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ある日、さよりちゃんから部活を休むと連絡がきた。急な欠席連絡なんて珍しい。風邪でも引いたんだろうかと思って理由は特に聞かなかったけど、翌朝さよりちゃんの姿を見て愕然とした。

「!?」

松葉杖をついている。え、うそ、どういうこと?知らない男子生徒が一緒に登校してるってとこも気になる。俺は迷うことなくさよりちゃんに駆け寄った。

「さよりちゃんどうしたの!?」
「おはようございます。実は昨日、階段でつまづいて転んでしまって……」
「捻挫?骨折?」
「捻挫で、全治2週間です」
「そう……」

さよりちゃんの華奢な足首に巻かれている包帯が痛々しい。捻挫は骨折より軽傷とされているけど、こじらせる場合もあるし後遺症が残る場合だってある。捻挫だって軽く見ることはできない。

「部活はちゃんとお手伝いしますから、大丈夫です」
「……そういう心配をしてるんじゃないの」
「いてっ」

マネージャーの仕事が滞るとか、そういう心配はしていない。見当違いなフォローをするさよりちゃんのおでこを小突いた。

「さよりちゃんはこれから選手としてやっていくんだから気を付けないと」
「……はい」

せっかく大学でバレーをやるって決めたのに、こんなことで後遺症や違和感が残ったら勿体ない。綺麗に完治するためには周りのサポートが必要だ。俺はもちろんだけど、バレー部全員でサポートしてあげないと。

「……で、彼は?」
「友達の平野くんです」
「ど、どうも」
「どうも。何で一緒に登校してんの?」

ひと段落したところでさっきからずっと気になっていたことを聞いた。誰だよこの男。大人しそうな雰囲気だけど牽制しておくに越したことはない。

「す、すみません、古賀が怪我したの俺のせいなんです」
「そんなことないってば!」

話を聞いてみると、昨日の放課後、クラス全員分のノートを持って階段を降りるさよりちゃんに声をかけたところ、さよりちゃんはびっくりして足を滑らせて転んでしまったらしい。
なるほど、その罪悪感から鞄持ちをしてくれてるってわけね。経緯を説明する平野くんは本当に申し訳なさそうで下心は感じられない。いい奴なんだろうけど……まあ気に食わないことには変わりない。

「帰りは大丈夫?古賀部活何時まで?」
「大丈夫、帰りは俺が送るから」
「え、でも……」
「さよりちゃんは大事な……マネージャーだからね」
「!」

本当は「大事な女の子」って言いたいところなんだけど、まだ我慢。


***


「大丈夫?」
「はい、すみません」

部活帰り、足を捻挫したさよりちゃんを家まで送ると申し出た。怪我をしている間は電車で通学するらしい。松葉杖での移動にまだ慣れていないようで少しの段差を超えるのも大変そうだ。
手と腰を支えて電車に乗り込んだ。もちろん怪我の心配はしてるけど下心が全くないって言ったら嘘になる。こうやって好きな女の子の傍にいられることは素直に嬉しい。岩ちゃんや矢巾達に根回ししてふたりきりにしてもらったわけだし。

「……空いてないね」
「何か掴める物があれば大丈夫ですよ」

座らせてあげたいけど、残念ながら座席は満席だった。時間帯的に仕事帰りのサラリーマンと部活帰りの学生が多く乗っている。次の大きい駅までは無理そうだ。

「……さより?」
「! 賢ちゃん!」

入り口付近の広いスペースで落ち着いたところでさよりちゃんの名前を呼ばれた。手すり近くの端の席に座っていたのは白鳥沢のセッターだった。そういえば幼馴染だって言っていた。親しげな呼び方が少し引っかかってモヤっとする。

「怪我してんの?」
「うん、ちょっと挫いちゃって……」
「……どんくせェ」

幼馴染が怪我したっていうのにその言い方はちょっと冷たいんじゃないか。コートの外では話したことなかったけど、試合中の印象とあまり変わらないらしい。

「ここ座れば」
「あっ……ありがとう」

と見せかけてツンデレかよ。愛想はないけどしっかり幼馴染のことは気遣っているみたいだ。

「……どうも」
「どうも」

さよりちゃんの鞄を持つ俺と目が合うと、幼馴染くんは軽く会釈をした。

「……付き合ってんの?」
「え? ううん、送ってくれてるの」
「ふーん……」

あっさりと否定されて多少ショックだけど事実だから仕方がない。まだ、ね。まだ付き合ってはいない。
こっそり肩を落とした俺に幼馴染くんは意味ありげな視線を送ってきた。多分俺がさよりちゃんに好意を持ってるってことはバレただろう。別に隠すつもりもないからいいんだけど。

「家近いんで、今日は俺が送りますよ」
「は?」
「そっか。及川さん、賢ちゃんがいるから大丈夫です」
「えっ!?」

さよりちゃんが俺を気遣って言ってくれてるのはわかっている。確かに近所に住む幼馴染がいるのなら俺はお役御免なのかもしれない。でも悔しいじゃんか。幼馴染くんはネットを挟んでツーを決めた時のような意地の悪い笑みを浮かべてるし。

「遠回りさせちゃってごめんなさい。帰ってゆっくり休んでくださいね」
「……わかった。気を付けてね」

しかしここで駄々をこねるのもかっこ悪い。こんなふうに俺を気遣ってくれるところも好きだと思う。今日のところは大人しく帰るとして、明日からは自転車で来て送るようにしよう。


***


「今日俺自転車だから後ろ乗ってきなよ」
「え……及川さんとの二人乗りは目立ちそうなので遠慮しときます」
「……」

翌日、自転車の二人乗りはきっぱり断られた。



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