最初、離れようとしないのは彼女の方だったはずだ。

「シャルナークといると安心する」と顔を綻ばせながらいつも隣にくっついてきた名前は、旅団の中で一番俺を慕っていた。歳がそこまで離れていないせいもあるが、なによりの理由は纏う雰囲気のせいでもあったと思う。
フェイタンは付き纏えば即拷問とでも言いたげであるし、フィンクスは見た目からして怖い。ウボォーやノブナガは二人でつるんでいるし、ガサツである。クロロはリーダーということもあるが、そのカリスマ的なオーラは遠くから崇めるには良くても、傍で感じていて決して心安らぐものではないことは明白だ。そうすると男性陣の中で彼女が最もなつきやすかったのは自分であったということになる。

もちろんパクやマチとも仲良くしていたようだったが、あの二人は団長に心酔しているし、団長の頼まれ事をこなしたり傍についていたりすることが多かったから必然的に彼女がずっと甘えていることはできない。
消去法と言えばそれまでだが、単なる家族愛の延長であっても彼女が自分を慕っていたのは間違いなかった。

年齢があがるにつれて腕に抱き着いてきたりというスキンシップは減っていったが、恋人になろうとすることもなく、性的なことを求めずただ傍にいたい、という純粋な欲求だけで自分に依存している彼女の存在は俺の自尊心を大いに満たした。
元々家族の顔なんか覚えていないし血の繋がった存在から与えられる無償の愛を感じたことのない自分にとって、彼女から向けられる感情は酷く心地よかった。それ故にこの気持ちを決して逃してはいけない、他の誰かにとられたくはないという感情が自分に芽生えるまでそう時間はかからなかったのだ。

彼女に向けていた感情が恋愛感情なのか否かは自分でも分からない。抱いてほしいと言われれば拒むことはないだろうが、積極的に自分から彼女とそういう関係になりたいとは思わなかった。ただし、彼女が誰かと男女の関係になっていたらと思うと決して許せなかったし、何かの間違いでも団員の誰かとそうならないよう目を光らせていたのは事実である。

適当に顔と体の良い女をひっかけて楽しむことは度々あった。フィンクスが明け透けに話すため、彼女も自分にそういう相手がいることは知っていただろう。しかし思いつく限り彼女が自分に嫉妬のような感情を向けたことはなかった。
そこに関して、自分は酷くいらついていたのだと思う。彼女が旅団から離れていこうとする一か月程前はわざとキスマークをつけて彼女の前に現れてみたりわざわざ他の女を連れて彼女に会ったりを繰り返していた。それを見たパクやマチは普段は何も口を出さないくせに「程々にしなよ」と呆れていたのだから、その時の自分は相当酷いものだったのだろう。
無論遊んだ女は全員殺しているから旅団の情報がもれる心配はないのだが、自分があんな風に遊びまわっても何も言わずにいる彼女の気を引くこと、ただそれだけで頭がいっぱいになっていたのだ。


そうして、彼女が旅団から離れたいと言ってきたのは突然のことだった。
ずっと考えていたことだと彼女は言ったし、他のメンバーもそろそろ頃合いだとは思っていたと口々に言うのを聞いて、自分には到底信じられないことだった。

確かに彼女は力もないし、特別に秀でた才能があるわけでもない。しかし誰も彼女を邪険に思う者はいなかった。何より”仲間”じゃないのか?
自分の意見などどこ知らずと言ったようにまとまっていく、彼女が離れる算段に「俺が面倒を見るから名前をここにおいてほしい」と何度も団長に頼むが、答えはNO。

挙句の果てには厄介な仕事を頼まれ数週間ここを離れることになってしまった。
出発の日、「気を付けてね」と曖昧な笑顔で手をふる彼女を何度も振り返りながらホームを後にする。
きっと帰る頃に彼女はもうここにいないのだろうという予感は見ないふりをして。


 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -