イルミ×少女 (26/27)


【少女とイルミ】

この廃墟ビルの屋上に来るのは何度目だろう
『死にたい』そう思ったのは今日だけじゃない
生きてきた15年間、
常にそんな考えがまとわりついてきた

父はいない。美しい母は私を疎み蔑む。
中学生になった頃から母に似た容姿に
男からは品定めのように見られ
女からはイジメの対象となった

家でも外でも自分の居場所はない

手すりに手をかけ
下を覗き込み溜息をつく
結局あと数歩踏み出せない

「ねぇ、いつ死ぬの?」

自分だけだと思っていた空間に
別の誰かの声がした事に驚き
後ろを振り返り辺りをキョロキョロと見回すが
誰もいない

幻聴か...と前を向き直すと
さっきまでは絶対にいなかった
綺麗な黒い髪の毛を靡かせ人が立っていた

驚きのあまり声を出せずに
目を見開き凝視する輝きがない目に
綺麗に整っているのに表情がない顔

「幽霊・・・?」

「オレが?ふざけてんの?」

表情は変わらないが不愉快そうな物言いに
怒っているのが伝わった
どうやら幽霊ではないらしい
オレと言った事から男性だとわかる
さっき聞こえてきた声と同じだ
幻聴じゃなかったみたいだ

「ごめんなさ、い」

なんとなく雰囲気で謝ってしまう

「で、いつ死ぬの?」

この人は私が死にたくてここに
来ていることを知ってるらしい
生死に関わることなのに平然と聞いてくる

いつ死ぬのかなんて私が知りたい

「・・・わかりません」

「死んでどうするの?」

自殺を止めているわけでもなさそうで
一体何を考えてきるのか全くわからない

「・・・自分じゃなくなりたい。
私を知ってる人の前からいなくなりたい。」

こんな世界から逃げ出してしまいたいのだ
それが弱いと言われても

「ふーん」

男の人を見ると一瞬
口角が上がった気がしたがすぐに消えた

「じゃ、とりあえず飛び降りなよ。
飛び降りたらお前じゃなくなるんでしょ?
そう思ってるなら好都合だし。
そろそろ我慢の限界だったんだよね。
早く飛んでくれる?」

「え、?」

何を言ってるのかわからない
強く手を掴まれ物を動かすように
体が持ち上がり男の人がいる
手すりの外に出される

トン、と軽い衝撃がしたかと思うと
もう逆さまに落ちていく

チラリと見えた男の人はどこか満足そうだ


まぁ、いいか
そんな考えが浮かび目をつぶる

風邪が気持ちいい

あの人は死神だったのかもしれない
死ぬを手伝ってくれたんだろう

このまま自分は死ねるのだ


ふわっと体が浮いた気がして目を開けると
地に足がついている

「あ、れ?」

確かに自分は押されてビルから
飛び降りたらはずなのに
地面を踏みしめていると
急に顎を掴まれ上を向かされた

見上げた先にはさっきの男の人がいる

「はい、飛び降りてお前は死んだ。
これでいい?」

「え、あの、」

「これで、飛び降りる前のマリは死んだ。
今からは違うお前。そうだなー
名前はアラタね。」

「私の名前知って・・・?」

「マリって名前?あぁ、念のため調べた。
お前の事はお前以上に知ってる。
でも、マリは死んだから関係ないか」

この人が何を言ってるのかわからず
呆然としていると顎からは手を離され
今度は横抱きにされ抱えあげられる

トンと地面から浮いたかと思うと
凄い勢いですぐにビルの上まで行き
ビルからビルへと飛び移る

恐怖と驚きで声も出せず
ギュッと男の服を掴む

「何?怖いの?」

こくこくと頷くと
ふーんとだけ返ってきて
そのままビルの間を飛んでいく

「あ、オレはイルミ=ゾルディック。
今日からお前はオレのものだから。
死んだユウを拾ったのは
オレだし拒否権はないから。」

「え、?」

ゾルディック...一般人の私でも知ってるくらいの
有名な殺し屋一家だ
そんな人に私は抱えられてる
少し手が震えた

「アラタを殺す依頼なんか受けてないよ。
殺しても誰も得しないでしょ」

震えてる手に気が付き何を勘違いしたのか
そう言ってくるイルミさん
この人の中にはデリカシーって言葉はないらしい

殺し屋に抱えられどこかに
連れていかれている恐怖に意識は途切れた


目が覚めると広い部屋のベッドの上だった

「やっと起きた」

「きゃぁっっっ!」

「寝すぎ。
ここオレの部屋。
アラタの仕事は
オレ専属の召使いってとこ」

「あの、」

「何?」

「イルミさん
状況が理解できないです、」

「アラタを知ってる人の前からいなくなりたいって
言ってた願いを叶えただけ。
ここなら誰もアラタを知らないでしょ?
アラタを傷つけるものからオレが守ってあげる。
そのかわり今日からオレの召使い。わかった?」

頭はまだまだ混乱しているが
今日からここで働くらしい
今までの私は死んだ
今日からアラタという名で
生きていくことだけはわかった

名を捨てただけなのに
心はとても軽くなった

「よろしくお願いします!」

イルミさんは頭を撫でてくれた

今まで頭を撫でられた記憶なんてない
ふわふわとした気持ちが胸に広がっていった

◇◇◇

もう1度アラタを寝かして
その寝顔を見つめる
起きている時は大人びた顔をしているのに
寝ていると年相応に見える


今日、初めて声を聞いた時も想像以上に
可愛い声だった
この声はベッドの上ではどう啼くのか
なんて考えるとゾクゾクとした


アラタを見つけたのは偶然で
初めて女に釘付けになった瞬間だった

しばらく見ているとビルの下をのぞいていて
死のうとしているのがわかる

そして数時間そこにいて帰っていった

欲しい

そう思ったのも初めてだった
すぐにアラタの素性を調べた

母親の事もアラタの周りのことも
全てしっている

服の下がアザだらけだということも


ポンっと胸の前で手を叩く

「アラタを死んだことにするより
アイツらを殺した方が早いか」

アラタを傷つけたヤツらを消してしまおう
今すぐにこの瞬間も生きていることさえ
許したくない

すぐに帰ってくるつもりだが
ゴトーにアラタを任せ

すぐに窓かれ飛び降りて
アラタの住んでいた街へと向かった




モドル


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