があるから俺は通話ボタンを押した。

「もしもし……」
『は!? 誰!?』

開口一番、電話口の相手にすごい圧をかけられた。この感じだと電話をかけてきたのは持ち主ではない。ややこしいことになってしまった。

「このスマホ落ちてたんですよ。今から事務室に届けます」
『本当に……?てかキミ誰?宮侑?』
「井闥山の古森です」
『井闥山……キミもうちのマネージャーにちょっかい出してんの?』
「いやいや、知らないっす」

どうやらこのスマホの持ち主はどこかの学校のマネージャーらしい。そして電話口の「及川さん」っていう人はその人のことが好き、もしくは付き合っているんだと察した。とりあえず事務室のあるエントランスの方に向かいながら冷静に誤解を解く。

「!」

相手がようやく俺が親切な通りすがりAだと理解してくれたところで、宮兄弟と一緒にいる聖臣の姿を見つけた。珍しい組み合わせだ。何度か対戦してるから面識はあるけど、聖臣は正直宮みたいなタイプは得意ではない。疎ましいくらい思ってそうだ。そんなでかい男3人の中に見知らぬ女子がひとり紛れていた。なんとなく直感で、あの子がスマホの持ち主かなと思った。

「マネージャーさんって身長低めでショートヘアですか?」
『え、うんそうだけど……』
「ちょっとビデオ通話にしますね……あの子っすか?」
『はああ!?』

当たりのようだ。宮兄弟と聖臣の間にいる女子をスマホに映すと、わかりやすく狼狽える声が聞こえた。確認はとれたし、ちょっとめんどくさそうだから通話は切って合流することにした。

「おっすおっすー」
「……おせぇ」
「あの、スマホ落としてましたよ」
「え……あ、私の!ありがとうございます!!」

早く帰りたがっている聖臣には気付かないフリをして、まずスマホを女子に渡すと深々と頭を下げられた。

「でも何で私のだってわかったんですか?」
「彼氏さんから電話きてましたよ」
「え?」
「及川??」
「あ、及川さんは彼氏じゃないです」

まあなんとなくそんな気はしていたけど、顔を赤くすることもなく平然と否定したのを見て「及川さん」の気苦労を察した。そして宮達は「及川さん」のことを知っているみたいだ。有名な選手なんだろうか。

「帰るぞ」
「おー」
「あ、あの……!!」

用件は済んだし聖臣も帰りたそうだし、そのまま会場を出ようとしたらジャージの裾をくいっと引っ張られた。少し体勢を崩されながら振り向くと、真っ赤な顔で見上げられていてドキッとした。

「さ、さっきの3セット目マッチポイントでのレシーブ、すごかったです……!!」
「……は?」
「あの、相手のアタッカーがブロック振り切ってのクロス……」
「あ、ああアレね。読みが当たったヤツだ」
「あと、ツーも何回か読んでましたよね」
「アレはセッターがわかりやすかった」
「それから……」

まるで告白をするかのような顔でガチめの感想を伝えられて、顔に感じた熱が一気に冷めた。一瞬のときめきを返してほしい。


***(及川視点)


「随分お楽しみだったみたいだねえ、さよりちゃん」
「はい! 楽しかったです!!」
「……」

東京から帰ってきたさよりちゃんはご機嫌だった。全国レベルの試合はとても勉強になったし刺激を受けたと聞いてもいないのにお喋りが止まらない。その様子を見て面白くないと思う。

「ちょっとさよりちゃん座って」
「え、はい」

売店のTシャツの種類が豊富だとか、とにかく井闥山のリベロがすごいとか、今はそんなの心底どうでもいい。俺が怒ってることに全然気付いていないさよりちゃんをその場に座らせた。

「まず第一に聞かなきゃいけないんだけど、何この写真」
「あ……稲荷崎の宮くんです」
「名前は知ってる」

色々聞きたいことはあるけれどまずはコレだ。昨日様子が気になって連絡したら、さよりちゃんらしからぬハートマークがついた文章と宮侑とのツーショットが送られてきた。すぐに電話をかけて確認すると宮侑に勝手に操作されたんだと説明された。数年前から全国常連校となっている稲荷崎は兵庫の学校だから、宮城生まれ宮城育ちのさよりちゃんと知り合いのはずがない。

「何でこんな仲良さそうなの?」
「電車で助けてくれて、それで……」
「それだけでツーショット撮る程仲良くなる?」
「それは宮くんが勝手に……」
「は? 言い寄られてんの?」
「はい?」

当日知り合った人と普通ツーショット撮る程仲良くなる?インカメで撮ってるからそれなりに距離が近いのがむかつく。宮侑といえば今注目されてるセッターだ。イケメンでサーブが強烈って、俺とキャラ被ってるのもまたむかつく。更にスマホを落とした時には井闥山の連中とも絡んでいた。何でさよりちゃんってこうバレー関係者に近づかれやすいわけ。むかつく。

「彼氏でもないのにうざーい」
「ちゃっかり写真保存しててきもーい」
「!!」

さよりちゃんに説教をしていたらマッキーとまっつんと岩ちゃんが現れた。

「どう?東京楽しかった?」
「はい!すごく楽しかったです!あっ、岩泉さんが好きそうなTシャツ売ってました!」
「そーか」

そして俺を除け者にしてさよりちゃんを囲んで盛り上がり始めた。最近こういうのがいつものパターンになってきた気がする。

「春高は、みんなと行きたいなあ」
「「「!!」」」

軽くいじけていたらさよりちゃんが不意打ちで可愛いことを言ってきた。ずるい。そんなことはにかんで言われたら、さっきまでのイライラがどっかに行ってもうきゅんきゅんが抑えられない。頭撫でてあげたい。

「さよりちゃ……」
「うんうん一緒に行こうね」
「ぎゃんかわ」

さよりちゃんの頭に伸ばした手はまっつんの肩に邪魔をされ、マッキーがよしよしとさよりちゃんの頭を撫でた。このヤロー。



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